第198話 疲れを癒すぞ
温泉でのんびり。
男湯には外が眺められる露天風呂まである。
これは外からフリーで見られてしまうこととバーターなのだが、お陰でここから海が見える。
道路を通る車とか、そこら辺を歩いている人も見えるし、そっちからもあたしたちの全裸が見える。
これは大丈夫なのか……?
「ダンジョンの余波で空間が歪んでて、向こうからはこっちが上手く視認できないらしいですよ」
瞬平が露天風呂に胸元まで浸かりつつ、眼の前にたらいを浮かべている。
たらいの中に小さい温泉を作り、そこにカマイタチがみちっと収まっていた。
かわいいかも知れない。
普通の人間には見えないようにしてあるから、傍目にはお湯の入ったたらいが浮いているだけだろう。
「そうなのか……。その割には女子風呂は露天も壁で覆われてるし、天井もマジックミラーになってる」
「あっちはまあ、入ってる人たちの気分が良くないじゃないですか、スケスケだと」
「確かに。うちら男は多少雑な感じでもオーケーだもんね」
心は女なのだが!
うーん、己に言い聞かせないと、見失ってしまいそうになる。
なんでこの体はあたしとこうもマッチするんだ。
それにしても、潮風を感じながらの露天風呂は格別だ。
今日一日の疲れが溶けていく。
いや、まだ全然動けるんだけど。
「腹が減ってこない?」
「夕食までは少しありますからね。でも、売店で軽食買っていけるみたいですよ」
「おし、買おう買おう」
『もがもが』
ガッシーが温泉の中からぷかっと浮かんできて、ドクロヘッドだけがあらわになった。
人に見えてたらパニックになっちゃうなこれは。
と思ったら、ガッシーをじーっと見ている小さい男の子がいる。
「なんあえー」
「どうしたんだい? お兄ちゃんたちがいるねえ」
「あえー! ほね! あとねじゅみいう!」
「おっ、おちびさん、見える子だな」
あたしは子どものお父さんに挨拶してから、男の子にガッシーを見せた。
「人には見えないものが見えるのは特別なんだぞー。だけど、外で他の人に見えないものが見えたら、それは危ないところだ。近づいちゃダメだぞ」
「おー」
あたしを見上げてコクコクうなずきつつ、ガッシーをぺたぺた触る男の子だった。
将来の配信者かも知れない。
生まれつき見えるって、才能だもんね。
「俺も生まれつき見えてましたからね。多分、陰陽師とか退魔師の血が混じってんだと思います」
風呂から上がり、冷房で涼み、そんな話をした。
途中で、ひと仕事終えた社長が温泉にやって来た。
「あっ、二人とももう上がったの? はい、これお小遣い。ここ、キャッシュしか使えないからね。なんか冷たいもの買って飲んでよ」
「社長気が利く~!」
「ありがとうございます!」
「この宿はねえ、界隈では結構有名なとこなんだけど。今回はルンテさんのコネで使わせてもらってるんだ。僕らふうらいエレメンツは小さい事務所だけど、それでも将来性に期待してくれててね、こちらも応えてビッグになって、この温泉宿を新たな聖地にしてあげなくちゃ!」
鼻息も荒く意気込む社長なのだった。
今、仕事がめちゃくちゃ面白いんだろうな!
最近の社長は目がキラキラしてるもの。
で、あたしらが売店で買ったのは地元名産品である梨のサイダー。
美味い!!
二人で並んで椅子に腰掛け、サイダーを飲んでいる。
横には小さい皿が置いてあって、瞬平はそこにちょっとサイダーを垂らした。
カマイタチたちが集まってきて、ペロペロ舐めている。
「ほんと、カマイタチを可愛がってるよね」
「ええ。俺の家族なんで。俺らカマイタチ使いって、七歳を超えたら竹の筒をもらうんですよ。その中にカマイタチの赤ちゃんがいるんです。それで、そいつらを自分で世話しながら一緒に育っていく。だから家族なんです」
「へえー。じゃあ、カマイタチは昔からいる妖怪じゃなくて、代替わりしてるんだなあ」
「みたいですねえ。元はクダギツネや、イヅナっていうのと同源なんだそうです。そういう混沌とした存在を、術に掛けてそれぞれの形に作り変えて、そこから人間が育てていくって」
「なるほど……。ガッシーは……」
じっとガッシーを見ると、売店の骨型キーホルダーにポーズを取らせていた。
『もが?』
「ガッシーはどうなのかなって。人間と関わって育てられたの? それとも元々大妖怪なの?」
『もがもが』
「へえー! 関ヶ原の合戦を山向こうから巨大化してずっと観戦してたのか! 本物の長生きしてる大妖怪じゃん! 今はこんなに気さくなのに」
『もがもが』
「えっ? この辺りに来ると、ペリーが来航した頃を思い出す? リアルタイムで見てたんだ? 歴史の生き証人じゃん! いや、妖怪なんだから生きてるのか生きてないのか……」
ガッシーの思わぬ一面も知れてしまった。
こういう温泉宿って非日常だから、今までの自分じゃ思いもしなかった事があったりするもんだ。
「晩飯は宴会場らしいけど、それまで少し時間があるよな。よし瞬平、いっちょ卓球で勝負する?」
「おっ、その勝負、受けましょう。俺、卓球は割と上手いですよ」
立ち上がるあたしと瞬平。
ガッシーとカマイタチが、やんややんやと応援している。
そこにさっきの男の子も浴衣姿でやって来て、一緒に加わってワーッと盛り上がった。
お父さんだけがきょとんとしてるな。
男の子しかいないのに、妙にそこは賑やかだもんな。
白熱するあたしと瞬平の卓球勝負。
その横を、ホッカホカになった明たちが歩いていくのだった。
「あーっ、サンダー、お風呂上がりなのにまた汗かくようなことしてる!」
「かざりだって夕食時にパクパク食べて汗かくことになるだろ? 同じ同じ」
「違うってー! 必死に食べると汗かくのは自然現象! 卓球で汗かくのは自分からかきに行ってるでしょー」
実にどうでもいい言い合いなのだった。
うーん、平和過ぎる。
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