第135話 夏休み初日の終わりに
こうして終わった夏休み一日目。
あっという間だったような……。
物凄く濃かったような……。
最後は明と一緒に帰ってきたけど、明日からは一緒に配信を行う機会を増やす方向で決着した。
せっかくの同じ事務所だからね。
「じゃあ、明日はまず何をやろう?」
「夏休みと言ったら……ラジオ体操でしょ」
あたしの言葉に、明がなるほどーと納得した。
「一緒にアバター被ってラジオ体操に行く?」
「それでしょ! 近くの公園でやってるし、みんなに混じってやりに行こう」
そう言う事になったのだった。
なお、この話をしているのは明の家。
あたしの家でもいいんだけど、なんかこっちに来ることが多いんだよなあ……。
傍目には一人暮らしの女の家に男が訪ねてきているわけだから、見た感じはよくないんだけど。
まだあたしが男の体に慣れていなかった時分に、中身が男である明の家を訪れてた習慣のまま定着してしまった。
明がAフォンを使って、明日のラジオ体操の場所、時間を調べている。
「朝六時半からだって。場所はすぐそこの公園。小学生とかお年寄りが集まって、みんなで体操してるみたい」
「なるほどなるほど。おし、じゃあそこに押しかけるぞ!」
「おー! 参加者のみんなの顔はモザイク掛けて配信しちゃう?」
「だな。軽く断りは入れといた方がいいでしょ」
これで予定は決定。
近くに配信者が住んでいるという安心感も感じてもらえると嬉しい。
こうして、自室に戻ってくる。
「夏休みは、学生配信者にとっては一際高く飛躍するチャンスだからね」
『もが?』
「普段は授業とか部活で時間を使ってる人も多いわけじゃん? それがまるっと自由になる。リスナーも同年代の学生がフリーになるから、ガンガンに配信できるようになるってわけよ。夏を制した者が、この一年を笑って過ごせるようになるんだ!」
『もがー!』
ガッシーもよく分かったようで、コクコクと頷くのだった。
あたしは入浴してさっぱりし、作っておいた麦茶を冷蔵庫から取り出して飲む。
そしてぼーっと、これまでのことを思い出す。
今年度に入ってから、まさに怒涛のような3ヶ月半だった。
明との魂入れ替わりから始まり、あいつがきら星を襲名したり、よちよち歩きだったのが一端の配信者みたいになってきてたり。
そうそう、あいつの踊ってみた動画、歌ってみた動画はかなり凄かった。
才能がある。
これからガンガン伸びていくってことだ。
すぐ隣に、強力なライバルがいる……!!
身が引き締まる思いかも知れない。
『もがもが』
「え? あたしはどうかって? そうだなー。なんでなのか明の因縁を引き受けることになって、退魔師とかいうよく分からない世界と戦ったなあ。お陰でガッシーと会えたし」
『もがもが』
ガッシーが、キーホルダーのガッシーを連れてきた。
『もがー』
「なんだー? 弟分ができたみたいで嬉しいのか? そのうちキーホルダーガッシーも動き出したりしてね。いやあ、ずっと一人暮らしだったけど、ガッシーがいるようになってから賑やかになった気がする!」
隣室からは、明が何か喋っている声が聞こえる。
これは……配信を始めたな?
一日三回行動とは恐れ入った。
朝の雑談配信、昼のダンジョン攻略、そして夜も雑談配信か。
Aフォンでチェックしてみると、ちゃんとアバターを纏っていた。
学習している。
今日の感想まとめみたいなことをしてるなあ。
おっ、あのATMを見に来たリスナーもいるんだ。
完全に現地がどこなのかを知られてるじゃない。
まあ、あたしたち未成年の配信者って、そんな遠くまでは行けないことが多いしなあ。
お陰で、ウェブを使ったネームバリューの拡散は期待できるけど、現地の人達に会って口コミが広がる……みたいなのはそんなに無い。
伝説の配信者たちは、割と日本各地に足を運んで活躍してたみたいだけど。
中には世界に足を伸ばして、海外で活躍してた人もいるみたいだ。
「とても真似できないー」
あたしはAフォンをテーブルの上に置いて、ベッドの上で大の字になった。
そう言えば……あたしも明もPCを持ってないな……。
全部Aフォン頼みだ。
持ってた方がいいのかなあ……。
アイドルだったころは、別にPCとか必要無かったからなあ……。
「性能で言えば、Aフォンだって負けてないんだけどさ」
『もが』
「そうそう。あたしのは民生Aフォンだけど、それもすっごく性能が上がってるらしいんだよね。昔のはほんとに、スマホに配信補助機能が足されただけだったみたいなんだけど。今は普通にバーチャライズできるし、飛行して撮影する機能も向上してるでしょ?」
『もが?』
ガッシーがテーブルの上をパタパタ走っていって、Aフォンをつっついた。
Aフォンがちょっと逃げる。
陰陽術で動くロボットみたいなものだから、自分でも動くんだよねAフォン。
明のなんか自我を持ってて喋るし。
「あたしも将来は正式なAフォンがほしいけど……。ずっとこの民生Aフォンでやってきたから、愛着も湧いてるんだよなー。どうしようかなあ。うーん、どうしよう……」
ベッドの上でうだうだするうちに、スーッと意識が遠ざかっていき……。
あたしの夏休み一日目はこうして終わるのだった。
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