第112話 お手合わせ、ベルゼブブ!
お茶請けにミニケーキの山を出されて、それを猛烈な勢いで平らげたベルゼブブ……いやベルっち。
本人がベルっちと呼んでほしいと言うんだから、そう呼ぶのがいいんだろう。
「あー、美味しかった。お高いお茶請けなんでしょ? えっ、うそ! そんなお手頃に!? 帰りに買って帰ろ……」
「すっかり馴染んでるなあ」
そこへ、明がやって来た。
「こんにちはー」
「お帰りかざりー」
「お帰りですぞー」
「あなたがかざりちゃんね!?」
パッと立ち上がるベルっち。
「あっ、教科書で見た人!!」
「正確にはその分身。暴食の大罪、魔王ベルゼブブでーす。よろしくね二代目きら星こと、かざりちゃん!」
「あわわー、なんか葉月ママを思わせる押しの強さ!」
もともと同一人物だったんだぞ、その魔王。
「じゃあ詳しい話を聞かせてくださいな。能天使と殴り合ったでしょ? どんな感じだった? 殴り心地は?」
「あっあっ、必死に歌ってたので全然覚えてないです~! き、気がついたら倒してた感じで……」
「あー、はづきの遺伝子を感じる」
納得したみたいだ。
明の戦い方、独特だからなあ……。
「よし、じゃあ最後の情報収集として、ちょっと軽くやってみよっか!」
「へ?」
「えっ?」
あたしと明は、なんか信じられないことを言われた気がして間抜けな声を出してしまったのだった。
「ほーん、二人とも頑張ってー」
「何言ってるの。魔眼使いのあなたも来るに決まってるでしょ」
「ぎえーっ」
嫌がる恵美奈を、あたしと明で担いで移動。
「うおおー! 離せ! 離してーっ! なんで二人ともそんなにパワフルなんですかーっ!! 私は! どこにでもいる普通の女子くらいの身体能力しか! なあーい!!」
じたばたむちむちと暴れている。
こんな感じでエレベーターで一階に移動し、途中で入ってきた他のフロアの人に、
「どうもお騒がせしてます」
とあたしと明で頭を下げた。
彼らも、あたしたちが何者かはよく知っているようで「話のネタになりますよ」と笑ってスルーしてくれたのだった。
外には黒塗りのバンが停まっていて、クールビズ姿の迷宮省職員さんが運転している。
アロハシャツにハーフパンツですか。
いかついお兄さんなんだけど、あたし達を見てちょっとニコッとした。
「この三人が、これからの冒険配信界を引っ張っていく子たちなんですね」
「そうなんですよー。こういうのって実力じゃなく、運命みたいなものなんで。彼らがその渦中にいるっていうのは、大罪会議でも結論付けられたんですよねー」
「なんかすごい話をしてない?」
「大罪って、一人ひとりが退魔師の総力を懸けて祓わなければならない、大妖怪なんだけど……。なんかベルゼブブさんはそんな感じしないんだよねえ」
「その退魔師が敵に回ってますからなー」
三人でペチャペチャ話をしていると、走り出した車が良く分からないルートに入っていき、途中で地下に潜った。
地下に!?
あんなところに地下に通じるルートあった!?
道路がウィーンって展開してなかった?
「ほえー、すごいねえ」
なんで明はこの状況でものほほんとしているんだ。
「いや、異常だから。あたしたちは異常なものを見ているぞ! うおー! なんだこれはー!!」
「迷宮省はなんか謎に権力がありますからな……。都市に独自の改造を加えてても許されるくらい」
ベルっちが助手席から振り向いた。
「そう、その通り。時代が時代なら、悪の秘密組織みたいな、そういう政府の特殊機関なんだよねー」
「いやー勘弁して下さいベルゼブブさん。一応これ、ダンジョン型災害対策の、避難路なんですから」
迷宮省の人の説明で納得。
街が丸ごとダンジョン化した時のためのものなのね。
地下通路をガーッと走ったと思ったら、広い空間に案内された。
ここは?
「ここは避難所予定地です。さ、降りて降りて。迷宮省では様々な新技術が開発、実戦投入されてるでしょ? そういうのを今は全部ここで実験してるわけ。ここなら、私と手合わせしても地上に被害は及ばないからねー」
「な、なるほど……。じゃ、やりましょう」
あたしの言葉に、ベルっちが目をちょっと大きくした。
「お手柔らかにとか無いんだ?」
「手加減されたらムカつくでしょ。あたしは全力でやるんで、そっちも加減抜きでお願いします!」
「オッケー。とは言っても、手加減抜きは今の君たちには流石にヤバいです。大盤振る舞いして10%でやってあげる」
む、ムカつく~!!
「ガッシー! あたしら舐められてるぞー!!」
『もがもがー!』
ガッシーが実体化する!
「これが噂のがしゃどくろね? 人間と組んだことで、使い手とともに成長する使い魔となった妖怪……! 興味深いなー」
「おら、今だ! 不意打ちだ! ガッシー!」
『もがーっ!!』
ガッシーが拳を伸ばして、ベルっちに叩きつける!
あたしはその腕に乗っていて、炸裂と同時に飛び蹴りだ!
「うほー! 同時攻撃!」
余裕の声が聞こえたと思ったら、あたしの蹴りは空中で受け止められている。
ガッシーのパンチも足で止められている。
な、なんだこいつー!!
化け物かー!
ってか、二世さんといい、この世界は異常に強いやつが多くない!?
もしかしてあたしらが戦ってきた退魔師も含めて、井の中の蛙だった!?
「ええい! オラオラオラっ!! 一発でも通れ! 通れーっ!!」
『もがー! もがもがー!』
これを、涼しい顔をしながら捌き、ガッシーの攻撃は回避しながら、ベルっちが解説を始める。
「まだ君は人間だってこと。同接が乗って初めて限界突破するけど、いざって時に人間のままだときっついよー。生身でも強くなろう! あるいは、ちゃんと対策を立てておく! 戦い方も割と我流でしょ? 当て勘はあるけど、それだけじゃ限界が来るし。我流を極めるなら不条理の世界に足を踏み入れなきゃ。そうでないなら、師匠を見つけよう! ほいっ!」
ベルっちの水面蹴りが決まり、「うおおーっ!?」とあたしは転倒した。
つ、つえー!!
ガッシーも、ベルっちにズドンと押されて尻もちついてるし。
ちょっと最近立て続けに、自分のレベルってのを実感させられちゃってるな。
あたしだけだと限界ってこと?
これは……しばらく特訓配信できる師匠を見つけないといけないんじゃないか……?
そうしないと、いつまで経ってもアイドル活動に踏み込めないぞ!
うむむむむ!
唸ってるあたしの横で、引っ張り出されてきた恵美奈が、デコピン一発で「ウグワーッ」とぶっ倒されているのだった。
おい、もうちょっと粘れー!
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