第110話 なんか色々あったけど大成功!
「歌ってみた配信の大成功を祝しましてー! かんぱーい!!」
「かんぱーい!!」
「かんぱーい!!」
この場には!
ルンテさんと僕と、なぜか刑部さんがいる!
僕が「なんでいるの!?」という目で見たら、彼女がへへへと笑った。
「実はルンテさんに相談があって探してたらちょうど打ち上げするところだったんですぞ」
「あ、そうなんだー」
疑問が氷解した。
ここはカラオケボックス。
配信者がプライベートに楽しむなら、こういう個室の方がいいんですって。
ジュースにポテトにチキン、ピザとかがテーブルにぎっしり並んでいる。
これをパクパクやりながら、今日の総括をするわけだ。
「いや、色々あったけど、とりあえず大成功って言っていいよね。かざりさんの凄いところ見ちゃったね。まさか素手でわけのわからない怪物をボッコボコに粉砕するとは……」
「つい、昔習い覚えた技が出てしまって……。本来は妖怪には通用しないはずなんですけど、凄く効いてしまって」
「何をしたんですかな?」
チキンをもぐもぐ食べている刑部さんが聞いてきた。
「歌ってみた配信のラストで、敵が大群で襲ってきたのよ」
「えっ!? 放送事故では!?」
「彼女、歌いながら次々に敵を撃破したの。これ見てこれ」
「うおおおおお!? これやらせではなく? 現実に? 起こった!? えっ、かざりさん、こんなに強かったの……?」
「はい、一応退魔師として幼い頃から鍛えていたので……」
「あっ、中身は上鳴くんなのでした」
思い出してもらえただろうか。
「退魔師の近くにずっと私がいるのに正体に気付かないから、さては鈍いのではと思う時もありましたが、よく上鳴くんの熱視線を感じていたので監視されていた気もするんですよね」
「もうその辺にしてください」
「ははーん」
ルンテさん、何がははーんですか!
こういう恥ずかしいシチュエーションにするのやめて欲しいー!
僕は刑部さんのことが結構気になっていたので、視線がチラチラ行っていたのは認めざるを得ない。
今は遠く離れてしまって、これで今生の別れだなと思ったら同じ事務所にやって来るし。
正直、あの地雷系というファッションは彼女に似合ってるとは思わないけど、かわいいのは確かだと思う。
「もっとこう……刑部さんは制服とかピチッと体を包む服が似合うと思ってて」
「えっ!? なんだか今、凄くフェティッシュな話をされた気がしますぞ……!」
「青春だねえー」
ルンテさんがにやにやした。
な、何を考えてるんだー!
雑談をしながら、今日の総括を行っていく。
「今回の配信だけど、最終的にはなんと同接20万人を記録しました。これ、凄まじい記録よ。登録者55万人の配信者ができることじゃないわ。登録してない新規リスナーが大量にやって来たと思っていい。このうちの10%が登録してくれれば大成功ってものなんだけど……。見て。今のかざりさんの登録者数は65万人。50%が登録してくれたことになる」
「そ……それは凄いんですか……?」
「異常事態ですぞ」
刑部さんがポテトをもりもり食べながら呟き、ルンテさんが真剣な顔で頷いた。
「かざりさん、きっとあなた……今凄い追い風が来てる。ううん、それ以上に、良く分からない世界とか運命の後押しみたいなのがあなたをどんどん前に進ませようとしてる」
「良く分からないものってなんですか!?」
曖昧な言い方は不安になる~!
それはそうと、ピザが無くなりそうだったので慌てて確保。
刑部さんよく食べるなあ。
「ハッ、かざりんの視線が! ち、違いますぞ! 今日はタダメシを食べられるので、喜んでガツガツやってるだけですぞ!」
「今まではどうやって生活してたの?」
「魔眼の力でお金持ちの家の娘になりすまして……」
「ひえー」
今は事務所に紹介してもらったマンションで一人暮らししてるらしい。
なお、隣室が社長だとか。
「ということで、事務所は今、かざりさんをとにかくプッシュする方針だから。サンダーは勝手に独自路線を突っ走って伸びるし、エイミーはツッコミが好きなリスナーがどんどん登録してて、物凄い伸びよ。もうすぐ収益化できるでしょ」
「ありがたや~」
刑部さんが祈る動作をした。
手にポテトを持ちながら祈るのはどうかなあ。
あっ、ポテトが僕の方に飛んだ!
「あー! もったいないー!」
身を乗り出してポテトを取ろうとした刑部さんだけど、ちょっとペタッとしたカラオケボックスの床に足を取られる!
平たい床で足を取られるってなんだって思うけど、「うおーっ!?」とか言いながら僕に倒れてきたのだ。
「あぶなーい! おりゃー!」
刑部さんをキャーッチ!!
うわーっ!
なんかすごいボリュームだぞ!!
「エイミーはちょっと痩せたほうがいいわね。動きやすくするために」
ルンテさんが冷徹に告げた。
「は、はい」
「夏は水着を着るから、見せられるお腹になりましょうね」
「は、はい。あのー、かざりん、ずっと私を熱くキャッチしてくれてますが、もう離してくれても……」
「はっ」
僕は彼女を元の体勢に戻した。
うーん、成り行きでギュッと抱きしめてしまった。
心臓がバクバクいっている。
体は女の子になったのに、気持ちはやっぱり男のままなんだなあ……!
家に帰ったら、この体験をノートにまとめよう。
これは残しておかねばならない気がする!
「それじゃあ、今回の歌ってみた配信の凄まじい成果をもとに、これから会社は経営計画を立てていくことになります。また連絡しますね。お仕事の話はここまで。さあみんな、せっかくカラオケ来てるんだから、歌っちゃおう!」
ルンテさんがマイクを手に立ち上がる!
その日は日付が変わるまで、お祭り騒ぎだった。
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