第118話 あの、テスト勉強してるんですけど
『脇腹! 背中! いいぃ~ですねぇ~!!』
「でしょう~!? これからその辺り、リテイクをお願いしても……」
『う~ん……OK!!』
ルンテさんが葉月ママとチャットでお喋りしてる!
パーテーションでしか区切られてない事務所だから、全部丸聞こえだ。
「かざりんの水着……!? 私は今、とんでもない場所に居合わせている……!!」
撫子さん、顔が紅潮して息が荒い!
大丈夫!?
「夏……海……女だらけの合宿……何も起こらぬはずはないよねぇ」
「ファノリーさんは現実逃避始めた。ほらほら! 勉強するぞ、勉強するぞ、勉強するぞー」
「ハッ」
ファノリーさんのほっぺをぺちぺちぺちと両手でやってから、我に返らせる。
さあ、気が散ることが多いけど、勉強の続きだ。
授業の途中で引っかかって、どうにも理解しきれなかった部分。
そこを撫子さんが噛み砕き、繰り返し教えてくれた。
お陰で完全に理解!
この公式を理解したら、他の問題もするする解けるね!
『ああ~、明らかに私が最初にアバターを作ったときよりもサイズアップしてますねえ。同時に通常アバターのバージョンアップもしましょ。3サイズアップとは、最近の若い子はけしからん』
「そんなにですか!? ちょっとピチピチなのがはづきさんの好みだと思ってた」
『むふふ、それもそれで味が……』
「3サイズアップ!? ピチピチ!?」
「撫子さん落ち着いて! あくまで業界専門用語だから! 多分!」
「いや、うちが保証する。明日奈は三か月でブラのサイズ超上がったから」
「ああ~! や、やっぱり! 明らかにシルエットから変わったと思ってたんだよね!」
「二人とも~!!」
「まあ、アンダーが増えているので目に見える感じと触れてきたボリュームはさらに凄い……」
「あちょー」
「ウグワーッ」
『背景で聞き慣れた怪鳥音と断末魔が聞こえるなあ』
「かざりちゃんがお友だちとテスト勉強してるのよね」
『いいなー! 青春だなあー』
どうやら向こうでは、葉月ママがルンテさんと画面共有しながら作業をしているらしい。
雑談の合間に、細かい要望が出たり、それへの応答があったりする。
プロの仕事なんだけど……。
雑談っていうのが僕に関する話なので、気になって仕方ない。
「これは場所を移したほうが……。いやいや、でも勉強し放題なのはここだけだし」
「あっあっ、かざりん! 私の家もね、友達が配信者で所属してる会社で勉強させてくれるって言ったら、遅くなってもいいよって許可もらってるから」
「し、信頼されてる!!」
撫子さんの家がそう言ってるなら、途中でやめるわけに行かないよねえ。
「うちもここなら馴染みだからって、一族の者がOK出してくれたのー。遅くなったら迎えに来て、撫子も家まで送ってってくれるから」
「な、なるほどー」
逃げるという選択肢はない!
僕に関する、葉月ママとルンテさんの話をひたすら聞かされながら、テスト勉強をするしかないのだった!
「あ、三人とも! 夕食は出前を取るけど、何がいい? ピザ? ユーバー使ってバーガー? ラーメン?」
ルンテさんのありがたい言葉に、ざわつく僕たち三人。
食べ盛りの女子が三人もいるのだ。
僕は男子だけど。
これに、向こうで仕事をしていたリーシュさんが挙手した。
「私、 牛丼特盛二つと生卵!」
た、食べる人だ~!
「あ、僕も同じやつね」
社長もお揃いだ。
「えー、では自分はベジバーガーで」
パラスさんがバーガー系で決めて、ルンテさんもハンバーガー関係で決めたらしい。
では、僕たちはどうか。
「ピザでしょ」
「お寿司良くない?」
洋食派の撫子さんと、和食派のファノリーさんがぶつかり合う!
なので、ここは間を取って……。
「中華にしよう」
「うーん賛成!」
「明日奈がいいならそれでいいかも知れない……」
そう言う事になったのだった。
撫子さんはチャーハンとにんにくを使わないバジル餃子。
ファノリーさんは天津飯。
僕は五目中華丼大盛り。
ああ~。
勉強で疲れた脳細胞に、コクのある餡とたくさんの具材、そして白米が染み渡る~。
「今度自分でも中華丼作ろうっと」
「かざりん自炊できるの!? お、教えて……!」
「撫子がここぞとばかりにグイグイ来るな! 明日奈、ファンを家に上げたらだめだぞ!」
「でも友達だしなあ……」
「と、友達としてかざりんの家に上がりたい!」
「いかーん! だめだめだめー! 調理するならうちの一族の厨房を貸す」
「ええい、私とかざりんの仲を邪魔する地の一族めえー」
食後の休憩中に、またバチバチしてる二人だ。
僕のために争わないで!
とか言うべき?
自意識過剰かなあ。
なお、僕の衣装制作会議は終わっている。
葉月ママも家族とご飯食べてるんだね。
話を聞いたところによると、子どもが出来てから生活が規則正しくなり、夜ふかしなどができなくなったとか。
いいことだと思う。
対するルンテさんは……。
「さて、かざりさんのが一段落したから、サンダーとエイミーのぶんも今夜中に片さないとね!!」
夜ふかしして仕事する気満々だ!!
パラスさんは食後で頭に遮光フードを被り、睡眠モード。
椅子に座って寝るの!?
ドライアドの人って、そういう感じでも熟睡できるんだなあ……。
「じゃ、僕らはこれで」
「お疲れ様でーす」
社長とリーシュさんが一緒に帰っていった。
いい時間かも知れない。
「よーし、じゃああと一教科軽くさらって、今日は終わりにしましょう! いやあ、実りある時間だった……」
「そ、それは良かったです」
とても満足げな撫子さん。
満腹だけでなく、心も満足したみたいで、妙にツヤツヤなのだった。
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