第131話 ジョギング先で見たら相方が素顔で配信してた
夏休み初日。
休みとは言えど、気を抜くわけにはいかない。
いや、むしろ夏休みだからこそ鍛え放題なのだ!
「うおお! やるぞ!」
あたしは起床し、顔を洗い、軽くお腹の中に冷蔵庫にあった昨日の残りを入れてからジョギングに出かけた。
なかなか暑い!
早朝だと言うのにもう日は高く、命を削る暑さが迫ってきているのが分かる。
気温が上がり切る前にある程度ジョギングし、体にスポーツの刺激を与えておかねば……。
隣室では、まだ明は寝ているっぽいな。
あたしだった頃より睡眠時間が増えている。
わがままボディに成長したのはそれが原因か……!
あたし、そんなポテンシャルがあったのか……!!
フクザツな思いを抱きつつ、外に繰り出すのだった。
「日焼け止めよーし。ボディバッグに帰り用の日傘よーし。携行食のゼリー飲料よーし。Aフォンもよーし」
指差し点検した後に、走る。
休みという何の束縛もない今!
体が軽い!
朝練に向かう途中らしい中学生を追い抜き、ひたすら走る。
「暑い中走ってる! すげー」
今が一日で一番涼しい時間帯だからね!
ここからは上がる一方で、夜間になっても街は予熱で温められ続けるのだ。
『もが~』
「おっ、ガッシーは暑いの平気なのか」
『もがもが』
あたしの肩の上で、ガッシーもランニングのマネをして足踏みする。
二頭身のがしゃどくろが走る姿はとてもかわいい気がする。
今度撮影してショート動画でアップしよう。
学校へ向かういつものルートを走り、折り返す。
帰りの頃には日が高くなり、街を焦がす熱量も上がってきている。
ちょうど、部活に通う生徒たちがやって来るところだった。
「お疲れー」
「お疲れ!」「朝早いな!」「お疲れっす!」
挨拶を交わし、ここからあたしは公園へ。
ちょうど、ラジオ体操も終わった時間だろう。
ここで柔軟や自重を使った運動をやっておく。
『もが!』
「ははは、あたしがなんでそんなに運動するかって不思議なのか。体は常に動くようにしておかないと、いざって時に何もできないもの。戦う術を身につけるのは大事だけど、それ以上に体のメンテナンスと運動チェックは重要なわけ」
『もが~』
納得したっぽい。
一通り運動を終えて一息。
ゼリー飲料を飲みつつ、タオルで汗を拭き、ベンチに腰掛けると……。
隣に弊社商品担当のドライアドこと、パラスさんがいた。
「うわっ!?」
「いやあ、精が出ますねえ」
「え、ええ。夏休みでも体を動かさないと鈍っちゃうんで……。パラスさんは何してるんですか」
「朝食です」
「朝食!?」
手には水の入ったペットボトルしか持っていない。
そして、あたしが腰掛けるベンチは日陰だけど、彼が座っているのは日向で……。
「あー、光合成!!」
「その通りです」
無表情で彼は頷き、ペットボトルの水をぐびっと飲んだ。
「ああ~。水と二酸化炭素と太陽光が、体の中で栄養になっていく……」
ドライアドって本当に不思議な種族だなあ……。
もちろん、光合成だけだと動き回れないので、食事もするそうだ。
ただ、いざとなれば水と太陽の光だけで栄養が作れるのは強い。
「窒素が欲しいので、サラダチキンなどを買ってきて貪り食ったりもしますね」
「あ、やっぱり光合成にも食事は必要……」
というところで、Aフォンが反応した。
時間は午前八時半。
いい時間だ。
そろそろ戻ろうかな……。
あっ、明が配信してるじゃん。
「明が配信始めたみたいだから、一緒に見ます?」
「ありがたいです。拝見します」
パラスさんが隣に移動してきた。
二人でAフォンを見ていると、アバターを身につけていない明が当たり前みたいに出てきた。
「うわーっ、生身!!」
「生身ですねー。リスナーの皆さんも衝撃を受けている。でも、元々は素顔で活動していたんでしょう?」
「そうだけど、アバターでの活動に慣れちゃってたからなあ……。あー、やっぱり髪伸びてるなあ。まあ、今の明のスタイルなら髪が長くてもいいのか」
水着配信の話をしてるな。
そうか、水着か……。
あたしも生身に男の水着を着用することになるだろうな……。
春には想像もできなかった未来が、今、やって来ている。
アスパラさんが作ったサンダー用の水着もあることだし……。
楽しみでもあり、恐ろしくもあり……。
と思っていたら、配信の中で話題が変わっており……。
髪型とか、明の容姿の話になっていた。
これで髪のこととか気にして、いい感じでセットして欲しいな。
肌の話か。
明、スキンケアとかちょいちょい無頓着だからなあ。
その辺りが高校生男子なんだよなー。
今度じっくり教えてやるか……。
配信最後の当たりで、力こぶを作っていた。
うわーっ!
あ、あ、あたしの体の二の腕に、あんな筋肉がーっ!!
「凄い盛り上がりでしたね。鍛え込んでますねえ」
「あたしも驚きました……。いつの間にあんなことに……!!」
「肌を晒した歓喜の声が、一瞬で筋肉を見せつけられた驚きの声に塗り替わりましたからね。これは……商品化の予感。今の絵もらいますね。アクスタにしましょう」
パラスさんの判断が早い!!
彼は出勤して即座に、きら星かざり力こぶアクスタの製作決定と受注開始を宣伝するつもりだそうだ。
た、たくましい~!!
「それと、ガッシーのサンプルが今日来るはずなんで、一緒に事務所に顔を出して下さい」
「あ、はーい!」
『もが?』
「そうだぞ。ガッシーのキーホルダーが来るぞー」
本物と並べて比較してみたい。
これは初日から楽しみができちゃったなあ。
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