第129話 それで今日はどうするんです?
冷やし中華が来た!
あとは、ワンピースに汁跳ねしないように紙エプロンも来た。
甘酸っぱい黒いタレの中に、あんまり歯ごたえのない黄色い麺がたっぷり。
きゅうり、ハム、細切り卵焼き、そして紅生姜。
これをどさっと掛けて混ぜて食べる。
うーん!!
美味しい!!
夏、大好き!!
「なんと美味しそうな顔をして食べるんでしょう。割とかざりさんみたいな可愛い系で顔出ししてる配信者の方々は、もっとヘルシー系のを食べてる印象がありますよね」
「もふぉ?」
口の中に物が入ってるから答えられないなあ。
とりあえず返答は保留にして、冷やし中華を堪能することにした。
辛子がついているから、これで味変しながら食べられるのも最高!
つるつる、パクパクとあっという間に平らげてしまった。
美味しかった。
腹五分目くらいなので、後でどこかに寄ってもいいなあ。
「僕は心は男なので、美味しい食べ物は大いにいただきます」
「なるほど……。見た目は可愛く、しかしガッツリ系の食事にも理解がある……。これは人気になるはずだ」
園宮さんも冷やし中華は食べきってしまっている。
いつの間に。
「仕事が忙しいので、早食いが得意になるんですよ。迷宮省の職員は全員食べるのが早いです」
「体に悪そう……!」
「常に国家の一大事と向き合ってますから。そろそろ出ますか。お勘定を」
「あっ、そう言えば僕はお給料が入ったので、なんなら園宮さんに奢ることも……」
「収賄になりますので……!!」
「公務員は大変だなあ……」
最初の話どおり、奢ってもらってしまった。
「どうもごちそうさまでした」
「いえいえ。素晴らしい食べっぷりでした。それでですけど、あなたのことを男だと思ってる人は、多分もう、かざりさん以外一人しかいませんよ」
「いるんだ!」
「サンダーマスク氏です」
「あー」
「目に見えてがっかりした」
「そりゃ、僕と彼女は同じ事件に巻き込まれて入れ替わった同士だもん。なんてことだ。僕は女の子として見られているのか……。みんなアーカイブを見て欲しい」
「今のかざりさんは女性としても磨きが掛かって来ているように思いますが? お肌のケア用のアイテム、うちの女性職員からの意見も取り入れて後でリストアップしておきます」
「あ、ありがとうございます」
「それで、このあとはどうするんです?」
「何も考えてないので、街を散策して配信のネタを探そうかなって思います」
「いいと思います。スマホを覗くばかりでは、配信のテーマも煮詰まってしまいますからね。スマホを捨てよ、街に出よ、です。それでは!」
去って行ってしまった。
冷やし中華を奢ってもらっただけになったなあ。
日差しは正午になって、ますます強い。
午後二時くらいで日照量は最大になるらしく、あまりの光の強さで町並みが白っぽく見える。
『マスターはスマホを捨てるのですか』
「捨てないよ!」
風神号が危機感を覚えてるな……?
Aフォンってこんなに個性豊かに育つんだなあ。
そんな風神号を従えて、駅近くのショッピングセンターへ入る。
涼しい!
さっきの中華料理店も涼しかったけど、ここは別格かも知れない。
店内にいる女の人が、肩がけを使うくらいには涼しい。
『マスターは寒くないんですか?』
「筋肉つけてるので大丈夫」
鍛えた肉体が熱を発してくれるからね。
帽子を脱いで抱え、店内を見て回る。
「男だった時はこういう服とかにあんまり興味無かったけど……女子になると世界が変わるね。種類が多い。とにかく多い……。着る機会は多くないけど」
『ここは女性の友人たちとともにきて助言を仰ぐのがいいでしょう』
「風神号はアドバイスしてくれないんだ?」
『私は配信方面に特化しています』
流行に疎いタイプの人工知能だった。
「あれ? あれかざりんじゃない?」「ほんとだ! 配信と同じワンピースだし!」「かざりんこの街で買い物してるんだ!?」「すごー!」
いけない!
見つかった!
女子の集団が近づいてくる……。
僕が夏休みということは、同年代の女子も夏休みなのだった。
「あのー!」「きら星かざりさんですよね?」「写真撮っていいですか!」「動画撮っていいですか!」
「そうですけど困りますう」
なんかキラキラした女子たちに詰め寄られています!
誰か助けてー!
『では彼女たちのスマホを一時的にハック、シャットダウンします』
「あっ!」「スマホ動かなくなった!?」「なんで!?」
「今だ! じゃあ僕はこれで……!」
「かざりんが逃げた!」「ワンピースなのに階段駆け上がる速度が凄い!!」「一呼吸で二階に上がった!」「あれ撮ってたら絶対に受けたのに!」
恐ろしい言葉が聞こえてくる!
『マスター、次から外出する時は変装をしましょう。そして配信時はアバターを被って下さい』
「うん、ほんとにね……! よく分かった!」
『なお、彼女たちのスマホはこれから三時間ほどネットに接続できなくなります。マスターのプライバシー保護のためです。仕方ないことなのです』
「風神号、君凄いね……」
『Aフォンはあらゆる通信機器に対しての優先的命令権を所持していますから』
そうだったのかー!
すごく頼りになるかも知れない。
なお、あちこちのお店の店員さんも、僕をチラチラ見ている。
これは……バレているな!?
「風神号、なんかアバターで着替えたりは……」
『あくまでいつものアバターを被せるだけしかできません。着替えなどはそういう系統の現代魔法を登録して下さい』
「融通が利くような、利かないような! まあいいや。じゃあせっかくだから、水着を見て帰ろう! アバターの下に、絶対水着をつけることになるもん」
『賛成です。参りましょう』
僕らは三階水着売り場へ向かった。
なんなら、気に入ったのを買っちゃってもいい。
今の僕にはお金があるのだから!
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