17 平民の僕が大役を任されてしまった。
週明け。
学園の門をくぐり、校庭を歩く。季節は夏に近づいていて、ココ最近は日差しが痛いとすら思う。
ぼんやり空を見上げていると、突然後ろから声をかけられた。
「ジン、少し話せるか?」
振り返ると、そこにはディオン王子が立っていた。
ディオン王子が僕に声をかけるなんて、予想もしていなかったので、少し驚いた。
「殿下。どうかされましたか?」
ディオン王子は落ち着いた表情で、少し視線を逸らしながら言った。
「エンデバーから事の真相を聞いた。先日の件、チェリーを助けてくれたのは入れ替わった君だったと。ありがとう」
「恐れ多いです。僕はただ、泣いている子を放っておけなくて声をかけただけです。王女とは知らずに無礼な口のききかたをしてしまって、申し訳ないです」
王子の感謝の言葉に、僕は恐縮しながら答える。フィーネさんから敬語を教わったけれど合っているかな。平民同士でこんな話し方はしないから、慣れるまでが大変そうだ。
「君が損得勘定抜きに手を差し伸べたからこそ、チェリーも懐いたんだろう。あの子は人の感情に敏感で、悪意や野心を持った者の気持ちを感じ取ってしまう。だからなかなか人に打ち解けられないんだ」
王子は僕の姿を見ながら、静かに続けた。
「そこで、君の人柄と学力を見込んで頼みがあるんだ」
「頼み、ですか?」
その言葉に、僕はさらに戸惑う。
一国の王子から頼みごとをされるなんて思いもよらなかった。
「学園を卒業したら、チェルシーの教育係になってくれないか。君にはすでに懐いていただろう?」
「教育係……? 僕が? 王族の教育係なら、貴族出身の方が適任ではないのですか?」
「先程も言っただろう。貴族の教育係を担う者は、自尊心が高く、相手を自分の思い通りにしようとする野心家も多い。チェリーは君のように、真摯な人から学ぶことが必要だ。君ならチェリーに良い影響を与えられるだろうと思っている」
王子の顔に、真剣な光が浮かんでいた。
孤児院の弟妹ならともかく、国の未来を担う王族の教育係になる?
想像もしたことのない就職先で、言葉がうまく出てこない。
「僕はただ王女を助けただけで……。それだけで教育係にするのは、早計ではありませんか」
「君は無欲だ。しかし、その無欲さこそが、チェルシーにとって大切なんだ。無理に相手に何かを求めたりしない姿勢が、彼女に安心感を与える。だからこそ、君に頼みたい」
王子は、僕がどう反応するかを静かに待っていた。
ここまで頼まれて、断る理由は浮かばなかった。
必要だと言ってくれる人がいるなら、僕は自分にできる限りのことをしたい。
「僕は、困っている人がいれば、できることはしたいです。もしチェルシー王女自身も僕を教育係にと求めるなら、僕はできる限りのことをさせていただきます」
王子はほっとしたように笑みを浮かべた。
「ありがとう、ジン。君なら、きっとやり遂げてくれるだろう」
ディオン王子と別れて教室に向かいながら、僕はしばらく考えた。
まさか、チェルシー王女の教育係に任命されるなんて……。
予想外だったけれど、認めてもらえたことは嬉しい。
卒業まであと一年。もっとがんばって貴族社会のことも勉強しよう。




