第121話 特訓もアイドル活動もしたい!
「贅沢な悩みだとは分かってんだけど……」
オカルト研究会の部室。
あたしは椅子を斜めにしながら姿勢悪く腰掛けている。
眼の前にはほむらがいて、恵美奈と一緒にタブレットを覗き込んでいた。
「何よ、どうしたのサンダー?」
「強くなるために特訓をする。これはいい」
「うん、頑張ってんじゃない? 見てる見てる。ここ数ヶ月で身につけたとは思えないような戦い方だと思うわ。魔法も使えて殴り合ったりも出来て、使い魔もいるでしょ? 大したもんでしょ」
「うん、俺もそれは満足してる。だが! 俺は! あたしは! アイドル活動もしていきたい……!! 明の活動を見て、ずっと眠らせていた欲求が目覚めてしまった! 歌ってみた配信もしたが、やはりステージで輝きたい」
「あー、それね。そう言えばあんた、元々女子アイドルなんだった」
「あたしの魂はずっと女子アイドルだ……」
「ほんとにぃ?」
「本当にござるかぁ?」
ほむらと恵美奈が並んで、解せぬという表情をする。
おいなんだその顔はー!!
「中身が女子じゃなければ最高なのにねえ」
「本当ですな……! そうであれば、我らは敵同士」
おっ、なんか分かんないけど、ほむらと恵美奈がバチってる?
そういう関係もあるんだねえ。
なお、この話に全く興味なさそうに、横で古いオカルトフォトブックを呼んでいた湊。
彼が顔を上げて、メガネをクイッと押し上げた。
「そういうのに強い人いるけど、特訓のお願いしてみるか? 強いとカワイイを両立した凄い人だけど」
「あっ、湊、まさか!」
ほむらがちょっと慌てている。
なんだ?
だけど、湊の言う通りの人がいるならぜひとも学びたいものはある!
「そんな人がいるんだ? じゃあ頼む! あたしは強さだけにかまけて、アイドルらしさを忘れ始めている……!! 後で何でもするから、その人紹介して!」
「分かった」
湊は本をパチっと閉じた。
「パパに連絡を入れておく」
「パパ!?」
湊とほむらのカバンの中で、魔導書がグフフフフ、と笑うのだった。
翌日。
湊から「パパが予定を空けてくれた。どうやらお前のことが気になってるらしいぞ。良かったな。いや、ご愁傷さまと言うべきか」
「なんだ……? 湊のお父さんってそんなヤバい人なのか? あ、そう言えば会ったことがあるかも……」
湊の家に行った時、帰り際に出会った女の子がいる。
彼女を、湊はパパと呼んでいた。
どういう世界なんだ……?
「俺とほむらの師匠でもある人だよ。多分、この世界の魔法使いの頂点に立つ人だと思う」
「そんなにか!? ひえー!」
ニコニコしながら握手してくれた、小さい女の子を思い出す。
あれが父親というのも意味不明だけど、それが最強だというのも訳が分からない。
本当に……?
という気持ちで、湊に連れられて行くあたしなのだった。
到着したのは、湊のマンション。
ここから異世界に通じてるもんね。
扉をくぐると、もう目の前に彼女がいた。
「やあやあいらっしゃい」
黒髪のツーテール、エプロンドレス姿の、どう見たって小学校中学年くらいの女の子だ。
「ど、どうも。サンダーマスクっす!」
「よろしくねー。黒胡椒スパイスだよ。元の名前はあるけれど、もっぱら魔女として活動しているからねえ」
彼女はそう告げると、異世界に通じている部屋に案内してくれた。
ピョンっと窓の向こうの世界に飛び出すスパイスさん。
あたしも後を追った。
「強さとカワイさの両立……それはとっても重要な問題だよね。スパイスは意識してそれをやってきたわけだ。君が師匠を選ぶ目は確かだぞー。それに、サンダーくんの配信をワーッと見といたけど……確かにスパイスにやり方が近いねえ」
「そうなんですか?」
「そうだよー。今はイグナイトとマリンナとパワードを子どもたちに使わせてるけど、元々は六冊の魔導書全てがスパイスのものだったし。一冊レンタルして七冊だったし」
「六冊の魔導書……!」
「選択肢の多さ=手数の多さ。組み合わせの多彩さ=強さ! それがスパイスのモットーなんだよね。そして! それはそれとして、カワイイも忘れない。これは鉄則だね」
「な、なるほど……」
「まあ、サンダーくんは男の子の体だから、カワイイとはまたちょっと違うけどね。愛嬌と強さを両立する。これはアイドル活動みたいなのをしたい冒険配信者にとっては、鉄則だね! ちなみにスパイスもグループ活動でオリジナル曲を出したりしたよ」
「マジですか!? すげえ……」
今になって思い出す。
黒胡椒スパイス。
かつて伝説と言われた時代に、きら星はづきと並んで謳われる英雄だ。
数々の変身フォームを持ち、悪い魔女と戦い続けた魔法少女……。
中身は成人男性という存在。
そうか、ある意味あたしの逆で、あたしを教えるに相応しい存在なのだ。
「ということで、まずはサンダーくんの実力を実際に試させてもらおうかな? そーれ!」
スパイスさんが浮かび上がった。
空を飛ぶ魔法かな?
「まずは一撃お見舞いするから、防いでねー!! 死ぬなよ?」
「なにーっ!?」
次の瞬間!
スパイスさんが凄まじい速度でかっ飛んできた!
蹴りが来る!
あたしは咄嗟に、これを拳で迎え撃つ。
ヒット音がした。
相殺成功!
と、思ったら、スパイスさんが分身していて、次々に飛びかかってくる!
うおおおお、なんだこりゃあああああああ!?
必死に迎撃しているうちに『条件を満たしました』と声が聞こえた。
あたしの拳がランクアップする。
「ほうほう、実際に見てみると、面白い魔法を使ってるねえ! 色々試させて欲しいな」
全てのスパイスさんが消え、オリジナルの彼女がさっきと何も変わらないところにいた。
な……なんだったんだ今の。
幻?
でも、幻にヒット判定なんか無いだろう。
実体を持った幻だったりするわけ?
この人、とんでもないぞ。
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