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16/20

16 "王女を助けた私"を見初めた王子に求婚されました。

 お茶会の当日、私は王宮の美しい庭園に招かれました。

 用意された席に座ると、目の前にはディオン王子と、その隣にちょこんと座るチェルシー王女の姿がありました。噴水の涼やかな音が、静かな空気に溶け込んでいました。

 テーブルに並ぶのはローズティーと、様々なフレーバーのショートブレッド。

 本当に、私の好みに合わせたお茶菓子です。


「フィーネおねーたま!」


 チェルシー王女は満面の笑みです。

 慌てた侍女がそっと支えていましたが、それほど私を喜んでくださるなんて、自然と笑みがこぼれてしまいます。


「私もまたお会いできて嬉しいです」


 私の言葉に、チェルシー王女はさらに嬉しそうに笑いました。


「……やはり、チェリーがここまで懐くのは君だけだな」


 ディオン王子とチェルシー王女と三人でお茶を飲み、庭園に咲く花を眺めて、はしゃぎ疲れたチェルシー王女は途中で眠ってしまいました。


 侍女が王女を抱き上げて、「姫はお疲れのようなので、お先に失礼しますね」と一礼して庭園を離れました。



 残ったのは私とディオン王子の二人。

 ディオン王子が、真剣な眼差しで私を見つめていました。


「エンデバー。改めて礼を言わせてくれ。チェルシーを助け、支えてくれたことに、心から感謝している」

「私は、当然のことをしたまでです」


「謙遜しなくていい。……提案なのだが、もしよければ、わたしと正式に婚約しないか? そしてチェリーの姉になってほしい」


 ――婚約。


 その言葉を聞いた瞬間、私の胸が大きく波打ちました。


 王子との婚約。それは次代の王妃になるということです。

 貴族として大変な名誉のはずです。

 けれど、この求婚を受けるわけにはいきません。


「……私は王妃としてふさわしい人間ではありません」


 静かに首を横に振ると、ディオン王子は少し驚いたご様子でした。


「どうしてだ?」


 ――ここで嘘をつくのは、違います。


 誤魔化してこの場をやり過ごすことはできるでしょう。でも、それでは私の心が収まりません。


「ディオン王子、私にはお話ししなければならないことがございます」


 覚悟を決め、私はすべてを打ち明けました。


 あの日、階段から落ちた際にジンと私の心が入れ替わってしまったこと。


 数日後に元に戻れたこと。

 そして――チェルシー王女を助けたのは私ではなく、ジンだったこと。


「……何だって? 人の心が入れ替わる、そんなことが起こり得るのか?」


 ディオン王子の目がわずかに見開かれました。


「王女が泣いていらしたとき、そばに寄り添い、お話を聞いて差し上げたのはジンです。私は親族に小さな子がいませんから、接する機会がほとんどございません。でもジンは違います。彼は孤児院育ちで、毎日王女と同じくらいの年頃の子どもたちの世話をしております」


 私の言葉に、王子の表情がわずかに引き締まりました。


「……だから、チェリーにあれほど優しく寄り添えたのか」


「はい。私ではチェルシー王女と同じ目線でお話をすることはできなかったでしょう。……あの日、王女を助けたのはジンなのです」


 ディオン王子は沈黙したまま、しばらく思案するように目を伏せておられました。

 私は静かに待ちます。


 下手な言い訳をするつもりはありませんし、必要以上に自分を良く見せるつもりもありません。

 私が王女を救ったことにして婚約を受けるのは違います。

 ただ、事実を伝えたかった。それだけです。


 やがて、ディオン王子はふっと小さく笑われました。


「君は本当に正直な人だな。もし君が黙っていれば、わたしは気づかずに婚約を進めただろう」


「曲がったことは私の信念に反します」


 そう答えると、ディオン王子はますます満足そうに笑われました。


「……余計に惹かれるな」


「えっ?」


「君の誠実さに、改めて惚れ直したよ」


 真正面からそんなことを言われて、私は思わず固まってしまいました。


「ですが……」


「もちろん、この婚約の話はなかったことにしよう。ただ、チェリーが君を気に入っているのも事実だ。これからも友人として、チェリーと仲良くしてやってくれ」


 私は小さく頷きます。


「打ち明けてくれてありがとう。ジンには、後で直接礼を言うとしよう」

「そうしてください。王女を助けたのはジンですから」


 ディオン王子は静かに笑います。

 正直に打ち明けることができてよかった。

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― 新着の感想 ―
騙すようなかたちで婚約してしまったら、ずーっとフィーネさんはモヤモヤし続けたと思います!正直に事情を説明したことで、フィーネさんの誠実さはディオン王子からみてもとても好印象だっただろうし、これからディ…
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