19 私は、ジンが好きです。
定期テストが終わり、結果が配られました。
アオイさんと一緒に自分の成績表を見ながら、自然と笑顔がこぼれます。
「フィーネさん、すごいじゃん! 点数が上がってるよ!」
アオイさんが目を輝かせます。
確かに、成績は上がっていた。
ジンに教わったおかげで、特に歴史と数学は格段に良くなった。
「ジンのおかげよ。すごく教え方が上手で、わかりやすかったです。家庭教師に任命してもいいくらいです」
実際成績がぐんと上がったのはジンのおかげ。手放しにジンのことを褒めると、アオイさんがニコリと笑った。
「フィーネさん、いい顔してる。ジンくんのこと、好きになっちゃった?」
その言葉に、一瞬息が詰まりました。好き? 私が、ジンを?
「え、いや、そんな……」
どうしてそんなことを、と思うけれど、アオイさんは確信を持ったように言う。
「フィーネさんずっとジンくんのこと目で追っているんだもん。自覚無かったの?」
言葉に詰まりました。
私、旗から見てわかるくらいジンのことを意識していたの?
けれど、確かにジンのことを知りたいと思ったし、話すたび、ドキドキしています。
でも、私は貴族。ジンは平民で……本来なら道ですれ違うことすらない存在です。
アオイさんは私の手を取って力説します。
「好きなら好きって言えばいいじゃない。だって卒業したら会う機会無くなっちゃうよ? わたしはもう前世に戻ってやり直したかった日を取り戻すことはできないけど、フィーネさんは今、同じ学園の中にいるでしょ。何もせずに一年終わっていいの? 私の知るフィーネ・エンデバーは身分なんて関係なく相手に向き合う、そういう強い人。あなたは、フィーネ・エンデバーでしょう?」
「……アオイさん」
言えるときに伝えないと、何もなく終わってしまう。そのとおりです。
放課後。私はジンを学園内で見かけて、思わず足を止めた。
ジンは相変わらず、チェルシー王女の教育係としての準備に余念がありません。
王室から本を借りて、教育係に必要なことを熱心に勉強している様子です。
「ジン」
声をかけると、ジンが振り向きました。
「フィーネさん、どうしたんです?」
いつものように微かに微笑む。
私は胸の中で何度も自分の気持ちを整理しようとするけれど、どうしても言葉が出てこない。
「ジン、ありがとう……」
「え?」
「ジンのおかげで成績が上がったんです。本当に、ありがとう」
ジンは少し驚いた顔をしながら、首を横に振ります。
「それはフィーネさんの努力の賜物です。僕は、少し手伝っただけ」
自分のおかげだと誇ることをせずに、謙遜する。ジンらしいです。
どうしようもなく惹き付けられて、目を逸らせません。
「……私は、そんなジンが好き」
ぽろり、とつい言葉が漏れてしまいました。顔が熱くなって、胸が苦しい。
「……好き。好きなの」
ジンの顔が一瞬固まったように見えました。
言葉が喉の奥でつっかえたけれど、もう止められなかった。
「貴方が好き。貴族の男性から何件か婚約の話が来たけれど、全部断りました。私が欲しいのは、何でもしてもらえるような贅沢な暮らしじゃない。みんなで手を取り合う、孤児院で見たようなささやかな日常がいい。小さな幸せを分け合える、そういう日々を幸せだと思える、貴方がいい」
頭の中で言葉を整理しようとする暇もなく、次々と言葉が溢れ出してきます。
「貴方が好き。こんな気持ち、迷惑になるって、わかっているのに……」
涙が止まりません。頬を伝う涙を拭う暇もなく、自分を止められません。
「身分なんて関係ない。私は、ジンと歩きたいです」
言いながら、ジンの顔を見た。彼は少し驚いた表情をしているけれど、私の言葉が冗談でないことは、きっと伝わっているはず。
涙を拭いながら、私はただジンを見つめた。
ジンの反応が気になって仕方がなかったけれど、その顔に浮かぶ表情に希望を見出したくてたまらなかった。
ジンは静かに息を吐き、少しだけ距離を縮めてきた。そして、私を見つめる目に優しさが浮かんだのがわかった。
「フィーネさん……」
その言葉に、私は思わず息を呑んだ。ジンが私にどう答えてくれるのか、全てをかけた瞬間だった。
「僕も、フィーネさんのことが好きです。真っ直ぐで、不器用で、一所懸命で、嘘をつけないところが好きです」
涙がこぼれ続けるけれど、今はその涙が嬉しいものに変わったことに気づいた。
「でも、僕はまだ、チェルシー王女の教育係になるために、やるべきことがたくさんあるから。卒業して、ちゃんと仕事をできるようになるまで待っていてくれますか」
ジンはやっぱりとても真面目だ。
私を大切に思ってくれている気持ちがわかる。
「私はあまり気が長くないから、早めにお願いね」
そう答えた瞬間、ジンが少しだけ笑った。
「ありがとう、フィーネさん」




