第71話 サーバルを騙しきれるか!?
公園で待ち合わせすることになった。
入場料を払って入るタイプの、アニメーションスタジオが作ったアトラクションみたいな公園で、休日の今日は家族連れやカップルなんかが多い。
あたしと明も、並んでいるとそう見えるのではないか……?
ちょっと客観的には分からないな。
「明、ちょっと近く寄って」
「はーい」
顔を寄せ合ってパシャっと一枚。
これで確認してみる。
「うーむ……。どう考えてもカップルだ」
「そりゃ、年頃の男子と女子だもん」
「でもお互いの顔が冷静なんだよな」
「そりゃ、目に見えるのが自分の顔なんだもん」
「だよなー」
明と顔を見合わせて、あははと笑った。
「おー、くっそイチャイチャしてるじゃん」
横から、かなり感じが悪い声が掛かった。
これが男だったら睨みつけるところだが、ドスの効いた女の声で、しかも聞き覚えがあるんだよなあ。
チラッと見たら、見知った顔があった。
「あ、サーバル才藤」
「おっ、少年、私のこと知ってるのね? 配信見てるー? 地下格闘技レッスルディーヴァ」
「見ました。地下アイドル時代から肉体派だったけど、体のバネを活かして格闘技であそこまで仕上げるとは……」
「ほほー、視点がマニアックでよろしい」
彼女はニヤッと笑った。
放課後プレデターズで一番の長身。
背丈は明になったあたしに、頭半分だけ届かないくらい。
黒とピンクのメッシュにした髪を腰まで伸ばし、ボディラインが分かるタイトなシャツとジーンズ姿。
アクセをジャラッと付けてるのは、ゴージャスと言うよりは攻撃的な印象を受ける。
小顔で、目つきは相変わらず鋭かった。
「ラーテルの彼氏、研究熱心じゃん」
「ええ、まあ。彼氏っつーか友達ですけど。なあ、明日奈」
呼びかけると、明がポカーンとしている。
おい、お前ーっ!
あたしがしないような表情してるんじゃなーい!
「あ、どうもー。花咲里明日奈でーす」
「はぁ!?」
明のおっとりとした反応に、唖然となるサーバル。
「こんにちははじめまし……いえお久しぶりです、才藤さん」
「……!?」
おっ!
サーバル才藤が圧倒されている!
明の凄まじいはじめまして感に!
それじゃあいかんのだけど、見てて面白いんだよなあ……。
「あんた……配信の中でキャラを作ってると思ってたけど、素でもそんな風になったの? なんていうか以前のギラギラした感じが消えて、落ち着いたと言うか泰然自若としてると言うか……」
中身別人なんすよ。
「はい。僕……私も葉月ママの薫陶を受けてキャラ変をしたんです。だから伸びたんです」
「なるほど……。それをプライベートでも続けることで、己のものにしていっているってことね。やっぱりあんた、私が知ってる明日奈のままだわ」
えーっ!?
全然違うだろー!?
自分の中で納得しちゃったよサーバル!
「それで、ここに彼氏を連れてくるってのはどういう了見? 二人で会おうって言ったはずだけど」
「彼氏じゃなくて同じ事務所の配信仲間なんです。えーと……」
「俺が頼んだんです! サーバル才藤の凄さを散々花咲里から聞かされてたんで! 興味があって!」
「……そうなの? ふ、ふーん。ほー。いい心がけだなあ……」
サーバルがちょっと……いやかなり嬉しそうだ。
地下格闘技配信で暴れているとは言っても、まだまだ前座を抜け出したレベルだからね。
そもそも、放課後プレデターズ解散から半年ちょっとでそこまで駆け上がったのが凄い。
一種の天才だとは思う。
彼女のスタイルはキックボクシングで、打撃特化。
レッスルディーヴァは急所と凶器攻撃以外なんでもありのルールだけど、サーバルはこの環境で打撃オンリーを貫いて割と勝っていた。
こう、タックルを警戒しての鋭い膝蹴りと、相手の意識外から飛んでくる長い足による一撃が代名詞みたいになっている。
まさにサーバルだ。
なお、ちょっと上位のディーヴァ(レッスルディーヴァに参加する女子格闘家はそう呼ばれてる)は、サーバルの足技をくぐり抜けてくる猛者や、キックに対応しきってパンチで攻める凄いのもいるので、サーバルが連戦連勝というわけじゃない。
ただまあ、あたしが見るに……。
今の完成度の明があそこに乗り込んだら、最上位以外のディーヴァを蹂躙しそうな気がする……。
あたしの前を、明とサーバルで並んで歩いている。
背丈はサーバルの方が頭半分くらい高い。
そして動きもキビキビしていて鋭さを感じさせる。
対して、明はなんかほわほわした歩き方だ。
余計な力みが一切無いと言うか、なんというか……。
背後から見たシルエットも、ちょっとふっくらしてるし。
あのほわほわふっくらが、配信ではキレッキレの無駄のない動きをするから驚きだ。
あと、無意識に振り回したエコバッグが超破壊力になるし。
サーバル才藤、あんたの隣りにいるやつは、とんでもない天才だぞ……!!
いや、あたしも明のボディに入ってからやたら動きやすいけどさあ。
「まるで初めて会った人間と話しているみたいだ……。花咲里明日奈、そこまで徹底して自分を追い込んでいるのか……。これは驚いたな」
いい方に取りすぎだろ?
二人の会話のキャッチボールが、あさって方向に飛んでいっているのだ。
だけど、サーバル才藤はあくまでこれは明……ラーテル花咲里が己を完全に律し、ロールプレイに徹していると考えているわけ。
あのアーカイブ見せたほうがいいかなあ……。
いや、だけど最近はあのアーカイブ見てないリスナーの方が多いって聞くしな……。
うむむむむ。
そう唸っているところで……。
「ご飯にしよう、かざ……上鳴くん!」
「お、おう!」
このメンツで、食事をすることになってしまったのだった。
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