第64話 そんな簡単に異世界に
「はあ!? かざりあんたこの一ヶ月で肥え過ぎじゃない!? って腹周りはそうでもない……乳尻太ももってわけ!? なんで!? ありえない!?」
「ひーん、あんまぺたぺたしないでー! セクハラでーす!」
「中身男のくせになに言ってんのよー!」
「やめろほむら、その発言はコンプラ違反だ!」
「うおーっ! 湊、姉を羽交い締めとは何事だー!」
「他人の! 乳とか尻とか太ももをもみもみするな!」
「おーおー、賑やかだなあ」
花咲里さんが他人事みたいに!
入口をくぐっただけでこの調子。
今日は本当に大変そうだなあ。
「サンダーは平気なわけ!? あんなギリギリまで絞っていた体が、とんだわがままボディに……!」
「もう慣れた……! あとこいつ、あたしがあたしだった頃より明らかに動けるようになってるし」
「この体型で!?」
「お前ら、かざりんを舐めるなよ!? 柔らかな脂肪の下にしなやかな筋肉を秘めてるんだよ! 一度動き始めるとキレッキレだからな!?」
湊くんがキレた!!
なんで怒ってるんだー!?
なお、この光景を二冊の本が浮かびながら眺めていて、
『んん~、青春だぁ~!!』
『なんかこみ上げてくるものがありますねえ。あんなに小さかった子たちが、もうこんなに大きくなって色恋でキャッキャと……』
「親みたいな顔しないでよー! いや、確かにあんた達に育てられたけど!」
「実質もう一組の親みたいなもんだからな……おっと、お茶出すぞ」
複雑なご関係?
その後、湊くんが冷蔵庫から取り出してきたお茶のペットボトルを受け取った。
「風情がなくない?」
花咲里さんが半笑いだ。
「すぐに異世界に行くんだ。個人ごとに持ち運びできるペットボトルが最適だろ。行くぞ」
「湊のやつ、サンダー相手には塩対応なんだよねえ……。ねえあんた、こっちのかざりは中身男だよ? あんたおっぱいスキーじゃん。どうしちゃったの湊!?」
「うるせー!」
わちゃわちゃしながら案内されたのは、扉のすぐ近くにあった部屋。
入っていくと、横に長い窓があった。
そこからはマンションの外の光景が見えるはずなんだけど……。
「……最上階なのに、地面とか朽ちた家とかが見える……」
「だろ? こいつが異世界だ。我が家に異世界との扉があるんだ。ちなみにこのことは迷宮省も知ってて、隣の部屋が迷宮省の出張所になってる」
「凄く濃い話を聞いてしまった! それで、どうやって向こうの異世界に行くの?」
「そりゃ、窓を開けるだろ?」
湊くんが窓を開く。
「こう、窓の向こうに乗り出して行く……」
向こうに行ってしまった!!
「な?」
「えーっ!!」
僕は心底驚いた。
「そんな……そんな簡単に!? 湊くん、支部の地下でワープする扉に躊躇無く入るはずだよ」
経験者だったのかー!
「よし、それじゃあ僕も」
「躊躇しないわねー」
「こいつビクビクしてるようでくそ度胸あるんだよね」
二番手で異世界に飛び込んだ僕。
ストンと降りると、そこは土の地面だった。
あちこちに、砕けた石畳がある。
見た感じ……日本風じゃない、石造りの街に見える……。
空気が乾いていて、これも日本とは全然違うなあ。
「ここは無人の世界なんだ。だからどんだけ魔法をぶっ放してもいい。モンスターもいるから、実戦形式で戦ったりもできるぞ」
「へえー!」
「よし、案内してやるよ。ついて来い! その前に……。アクアフォーム!」
『はいはーい!』
青い本から光が放たれて、それが水みたいな形になって螺旋を描く。
光は湊くんの全身を包み込み……。
見慣れた、魔法少女アクアに変身したのだった。
「よし、配信していいぞ!」
「あ、そっか! 異世界で修行配信するんだった。気を遣ってくれたんだね、ありがとー!」
「うっ、あ、当たり前の気遣いだからな!」
小学生くらいの見た目になったアクアさんが、ぷいっとそっぽを向くの可愛い。
「おーい、二人の世界を作るなー! 焼結!」
真っ赤な衣装の魔法少女フレアが、後ろからパタパタ走ってきた。
それから、もうバーチャライズを終えている花咲里さん。
よし、僕も変身!
いつものきら星かざりになったのだった。
「みんなー。こんかざー。今日はサンダーと一緒にー、リトルウィッチ・デュオとコラボして異世界で修行配信です! 異世界で修行……!? 何をするんだー!?」
※『こんかざ!』『こんかざー!』モチョチョ『やっとコメントできるようになったぜ……』回転『リトルウィッチ・デュオはちょくちょく、異世界での配信を行っている。彼女たちだけの独自配信だが、そこにかざり&サンダーの風雷コンビも参加するということだな』
風雷コンビ!?
いつの間にそんな風に呼ばれてるの!?
「うっし! そういうことで、風雷コンビと炎水コンビ、四属性で配信していくぜ。あと足りないのは地属性くらい?」
「あ、それはわたしらの妹がそうだから」
「妹!?」
「妹!?」
僕と花咲里さんがびっくり!
そっか、さっき、魔女が四人暮らしてるって言ってたもんね……!
「一番チビのくせに、力の魔導書に育てられたやべーやつよ。まあ大雑把な魔法しか使えないから恐るるに足りない」
フンッと得意げなフレアさん。
ふんふん、色んな人がいるんだなあ……。
それから、湊くんたちが三人兄弟だっていうのが分かった。
そのうち会えるかなー。
「はい注目、それじゃあ修行をやってくよー」
アクアさんが仕切り始めた。
ほうっておくとみんな、わちゃわちゃお喋りしちゃうもんね。
今日はお話を進めるの、任せちゃっていいかな……?
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




