第132話 これは売れる(確信)
パラスさんと一緒に事務所に来た。
どうもフレックスタイムっぽくて、社長しか来てない。
「今日は僕一人しか出勤してこないかと思って寂しくなってたよー! ……まあ、さっきまでリーシュさんとルンテさんがいて、二人とも外に出てるんだけど」
「すみません、遅くなりました。公園で光合成していまして」
「そりゃ一大事だね。たくさん光合成できた?」
「はい、三日分は吸収しました。あれは下手をすると干からびますね」
社長とパラスさんの妙なトーク。
「ドライアドジョークだ……」
「あれ、花咲里さん! 一緒だったんだ? 夏休み初日でしょ? のんびりしてていいのに」
「配信者にのんびりしてていいって言う事務所、なかなかないけどね!」
「うちは実は、明くんの配信とグッズ販売の収益がドカッと入ってきてね! おかげで今の俺はとっても心穏やかなんだ……」
「公私ともに上手く行ってるってやつでしょ」
「そうそう、仕事もプライベートも……って、何か知ってる……?」
「何も知りませんねえ」
社長とリーシュさんのなかよし度が上がってるくらいしか知らないなー。
ルンテさんからのタレコミなんか見てないし。
そして社長はさっき、会社に所属する全員にお給料を送った所だった。
あたしのお給料は……どれどれ……?
おっ!
結構入ってる!
元の体だった頃、半年かけて稼いだ額より倍以上入ってる……。
「あたしでこれということは、明は……」
「うん、明くんは凄いよー。すごい額を稼いだ」
「でしょうねえ。あたしも頑張らねば! そのためのガッシーだ」
『もが!』
「そうそう! パラスさん、サンプル届いてるよ! 凄いねー」
「はーい」
窓際の席についていたパラスさん。
机の上に置いてあった段ボールから、何かキラキラするものを取り出した。
ガッシーキーホルダーのサンプル?
「見る?」
「見ます見ます」
駆け寄って、手に取らせてもらった。
手のひらサイズで、普段のガッシーを一回り小さくした感じ。
キーホルダーならこんなもんか。
頭が大きくて、目はクリアパーツ。
その中にキラキラ光るプリズムシールが貼られていて、それで光るわけね。
体の関節は金属リングで繋がってて、ビシッとポーズは決められないけど、ぐらぐら揺らすとふにゃふにゃ踊るからかわいい。
「へえー! いいんじゃないですかこれ!」
「でしょう。サンダーさんにも確認してもらおうと思っていたんですよね。到着して早々、目的が達成されました」
「今宅急便で到着したとこだよー。いいタイミングだったね」
社長が出勤しててくれて良かった。
こうして、ガッシーキーホルダーの量産にゴーサインが下された。
ガンガン生産して、来月には販売を開始するみたいだ。
「もう一次受注のページは作ってあるんですよ。あとは公開するだけ」
「おおー、パラスさん仕事が早い」
「自分の仕事はまさにこれですからね。光合成でエネルギー補給したんで、バリバリやっていきますよ。その前に栄養補給」
まだ栄養を補給する!
パラスさんは会社の冷蔵庫に向かい、黄色く透き通った飲み物を持ってきた。
なんだろう……?
「いわゆるエナジードリンクです。我々ドライアドにはカフェインは効果が無いのですが、含まれている栄養素は余すことなく活用できますからね」
ドライアド、そういう生態なんだ……。
ガッシーのキーホルダー販売は、各種ウェブメディアで取り上げられた。
その後、正午に販売ページをオープン!
なんと数量限定のデラックスタイプは、蓄光塗料が塗られているらしく、夜になると光る。
「オリジナルのガッシーも夜に光ったりするもんな」
『もが!』
ボク頑張って光ってるんだよ、と言いたげなガッシー。
そんなあたしたちの目の前で、予約がどんどん積み上がっていく。
「ガッシーのニーズすげえ……」
「サンダーさんがあそこでガッシーを仲間にしていたからこそ、今日の奇跡が起きてるんです。人と妖怪の出会いに感謝……」
パラスさんが変な祈りを捧げた。
一次受注は一時間ほどで完売!
パラスさんは素早く、SNSで『二次受注は近日開始します』と広報を行った。
この人、有能だなあ。
グッズ関連全般と、それに伴う広報、メディアとの連絡、折衝を担当している。
まさしく、うちの事務所に無くてはならない存在だ!
『もがが?』
「そうだぞガッシー。お前のグッズが、日本全国の人たちのもとに届くんだ。パラスさん、幾つ用意したんでしたっけ」
「一次受注は三万個ですね。これが完売しました」
「一個千五百円するのに……。すげー」
「ファンはこの程度のお金であれば躊躇せず使ってしまうものです。既に配信者の戦いは、登録者数や再生数だけではなく、コマースでどれだけのグッズ、ボイスを積み上げられるかという次元に移っています」
パラスさんは語りながら、次の発注をBSホールディングスに送り、同時に各ウェブメディアへ記事の修正依頼をかけている。
二次受注について書かせるつもりだ!
商売人だ!
あたしは戦慄した。
配信者が現場のプロなら、この人はグッズで利益を作り上げていくプロ!
「なお、生身麦わら帽子ワンピース姿のきら星かざりさんが目撃されており、既にそのアーカイブがかなりの再生数になっています」
「明、また生身で配信してー!」
「これもグッズにします。力こぶかざりさんと並べて売ります」
「えっ!?」
麦わら帽子にノースリーブの白いワンピースのきら星かざりが……アクスタになる……!!
力こぶのきら星かざりと一緒に!
猛スピードで作業するパラスさんは、あっという間に予約ページを作り上げてしまった。
「で、でもまだ発注も掛かってないんじゃないですか?」
「アクスタはあらゆる商品の中で最も早く作ることが可能なのです。小ロットからならば小規模な印刷会社でも作成可能です。今回のアクスタは低価格にし、様々なポーズを別の印刷会社に発注……ランダムにします」
「ら、ランダム商法!!」
ただ、アソート辺り二種類しかないし、一個辺り700円くらいらしいので、リスナーのみんな、無理せず集めてくれ……。
なお、これによってトレーディング性をもたせることをパラスさんは狙っているようだ。
このドライアド……できる。
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