第68話 配信教室のこだま先生
配信の開始を告げるチャイムの音。
画面に、とんがり帽子に黒髪の女の子が現れる。
※『きちゃ!』『来ました!』『せんせー!』
「はい皆さん、じゃあね、今日もこうして配信教室のこだま先生、始めて行こうと思うんですけどね」
こだま先生は、かつて議員をやっていた人物だと噂されている。
どこかで魔女になる技術を手に入れ、孫に変身アイテムを伝授したはずなのだが……その肉体は完全に魔女化してしまい、幼女から戻れなくなったのだそうだ。
議員を引退する最終日、国会に幼女姿でやって来て周囲を驚かせた記録が残っている。
多分、ここまでは設定。
その豊かな人生経験と、議員生活で培った広大なコネクションにより、様々な問題の本質を考察、見極め、リスナーに分かりやすく伝える配信が人気になっている。
なお、メンバーシップ登録をするともっとディープな裏社会の話などが聞けるらしい。
「本日はね、冒険配信者うぉっちちゃんねるの、うぉっちもんさんからの依頼を受けましてね。退魔師。これについて語っていきます。これ、私がもともと議員だったので、関わりはあるんですよ。ただ、これがまあ陰謀論として語られたものが多くてですね」
けらけら笑いながらこだま先生が語る。
その口調は少女のものではなく、老獪さをにじませた男性のようだ。
「まず、陰陽師について語りましょう。こちらはね、平安時代まで遡る。そこから江戸までの歴史はご存知の通りだと思いますけど、皇家と結びつきが強く、神道の一派として発展していました。でね、ダンジョンが来た。実はこれの歴史、長いんです。大規模なもので世間に周知されたのが40年前の異変からですけど。ダンジョンの萌芽は既に平安時代の時点であるわけですよ」
こだま先生が、古い手書きの冊子をキャプチャーした画面を共有する。
どうやら平安時代の書物らしく、綴られた文字はとても読めない。
「注釈を加えていきます。これ、宮内に怪しき影あり、追いかけるとどこまでも続く寝殿に繋がった。死んだはずの女房が現れ、誘ってくる……。それに応じた仲間は戻ってこず、悲鳴だけが聞こえた。これが最初の記録にあるダンジョンです」
※『ほえええええ』『そんなものが……!!』『そんな、どこからも聞いたことない』
「でしょう。でも、そういう書籍は出てるんですよ。ただ、これは歴史や民俗学に属する本ですからね。ダンジョンの根本解決にはなりませんし、実際出ている部数も4000部とかそんなものなので。だけど、ここで陰陽師が乗り出して、ダンジョンを解決する描写がある。それで陰陽師の後援を受けて、剣士が挑むわけですよ。後ろから楽隊と野次馬が応援すると、不思議な力を発揮して剣士はダンジョンに潜む妖物を切り裂いた。怪しい寝殿は消えてしまったということですね」
※『まんま配信だ……』『歴史なげー』『ずっとダンジョンと戦ってきたんだ……!?』
「ええ、ダンジョンは我々日本人にとって、千年の長きに渡り戦ってきた敵というわけです。そして民間でも発生するダンジョンを食い止めていたのが、退魔師。彼らは仏法の側から現れたダンジョンと戦う力でしてね。その力は、寺院の権勢が強まるに連れて高くなっていった。だが……皆さんご存知、織田信長が比叡山を焼き討ちしたでしょう。あそこから凋落が始まりまして」
※『リンクしてきたぞ』『いきなり超有名人出てきた』
「江戸の頃合いに、かの街に入り込んで勢いは伸ばしたんですが、明治維新でまたやられまして。廃仏毀釈はこれ、陰陽師と退魔師の戦争だったんですね」
次々に資料を出してくるこだま先生。
どこからそんなの持ってきたんだ、という貴重な資料が出てくる。
だが、ほんの短時間だけパッパッと見せるだけで、説明も最小限。
※『も……もっとしっかり映してくれー!』『じっくり説明聞きたーい!』
「ふふふふふ……。でしょう。実は今回の配信は、これからの配信のインデックスです。アーカイブは時間分けしておきますから、これを目次としてより深い説明が欲しい配信をコメント欄で書いて下さい。一つごとのセンテンスで、一ヶ月語れるくらいの情報量がありますから。これらの資料は、大学で教授をやっている甥に収集と分析の協力をお願いしました。いつもありがとうー」
※もんじゃ『いえいえ』『甥っ子おるw』『一族で協力してた!』
「さて、では今回の配信の締めとして、突然スポットライトを浴びた退魔師の話を。きら星かざりさんと、サンダーマスクさんの配信で彼ら退魔師の姿が明らかになったでしょう。それを見て皆さんどう思いました? なんだか古いなーとか、時代遅れだなーと思いました?」
※『思った!』『最新の配信と全然違った』『言ってることもなんかおかしい』
「そうでしょう。時代は恐ろしい速度で変化しています。40年前のダンジョン大異変前と後。霊合教の解散前と後。きら星はづきの前と後。これらのイベントで、世界は大きく様変わりしたわけです。たった40年の間に、ガラリと変わった」
40年前は私もまだ議員秘書で……とか、こだま先生が遠い目をして呟いた。
※『中の人は本当におじいちゃんなのかw!?』『毎年始めに、今年のこだま先生の設定を決める配信があるぞ』『年齢とか家族構成をリスナーからのアンケートで決めるんだよな』『何が本当で嘘なんだ……w!!』
「ま、ま、そういうことで、退魔師はほんの40年ほど、影に潜っていたんですよ。で、恐らく霊合教と接触していた一派がいる。霊合教解散で打撃を受けて、浮上できなくなり……。ハッと気付いたら時代に取り残され、なんと退魔師の中から配信者が現れた。それがこのサンダーマスクです。皆さん、注目。なお、この話はちゃんと彼の所属するファイヤ・アンド・ウインド合同会社に許可をもらっていますからね。ぜひ、彼のチャンネルに行って登録してあげて下さい。これから世界の核心に迫る配信者ですよ」
ここまで語ると、ちょうどいい時間になった。
こだま先生は軽くあくびをすると……。
「さて、老人は寝る時間になりました。妻がドラマを見始めるので、私の配信がうるさいようです。そろそろ退散するとしましょう。では皆さん、また次回の授業で。配信教室のこだま先生でした」
画面から少女が消えた。
配信終了。
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