第108話 始まる歌みた!
「思ったよりもこじんまりしたスタジオ!」
「今日はかざりさんが歌うだけだからね。絶賛上がり調子のファイヤー・アンド・ウインドですけど、締めるところはきちんと締めます。余計な出費は必要ない」
ルンテさんがぴしゃりと言った。
凄い。
本当にベテランマネージャーなんだ。
「防音設備はバッチリ。背景の加工はAフォンに送り込み済みだから、リアルタイムでやってくれます」
『お任せくださいレディ』
風神号がルンテさんをレディって呼んでる。
いつの間に仲良くなったんだろう……?
「じゃあ時間はどれくらいですか?」
「そこは安心して。部屋の広さではなく、配信にたっぷり余裕があることが大事だもの。貸しスタジオの営業終了時間まで取ってあります。時間のことは気にせずやってちょうだい」
「凄い、何から何まで考えられている……!!」
凄いマネージャーだ……!
ということで、僕は五曲全部を通しで歌ってみる。
いい感じみたい。
これを横で聞いていたルンテさんが、ポカーンとしていた。
「う……上手いのねかざりさん……!」
「いやあ、あの、この体の持ち主である花咲里さんのお陰だと思います。全然、歌うテクニックとかないし……」
「奇をてらわず、技巧に頼らず、真っ直ぐに歌っただけでこれは才能だと思うわ……。す、凄い……。歌だけを取るならきら星はづきより上です。本人の歌を近くで聞いてましたから」
「ええーっ!? そ、そんな恐れ多い……。伝説の配信者さんでしょう?」
「彼女の場合は、歌の実力というよりは歌声にキャラクターも乗ってくるので、そこが最大の魅力だったわけです。キャラを除いた時、純粋な歌声ならあなたは凄い実力者だと思うわ。それもこれから技法を身につけ、どんどん成長していくのね……。末恐ろしい……」
恐ろしい子……!!
となんか戦慄しているルンテさんなのだった。
そんなに褒められると思わなかった。
カラオケボックスでみんなが褒めてくれたのは、接待みたいなものだと思ってたんだけどなあ……。
一通りリハーサルをやったらお時間だ。
待機所には、もう一万人集まってる。
いちまんにん!?
しかも見てる間にどんどん増える!!
※『楽しみ!』『どんな歌を聞かせてくれるんだ』『一時間くらいの配信らしいけど』『曲数は多くないか』『まさか歌みたをやってくれるとはなあ』『雨空続きの今、心を晴れやかにしてくれそうだ』『詩人がおる』『まだ聞いてみな分からんぞ』『鬼が出るか蛇が出るか天使が出てくるか』
「あ、皆さんお集まりで……」
※『きたああああああ』『こんかざあああああ』『この日を楽しみに一週間生き延びてきた!』『我らの希望の星!』『偉大なる北天に輝く一番星!』『かざりんの歌みた、きっと素晴らしいものになる』『君の声を聞かせてくれえええ』
いつもは見ないたくさんのリスナーさんがいる!
どうやらみんな、普段はアーカイブを見てくれているようなんだけど、今日は時間を合わせて集まってくれたみたいだ。
いつものリスナーさんが埋もれてしまうくらいだー。
「こんかざー。じゃあ、時間ぴったりになったら開始しますね」
※『おっと、かざりん冷静だぞ』『無言で時計見てる』『なんだこの配信はw』『お喋りしようかざりん!』
「あ、はい、あと4分です」
※『違う、そうじゃないw』『だんだん先代に似てきたか……?』『ポンの性質が違うからな』『あっちは生き様がふざけていたが、こっちは常に大真面目にポンするんだ』
「あと3分です」
※『かざりーん! 配信事故みたいになるぞーw!!』『時間の読み上げしかしないのなんでだーw!』『バックで女の人が笑ってる声がする!』『オカルトか!?』『普通にスタッフさんだなこれ』
画面外からルンテさんが入ってきて、僕の頭に軽くチョップしていった。
「普通に喋ってもいいから。タイムキープはいい加減でも、たっぷり時間はあります!」
「あ、はい! そうでした!」
そしたら、コメントの一部がワーッと盛り上がった。
※『ルンテさん!?』『イカルガ辞めたあと、行方が分からなくなっていたルンテさん!?』『伝説のマネージャーがどうしてここに……!!』『イカルガエンタの配信者を十人育て上げた敏腕が!』『かざりんのマネージャーに!?』
「えっ、ルンテさんってそんな凄い人だったんですか? ほえー」
※『いつも通り何も知らないかざりさん』『君は一体何を知り得るのだw』『お陰で俺達が教えても嫌味にならない配信』
「えへへ、いつも勉強になってます。あ、時間ですね。じゃあやっていこうと思いまーす」
※『はーい』『始まった』『最初の興奮がみんな落ち着いてきちゃったな!』『ふにゃふにゃのトークで場の熱量がぬるま湯くらいになったぞ』『なんて独特の配信だ』
みんながリラックスしてお喋りしてる中、僕は風神号に合図をして音楽を流してもらう。
前奏がある、ちょっと前の時代の曲……らしい。
歌いやすいんだよね。
※『あ、これ……!』『【エルフたび】のOPじゃん!』『カメラがルンテさん映したw! めっちゃ驚いてる!』
そう。
これは隠してた本当の一曲目。
エルフたびって、ルンテさんが担当してたエルフの配信者さんと一緒に日本中巡る配信をアニメ化したものらしい。
その始まりの歌になっていたのがこれ。
ルンテさんへのお礼も兼ねて、歌うぞーっ!!
僕が一声を発したら、チャット欄がすごい勢いで流れていった。
※『ふおおおおおお』『ああああああああ』『(ペンライトの絵文字が連続)』モチョチョ『なんだ……心が……洗われる……』回転『なんて透き通った歌声……なのに耳に優しく届いてハートをギュッとキャッチしてくれるような……』
歌ってみた配信、たった五曲だけど……。
楽しんでいってくださーい!
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