第117話 テスト勉強の横で企画会議が!
うちの事務所はパーテーションで区切られているだけなので、重要な会議の内容とかがポロっと横から漏れ聞こえてくる。
なので、基本的には信頼できる人しか入っては行けない場所なんだけど……。
「あ、これ、ガッシーのキーホルダーのテスト版です。3Dプリンターで出したものをそのまま持ってきてもらいました」
「おおーっ、デフォルメのスケルトン! かわいいんじゃない? 腕とか足が細いから壊れやすくないかな?」
「関節部分は金属のピンで止めて、可動するように作成するそうです。あとは頭に電池を入れて、ボタンを押すと目が光るようになるそうです」
「すごい! こんな凄いのが一ヶ月で出ちゃうの? バンダースナッチさん凄いなー!」
商品担当のパラスさんに説明を受けて、大興奮の社長。
ふうらいエレメンツ初の、キーホルダータイプのグッズだね。
これは人気出そうな気がするなあ。
自分の分の勉強をひとまず終えて、周囲の音に耳を澄ませる僕なのだ。
横では、ファノリーさんがうんうん唸りながらテストの範囲を書き写してる。
スマホは撫子さんに取り上げられたので、勉強するしかないのだ!
「かざりんは集中したら、サクッと覚えちゃったよね。さすがのスペック! っていうか今はキャパオーバーなんでしょ?」
「そうかも……。勉強が入ってくる隙間が少なかったかも知れない」
反省した。
今後はもうちょっと、勉強部分にも力を割いていきます。
学生の本分は勉強だもんね。
それに、勉強で習い覚えたことが将来の配信のネタに繋がる気がする。
「どれどれ……? ファノリーさんが苦戦してるところを僕も見てみたい……。あっ、数学Ⅱの総まとめ部分」
「そうだよ~! なんでうちの学校は文系と理系で分かれないの~!? 女子にこんな高度な数学が分かるわけがなーい! しかも一学期で数学Ⅱが終わって、二学期からⅢでしょ? 死んじゃう~」
「問題発言!」
撫子さんがファノリーさんの頭にチョップした。
「ウグワーッ!」
「アマーリエ・エミー・ネーターに謝んなさい」
「誰よそれー!?」
「女性にして天才数学者と言われ、抽象代数学において偉大な功績を残し、彼女の名前が冠された法則が存在するわ。凄い人よ」
「撫子さんの目が据わってる! ほんとに尊敬してる人なんだ!」
「あんた理系だったのね……!! 文系の大和撫子みたいな見た目なのに……!」
「数学Cは独自でやってるわ。趣味で」
こうして反論を潰されたファノリーさんは、勉強せざるを得なくなったのだった!
高校一年生のところから振り返って、コツコツ教える撫子さん。
分かりやすくて僕も助かる。
暗記とかじゃなく、基礎から学ぶと、考える土台が生まれる。
そうすると思考力が上がるもんね。
「数学は分かると面白いね」
「でしょう!? ほらファノリー! かざりんは分かってくれてる!」
「ぐうう、人間どもめえ~」
ファノリーさんが悲しいモンスターの呻きをあげたところで本日は終了。
お茶とお菓子の時間になった。
「お話は終わり? じゃあかざりさん、こっちこっち」
「はーい」
僕は呼ばれて席を立つ。
なんだなんだと振り返る、撫子さんとファノリーさん。
「水着のデザインが上がってきたので」
「なにっ」
「水着だとっ」
二人ともガタッと音を立てて立ち上がった!
な、なんで注目してくるんだー!
「二人ともー。これは社外秘なので見せられないわ。話の端だけ聞いて、想像力をたくましくしていなさい。あなたたちには全国で誰よりも早く悶々とする権利をあげる」
ルンテさんの無情な宣告に、撫子さんとファノリーさんが「うわーっ」と嬉しそうな悲鳴をあげるのだった。
嬉しいんだ!?
「ファンはいち早く情報を掴むと、優越感を覚えるものよ。ま、かざりさんのテストが合格したら、二人には一瞬だけ水着を見せてあげてもいいわね。良くない?」
「ま、まあそれくらいは撫子さんへのお礼として……」
ファノリーさんはいつも助けてくれてるし。
そうしたら、二人とも「うおーっ!」とはしゃいだ。
「それにしても、なんでいきなり水着の話が? そりゃ、そういうのいるよねって話は出てましたけど……。本格的に企画が進んでるのは僕、初耳なんですけど」
「葉月きららさんがカッとなって作成したそうで、送ってきたの。依頼してないのに」
「あー、葉月ママならやりそう。絶対やる」
どうやら、僕の歌ってみた配信にインスパイアされてデザインを作り上げたみたい。
どれどれ……と見てみたら、鮮やかなライムグリーンのワンピースタイプの水着だった。
「あっ、かわいいかも。手足にシュシュみたいなのがついてて、それが黄色なんだ」
「この黄色の麦わらと合わせて、ヒマワリ畑をイメージしたんだって。絶対に太陽の力を受けてパワーアップする仕組みがあると思う」
「ルンテさんが不思議なこと言ってる……。考えすぎじゃないかなあ」
「いいえ。あの人はやる。絶対やる」
なんだろう、ルンテさんの葉月ママに対するこの絶対的信頼は。
古くから付き合いがあるのかな?
「この画像情報をAフォンに食べさせれば、すぐにアバターに反映はできるけど……。ここからブラッシュアップが必要かもね」
「そうなんですか? 凄くかわいいと思いますけど」
「清純派過ぎる……!! かざりさんは少しずつ、少しずつ大人の女性の要素も入れて行きたいの。あなたのアバターがデザインされた当初より、お肉がついてるでしょ?」
「あ、はい。筋肉もつけましたし」
「そういう健康美を見せていくなら、もうちょっと露出が欲しい……! 脇腹とか見せたい。背中も見せたい……!」
「ルンテさんのこだわりが……」
なお、この話を、撫子さんとファノリーさんがパーテーションから乗り出して聞いているのだった。
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