第127話 初日、生身でダンジョン行きます
宿題もやった。
配信もした。
僕がすべきことはもう、何も無い。
何も。
プラプラあてもなく散歩をしていると、自然と足が駅前に向いていた。
いつもこの近くの事務所に通ってたからなあ。
癖かなあ。
そしてちょうど本日、お給料の振込日だったらしく。
『かなり入りました』
「ほんと!?」
人がいないとよく喋る風神号。
彼からの報告に驚いてみたりした。
「どれどれ? じゅうにまん……」
『一桁間違えてます』
「えっ? えーっ!! こ、こ、こんな金額見たこと無い……」
生涯で得たことがない金額が一気に振り込まれていて驚く僕なのだった。
会社の儲けを引いたうえでこれでしょ?
どれだけお金が入ったの……?
今月に入って、会社には今まで発売してきた分のお金が一気に流れ込んだらしい。
財務担当の鳥乃さんが大忙し。
大学の夏休みだというのに事務所に入り浸って、お金を勘定する娯楽をしている。
なぜか生き生きしてるらしい。
「……よし、今日は事務所に行かないでおこう。鳥乃さんの幸せな時間を邪魔するのも何だし」
『マネージャーから連絡です。大したことがない内容です』
「風神号~! あんまりそういうのを言うのはよくないよー? どれどれ……?」
ルンテさんからの業務連絡を見てみる。
『スクープ! 社長とリーシュさん、昨夜一緒に帰ったと思ったら今日一緒に出社してきてリーシュさん同じ服なんですけど!』
「しょうもない!!」
本当に大したことない内容だった!
「詮索するのは、良くないですよっと。送信」
『マスター、大人です。流石』
「ほんと、よく喋るようになったよねえ君」
『人見知りなので他に人がいる時は押し黙ります』
「人間みたいだよねえ」
Aフォンと会話しながら、あまり人気のない道を歩く。
日差しが強くて、これを避けようとみんな昼間は日陰を歩いたり、日傘を差したり。
そもそもアスファルトからの照り返しが凄いので、外出しない人だって多いのだ。
うーん、この道路は僕一人が占有しているみたいだ。
静かで、平和で、ダンジョンなんかこの世界に存在してないみたいな……。
「うわーっ! ATMがダンジョンになったー!!」
「な、なんだってー!」
噂をしたらすぐに!
『マスター、ここは!』
「うん、緊急配信だー!」
アワチューブで、リアリタイムで動画を撮影しながら実況配信。
アバターを着る暇も惜しいので、僕はそのまま現場に突っ込んだ。
ATMが並んでいる辺りが……。
あっ、無限ATM!!
天井が無くなり、夏の日差しが差し込む中にどこまでも続くATMの森がある。
その前でおじさんが腰を抜かしている。
「大丈夫ですか!」
「あ、ああ、大丈夫……。あぁ~、天使が見える」
「えっ、どこどこ!?」
『マスターのことです』
「そんなまさか」
※『ゲリラ配信だと!?』『なんだなんだ!?』『かざりんのチャンネルで、突然清楚な麦わらノースリーブワンピースの女の子が!』『まさかかざりん!?』『新衣装!?』『い、いや、生身だ!!』
「今日はアバター被らずにお送りしてます。それじゃあちょっとATMダンジョンをやっつけて、巻き込まれた人を助けますから! みんな、応援してー!」
※『了解!』『がんばれー!』『かざりんファイトー!!』
声援を受けながら、ATMダンジョンに飛び込む僕。
青空の下、ATMばかりが連なる空間。
前も横もそれしかない。
僕はトコトコと、その中を歩いていく。
※『異常な夏の風景の中、麦わら帽子の清楚なワンピース姿が……』『幻想的と言うか、きれいな悪夢というか』『かざりん、新境地を切り開いたな……』
「巻き込まれた人ー! どこですかー! どこにいますかー!」
声をあげると、あちこちのATMから黒い影がにじみ出てくる。
『うごごごごごご……』
「えいっ」
僕はこれを掴んで引っこ抜いて『ウグワーッ!?』地面にペチッと叩きつける!
断末魔をあげて影が消えた。
『うごご』『うごーっ!』『うごごあーっ』
「行くぞーっ! えいやー!」
飛びかかってくる影を、掴んでは投げ捨て、掴んでは叩きつけ、掴んではちぎる!
※『うおおおおワンピース美少女の無双アクションだ!』『影で良かった』『実体だったら凄いゴア表現だった』『まさか夏の初っ端にこんな配信を見られるとはw』
僕はチャット欄を確認している余裕はまったくなくて、とにかく巻き込まれた人を助けなきゃ! の一念。
次々に襲ってくる影みたいなのを蹴散らしていたら、だんだん出てくる数が減ってきた。
『一見してダンジョンは無限ですが、有限です。そこを根城にするモンスターも有限です』
「なるほど。倒し続けていたら尽きちゃうんだね」
※『脳筋理論~!!』『Aフォンの的確なアドバイスよ』『この戦いを可能にするかざりんの剛腕!』『朝の力こぶを見たら納得せざるを得ない』
最後は黒い影が集まってきて、大きな影になった。
『うごごごご、ようやくこの世界に実体化出来たと思ったら、突然同胞の大半がちぎって捨てられた……! 無体すぎるだろ……!!』
「こっちもこっちの都合があるので! ごめんね!」
『うごごーっ!!』
「えーい!」
※『かざりんが行ったー!!』『押しつぶすようにのしかかるモンスターへ、普通に掴みかかったな!』『かざりん、殴るのもいけるがグラップルもやれるのか!』『かざりんがー! 巨大なモンスターを掴んで受け流してー!』『地面に押し付けながら引きずるー!』『モンスターがみるみる削れて小さくなる!』『麦わら帽子の美少女がこんなバイオレンスアクションをするとはなあ……』
ずいぶん軽くなったので、最後は持ち上げて……投げる!
「おりゃー!」
『ウグワーッ!?』
吹っ飛んでいった影が、空でパァーンと爆ぜた。
と思ったら……。
周囲の光景がグニャグニャと揺らぎ、元のATM前に戻ってきた。
へたりこんでいるおばさんがいる。
「あ、あれ……? もうダメかと思ったら……」
「大丈夫ですか? ダンジョンは追い払いましたからもう安心ですよ」
「あ、ありがとう……! あなた、配信者の人? やっぱり頼りになるわねえ……」
おばさんに感謝されつつ、配信が終わった。
なんか、カザトモのみんなを都合良く使ってるみたいで申し訳ないなあ。
『マスターの事がSNSトレンドに乗っています』
「えっ、なんで!?」
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