第128話 解放感もほどほどに?
『マスター、迷宮省の園宮氏から連絡です』
「あ、はい。応答して」
『繋ぎます』
『どうも、お世話になっております。迷宮省の園宮です。その近くの日陰で待機をお願いします。調査チームが向かっていますんで。では』
通話の中に車の音がしたな。
園宮さんご本人も来てるみたいだ。
僕は日陰に留まり、ATMを観察した。
そこはどうやら通常通りの動きに戻っているようで、中の冷房も効いているっぽい。
ATMを何人かの人が利用していった。
その直後、黒いバンが到着した。
扉が開くと、クールビズ姿の職員さんがわらわら降りてくる。
その中に園宮さんがいた。
「どうもどうもかざりさん! 配信チェッカーにかざりさんの配信が引っかかりまして、どうも様子がおかしいと急行しました」
「様子がおかしかったんですか!」
「はい。近隣でダンジョンが発生した場合、我々が張っている網にかかります。その際に特定の魔力波動が感知されるのですが、それが通常とは異なる状態でした。こういうパターンは異世界からの侵食である場合が多いですね。恐らく今回もそのケースかと。まさか、アバターも着ずに生身で突破してしまうとは思いませんでしたが」
「いやあ……夏休みでテンションが上がってしまって……」
「あっ、腕がちょっと赤いですよ。日焼け止めつけてないでしょう! いけません! 日焼け止めをつけましょう!!」
急に園宮さんは強引になって、僕を連れて近くのドラッグストアに入った。
「園宮さん、お仕事中なのにいいんですか?」
「いいんです。私の今の仕事は、かざりさんに状況の説明を聞くことですからね。ダンジョン跡の調査は、あのメンバーだけで十分ですよ。ほら終わった」
「はやい!」
迷宮省の人たちが、何か物々しい機械を抱え、わいわいとバンに乗り込むところだった。
園宮さんが手を振ると、彼らも手を振る。
バンは走り去ってしまった。
うーん、迅速。
十分ちょっとしか掛かってない。
「データが集まったということです。全国ではこうしている間にも、十分に一つダンジョンが出現しています。その中で緊急を要するタンジョンは一日に二つか三つ。我々は解決され、安全になったダンジョンに構い続けるわけにはいかないんですよ」
「そうだったんですね……! 大変だなあ……。外回りが多いんですね」
「半分はこうやってダンジョン跡を巡っての情報収集、半分は職場での書類作成ですよ。ですが今回のような役得もあります。あ、これ、日焼け止めです。経費で落ちますんで」
「役得……? あ、どうもどうも」
園宮さんが会計している間に、日焼け止めを塗らせてもらった。
おー、いい香りがする。
そんな僕を、レジに並んだ人たちがじーっと見ている。
「かわいくない?」「かわいい」「日焼け止め塗ってる姿がなんとも……」
「いいものを見てしまった」
うわーっ、注目されるの恥ずかしいなあ!
僕は麦わら帽子で顔を隠すように深く被ると、先に店の外に出た。
後から園宮さんもやって来る。
「どうです? ちょうど私は昼休憩をとってもいい時間帯なんです。情報収集協力の報酬として、昼食代をお出ししますよ」
「行きます!」
僕は一も二もなく快諾した。
お金はあるけど、奢ってくれるならそれに乗っちゃうよね。
入ったのは昼時のラーメン屋さんだった。
「冷やし中華始めましたって書いてある!!」
「おっ、それにしましょうか。すみません、冷やし中華二つ」
「はいよ! 冷やし中華二!」
「ありがとうございまぁーす!」
お冷をいただいて、お料理の到着を待つ。
冷えた水が美味しい!
ここで園宮さんは、妙な機械をテーブルに立てた。
ドーム状で、その周囲の光景がちょっと歪んでるみたいな。
「これ、雑談作成装置です。私たちの会話をこの半径70cmから外には、他愛もない雑談にしか聞こえなくするというですね。陰陽術の応用を現代科学で再現したものです」
「凄い! あっ、これがあれば専門的なお話ができるんですね。ほえー」
「そういうことです。それでかざりさん、私はまだ配信のアーカイブを確認できていないんですが、手応えはどうでした?」
ダンジョンのお話だよね。
「ATMが無限に続いてる感じで、空は今みたいに晴れてました。あ、でも日差しが暑いって言うのはあったけど、日焼けは感じないみたいな……」
「太陽ではない輝きが空にあったケースですね。恐らく外のように装った、閉鎖空間だったのでしょう。無限に続くように見えたATMも、鏡写しにして増やしているようなものだ。無限を再現できるほどの存在は、過去に一体しか確認されていませんからね」
「一体って言うと?」
「きら星はづきによって討伐された、大魔王マロングラーセです。まさに、全世界規模の敵でした。様々な文献や資料、映像作品で語られていますが……。本物はあの数倍ヤバいと思っていただけると」
「そんなにですか!? 教科書で読んだだけでも、盛りすぎでしょって思ったんですけど!」
「全世界が束になっても、全く勝ち目が見えないレベルでした。さらに腹心の魔将を全世界の主要国に放ち、内部から蚕食していましたから」
「ひえ~! きら星はづきさんはそれにどうやって勝ったんですか!?」
「うーん、力押し、ですかねえ……」
「へっ?」
「今分析が行われても、全く分からないんですよ。ただ、彼女は全世界的危機に立ち向かい、全ての腹心の魔将を撃破。最後はマロングラーセをおびき寄せるべくコンサートを行い、それを宇宙へと連れ出して撃破しています。この時の同接数ですが……」
園宮さんがある写真を見せてくれた。
「地球上にいる全人類、亜人を含めたよりも一桁多いんです」
「えーっ!? どういうことですか!? まるで別の世界の人達も応援してくれてたみたいな……」
「そうとしか考えられないんですよね。だからこそ、今回のダンジョンのように、別世界が侵食してくるケースというのは十分にあり得るわけで……」
「なるほどー」
すごい話を聞いてしまった。
そんなきら星の名前が、今の僕の配信名についてるわけで。
このファミリーネーム、重くない……!?
いや、よく考えたら僕のこれは、葉月ママがノリでつけてくれたものだから本物じゃないか。
なーんだ、だったら安心。
「冷やし中華おまたせしましたー! ごゆっくりどうぞー!」
お料理到着!
食べるぞー!
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