第111話 教科書の中の人が来た
「なにっ、恵美奈が明と一緒にご飯を食べて誘惑した!?」
「そ、そんなことはありませんぞ!! いや、ですが今の上鳴くんよりもなんかこう、凄いスキスキオーラを感じた気が……」
「魔眼使いは視線の専門家だから、それが答えじゃん。あいつまだ恵美奈のことが好きなんだな……おっぱいスキーめ。おい、何をニヤニヤしてるんだ恵美奈」
「なんかこう、私の最近の流れは凄くいい感じだと思いまして。魂の上鳴くんからの愛を感じる~!」
「あいつおっぱい好きなだけだぞ」
「それでも……それでもいいので……! 愛を感じたい!」
「めんどくさい女だなあ!」
あたしもまあめんどくさい方の女だと思うけど!
今は男の体なので、さっぱりしたものだ。
事務所にて昨日の話を恵美奈から聞いて、歌ってみた配信についても感想戦を繰り広げているところだ。
明め、格闘能力も上げていたのだ。
あんな見栄えのするバトルをしてくるとは……。
素手でも、あたしといい勝負するんじゃないか?
やっぱりあいつは強い。
あたしの体を使って、あたしが出来なかった動きをやるとはな……。
「君たち最近ずっと事務所にいるね」
社長がパーテーションの向こうからひょいっと顔を出してきた。
オーガだから、普通にパーテーションより背が高いんだよなこの人。
「なんか広くなったじゃない。凄く居心地が良くて……」
「私の自宅はまだ、物が無くてがらんとしてるので……」
「二人とも別の理由だった! まあ、よく事務所にいてくれるのは助かるかな。今日は凄い人がやって来るからね。迷宮省の外部特別相談役」
「外部特別相談役ぅ?」
謎の役職を聞かされた。
なーんも頭の中でイメージできないんだけど。
そしたら、エレベーターが上がってきてご本人様登場。
事務所に続くところが、一応扉みたいになってるんだけど、なぜか社長はここをフルオープンにしてるからなあ。
現れたのは、レディススーツに身を包んだ若い女の人だった。
髪の色がピンク色だ。
あの顔、どこかで見たことがあるような……。
「どうもー。アポイントは取ってると思いますけど、やって来ましたー。ベルゼブブでーす」
その言葉で思い出した。
「きら星はづき! 動画で見たまんまの、若い頃の!!」
「正解! 若いのによく勉強してるねえー」
ベルゼブブがにっこり笑った。
恵美奈が「ヒェーッ! 魔王!」とか震え上がる。
「何怖がってんのよ」
「いや、あの、あんな危険な怪物が当たり前みたいな顔して、なんで現代社会を歩き回ってるんですか!? 動画で見たらそうでもないと思ってたのに、本物は洒落にならないから……!」
恵美奈には何かが見えるらしい。
多分、ベルゼブブの本当の姿が影絵みたいに映ってるのかも?
これを聞いたベルゼブブ、フクザツそうな顔になった。
「それは私のオーラの形で、私ははづきから分かれた分身なの。つまり、この姿が本来の姿ね? ここから変身するとかないから。せいぜい触覚と羽を生やすくらいで……」
「ベルゼブブさんどうもどうも。本日はよろしくお願いします」
「あらー、社長さんどうもー。こちらこそですー」
うちの社長と魔王ベルゼブブが名刺交換してる。
なんだこの光景は。
後からルンテさんも出勤してきて、
「あら! ベルっちさん!!」
「ルンテさーん! お久しぶりー!」
二人で駆け寄って、きゃあきゃあはしゃいでいる。
そっか、元イカルガエンターテイメントだから、この二人は顔見知りなのだ。
過去のイカルガってどんだけ魔境だったんだ。
今もバングラッドさんがいるから、魔境に違いはないけど。
「今日は、ふうらいエレメンツの皆さんが出会った天使について、直接話を聞こうと思って来たんです」
応接室にてソファに腰掛けるベルゼブブ。
お茶とお菓子が出たら、すぐさまお菓子の方をパクパク食べ始めた。
早い!
食べきってしまった!
「恐ろしい存在のはずなのに、もう親しみを覚えるようになってる……。恐ろしい人ですぞ」
「そうなの? 確かに、あんなに怖がっていた恵美奈が普通に対面してる」
ソファには、あたしと恵美奈、そして社長が腰掛けている。
対面にはベルゼブブと、なぜかルンテさん。
「本題に入りましょ。そちらの配信のアーカイブに、まとめ動画も色々拝見しました。考察動画もチェックしたんですけど、やっぱり直接来て話したほうが早いよねということになったわけです」
「なるほど……。経験者に聞いたほうが良かったりしますもんね」
「そう! それでサンダーさん、殴り心地はどうだった?」
「殴り心地!!」
そりゃ確かに、本人に聞かないと分からない!!
「なんか人間の体とは違ってて、衝撃を吸収するような感じでした。みっちみちに羽毛が詰まってるみたいな」
「なるほどなるほど。やっぱり連中、この世界の生物を使って受肉したわけじゃないかもね」
スマホで録音しているベルゼブブだ。
「あ、事後承諾になっちゃうけど、録音させてね。これ、迷宮省で今後の対策会議に使われる貴重な資料になるから。それでエイミーちゃんはどう?」
「えー、わ、私はですなー。緊張でそれどころじゃないというか、そもそも直接攻撃能力がないんですが」
「魔眼で見た感じ! 隠されたものを見破る、看破の魔眼使えるんでしょ? さっき私のオーラを見破ったじゃないですか」
「ひいー。ふ、布石だったんですかな!? えっと……天使の後ろに、糸みたいなのが見えました。光の糸が遠くまで繋がってると言うか……。天使を通じて物を見ているやつがいるというか……」
「はいはい。やっぱりあいつらは傀儡ってわけね。あとは、かざりちゃんに聞きたいなー。権天使より上の能天使と戦ったわけだし」
詳しいな、この人……!
「明はすぐ来ると思います」
「そう? じゃあ待たせてもらいますねー。あのー、お茶請けのおかわりをいただけると嬉しいんですけどぉ……」
この人、腹ペコキャラか……!?
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