第197話 本日のお宿は!
終わった!
配信終わり!
別にいつもと比べて長いわけじゃないけど、ふうらいエレメンツのみんなと一緒に配信するのは新鮮だった。
とうとう四人か……。
あたし一人でスタートした頃のことを思い出す。
あれから一年も経ってないんだよね。
あっという間だったなあ。
それが今や、エレメンツの三人は登録者数十万人超え。
瞬平だって間違いなく、すぐに十万人を超えるだろう。
今、ネットではあたしたちふうらいエレメンツが密かに評判を呼んでいるのだ。
「うおおお、旅館の部屋広いなあ……! こんな広い部屋三人で使っていいんですか?」
『キュッキュッキュー!』
瞬平がカマイタチ三匹を従えて、部屋の中を見て回っている。
はしゃいでる、はしゃいでる。
社長はここに来てもまだまだ仕事みたいで、窓際にあるチェアに腰掛けて電話している。
どうやら海配信で、新しい仕事のオファーが来たらしい。
企業案件をどれだけ取れるかが勝負だって言ってたもんね。
しっかし、社長にも息抜きしてほしいなあ。
あたしと一番付き合いが長い人だからね。
リーシュさんと仲良くやってるみたいだから、どうかハッピーにゴールインしてもらいたいな。
「うし、じゃああたしは外を見回りしてくる。温泉があるんでしょ? それに色々設備も充実してるかもだし」
「お供しますよ。俺もこういうとこ初めてなんで」
瞬平もついてきた。
後ろを、半透明になったガッシーとカマイタチたちが歩いてくる。
ガッシーが後輩妖怪に色々教えてるな。
片手にこの旅館のガイドを持ってるのはよしとしよう……。
あたしたちが泊まっているのは旅館の三階で、一部屋目にあたしら男衆がいる。
うーむ。
あたしは心は女なのだが、肉体は男なのでまあよしとしましょう。
明はルンテさん、パラスさんと一緒。
ここはどっちなんだか良く分からないのと、心が男である女子と、後はまあ色々大物のルンテさんでかなりバランスがいいと思う。
で、最後の部屋に恵美奈とリーシュさんと鳥乃さん。
乙女部屋って感じでいいんじゃないかな。
最年長が恵美奈だけど。
「ガッシー、温泉って上と下にあるんだったよね」
『もが! もがもが、もがー』
「上が展望風呂で、宿泊客しか泊まれないわけね。で、一階は温泉のみ利用のお客も泊まれるわけか。なるほどねえ」
旅館の作りは、ちょこちょこリフォームされてるらしくて古さを感じない。
ダンジョンが発生したことで、一種の聖地化したこの旅館。
宿泊客がたくさん訪れたそうで、その時の設けでリノベーションを行ったんだそうだ。
見た目や通路の雰囲気はそのままに、素材を新しくして最新の建築方法で作り変えたと。
だが、その時のオーナーは聖地化した際の働きすぎで体を壊し、当時目をかけて娘のように可愛がっていた今のおかみさんにバトンを渡したと。
そのおかみさんの娘が新井さんだ。
「人生はどうなるか分からないもんだよなあ……。あたしもまさか新井さんの実家に、男になって訪れるとは思わなかった。おおっ、四階はほぼ展望風呂じゃん」
本来は屋上だったところに、温泉を覆うための建物を付け加えた構造。
眼の前に遮るものが何もないので、ここから海が見える。
太平洋だから、海に沈む夕日は見えないなあ。
朝日は拝めそうだから、展望風呂で夜明けを迎えるのも楽しいかも知れない。
なお、ここはちゃんと男湯と女湯に分かれている。
混浴なんてことはこの時代、ありえないのだ。
「飯の後、ここで夜の海を眺めるのも良さそうですねえ」
「だねえ。風呂の灯りは消せるらしいから、そうしたら割と見えるんじゃないかな」
風呂の広さはそれなり。
一階からポンプで温泉を汲み上げてるわけだから、そんなもんだろう。
ちなみに既に、おじさんたちが風呂に浸かってみんなで海を眺めていた。
本日も、この旅館は盛況らしい。
では、一階の温泉も見に行こうということになった。
瞬平と二人で階段を降りる。
踊り場には、この宿の歴史が書かれたパネルが貼られている。
古くは江戸の頃からあった宿らしい。
旅人のための宿場町と漁場を兼ねていたここは、新鮮な魚料理で大変有名だったとか。
「ははあ、そういう歴史があったからダンジョンと繋がったんだな……? もしかして、この海で働いているマンマーって、その頃のダンジョンで出てきた連中だったりしない? ……するんだろうな」
それが完全にこの辺りの住人になり、地域を一緒にもり立てていると。
本当に世の中、どうなるか分からないもんだ。
こうしてあたしたちは一階へ到着。
このフロアは、ロビーと受け付け、別館にある大宴会場。
それから温泉施設。
「何気に大きいよね、この旅館」
「そうですねえ。場所的には海沿いで街から離れてますし、土地が安いんじゃないですかね」
「そうなのかもなあ。でも、温泉の方には結構客が入ってるみたい」
「海から上がって温泉入れるの、かなりアツいですからね。体についた塩も落とせるし、日焼けしてても入りやすいぬるま湯もあるそうですし」
「至れり尽くせりじゃん……」
「ちょっと入ってきます? 温泉ってのは何回も入るもんだってうちの長老が言ってたんで」
「よし、入ってくか!」
せっかくなので、異世界から直接湧いているという名物温泉へ入ることにするあたしたちなのだった。
配信が終わったら、完全に観光気分だなあ……。
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