第134話 恵美奈の最近について
「恵美奈は最近ちゃんと配信してる?」
「してますぞ。休み休みですが、今朝は昨日の残りのご飯でおにぎりを作って食べる配信をしましたぞ」
「恵美奈らしいというか何というか……」
同接が1000人くらい集まったらしい。
みんな、朝暇なのか!?
すっぴんの明と、おにぎりを作って食べる恵美奈が猛威を振るってたってわけだな。
もうすぐ恵美奈も収益化後の収入が入ってくるだろうし、それで配信環境を整えてもらいたいもんだ。
「それはそれとして……。あたしは恵美奈を鍛えねばならないと思っている」
「な、なんですかないきなり!? 冷房の効いた事務所でお菓子とジュースを貪る夢のような時間に、現実をぶっ込んでくるのは反則ですぞ!」
ぶうぶう言ってらっしゃる。
「いい? これは恵美奈のためでもあるわけ。明は間違いなく、恵美奈に水着を着せようとしてくる。そのために体を鍛えて、腹をちょっと引っ込めておくのがいい。ついでに配信における動きも練習しよう! そうだ、そう決めた。今から狼我さんに連絡しておくから……」
「ひぃ~」
恵美奈が悲鳴をあげるのだった。
こうして夕方。
恵美奈を連れてスタジオに来ているあたし。
ルンテさんもいる。
明もいる。
明も!?
どこで嗅ぎつけたんだ!?
「刑部さん、頑張ろうね! 僕、刑部さんの水着買ってあげるからね! 一緒に海で配信しようね!」
「うわーっ、ぐいぐい来ますぞ! それに、あぁ~っ、お腹をつついてくる! せ、セクハラ~」
「夏の魔法が明を大胆にしてしまっている! まあね、あたしも明もフィジカルは強いから。これを参考に、恵美奈も動ける女になろうな。初心者向けのストレッチみたいなのから始めていくからな……。なお、スタジオ料金は1週間分、全額明が出してくれてます」
「僕の奢りです! 一緒に水着着ようね」
「ひぃー! あ、愛が重いぃ」
恵美奈に逃げ場なし!
ストレッチすると、
「ひいいー、体がミシミシ言ってる! 折れちゃう折れちゃう~!」
と悲鳴をあげ、体を動かしてみると、
「ひいいー、体力の限界がぁぁぁぁぁぁ! う、動けなくなるぅぅぅ」
と悲鳴をあげ。
現場を見ていたウルヴァリン狼我曰く、
「筋金入りの運動不足……!! これはガッツリ解消してやらないといけないわねえ!!」
あたしと明と狼我さんが集まってきて、みんなで恵美奈をかわいがりした。
最後は汗だくになって動けなくなった恵美奈なので、これを回収!
彼女の自宅まで送り届けたのだった。
「し、死ぬぅー」
「恵美奈頑張れ! これで体を絞って動けるようになれば、配信のレパートリーも増えるし収入も増える! その上で魔眼使いがちゃんと社会生活やっていけるぞって意識が世の中に出来たら、恵美奈の仲間だって楽になるだろ?」
「うおお、わ、私の活動に社会的意義が……!! む、無理をしない程度に頑張りますぞ」
「頑張ろうね刑部さん! これ、プロテイン。運動した後には効くんだって! また明日ね!」
明は善意100%なんだろうが、自分がフィジカルモンスター側であるという意識がないのが怖いな!
ルンテさんが「堪能したわー。若い子たちが励ましあって前に進む様って本当に栄養満点。じゃあねお休みなさーい」と去っていった。
うーん!
この状況を楽しんでいる。
流石、伝説のマネージャー。
「とりあえず明さ、今日は色々言いたいことがある」
「?」
「すっぴんで配信に出ない! 寝起きでしょ! アバターを被る!」
「あっ、おっしゃるとおりです」
「生身でダンジョン無双しない! 真似されたら困るから、ちょっと非現実的っぽいアクションをしないとでしょ?」
「そっか! 素手で暴れると真似出来ちゃうんだね……。なるほどなるほど……。だからアバターって大事なんだ」
生身で活動している人もいるけれど、その人はその人で、きちんとリスナー側に注意喚起したりとか、生身だけど異常な戦い方をしたりしてるからね。
「分かった! 次から気をつけるね! 明日から」
「うんうん。思えば明は、一日で何回も伝説を作ってしまったか……。セオリーから外れてはいるけど、配信者的には美味しいもんね。あたしは特にそう言うの無いなあ。あれか? あたしが真面目すぎるのか……!?」
「サンダーはめちゃめちゃ真面目だね」
「だよなー」
ぶらぶらと夜道を二人で並んで帰る。
明はノースリーブの白いワンピース姿で、今は麦わら帽子を胸元に抱えている。
うーん、なんという夏の日に見た幻影みたいな装い。
元あたしだとは思えないような姿だ。
絶対、この姿でガチ恋したやついるでしょ。
あたしが求めても得られなかったファン層……!!
なんか、サンダーマスクをやってて得たガチ恋勢っぽい層は全然違った毛色だしなあ……。
あたしの素性がバレたらストーカーとかされそうだ!
「僕は夏休み中、あんまりやることがないので、刑部さんとサンダーに全面協力するよ。何でも言ってね! だってサンダーのお陰で、色々な問題が解決したんだもの」
「マジか! じゃあ頼み事もたくさんするかも……」
「どんとこい!」
夜道で拳を突き合わせるあたしと明なのだった。
味方にすると本当に頼もしいやつになったなあ。
「それじゃあ、夕方は恵美奈のトレーニングをするとして昼間だけど……」
「一緒に何かやってみる?」
帰り道で計画を立てるあたしたちなのだった。
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