14 フィーネさんは怒っているらしい。
ハキハキ物を言う強気な僕は、中にフィーネさんがいたからであって本来の僕じゃない。
ただの気弱な僕にはみんな興味ないんじゃないかと思っていたけれど、予想は外れた。
「ジンさん! わたくしも教わりたいですわ!」と、ロザリーさんが教科書を抱えてやってきた。
「そんなに何人も一度に教えたことがないから、ごめんなさい」
「……そ、そうですわね。わたくしったらごめんなさい。そんなに何人も一度に見たらジンさんの負担になりますわね」
せっかく頼ってくれたのに、悪いことをしたな。
でも人に勉強を教えたことがないからうまく教えられるかわからないし、仕方ない。
昼食後に一時間休憩時間があるから、そこでフィーネさんの勉強を見ることにした。
アオイさんは「わたし、たった今急用ができたから、二人で勉強していて」と言っていなくなってしまった。
図書室の一角。
誰もいない静かな空間で、向かい合って教科書を開く。
「じゃあ、まずは歴史のテスト範囲から。1300年になると、水道が普及し始める。それによって、蚊が媒介する病気の発生率が大幅に低下して……」
フィーネさんは静かに話を聞く。なんだかやけに僕の顔を見ているような気がする。
「……私だけ気にしているなんて、なんだか気に食わないです」
「……え?」
フィーネさんは言うつもりがなかったのか、慌てて自分の口を押さえた。
「わ、私は貴族で……家のために結婚しないといけなくて……なんでこんなモヤモヤするの……」
なにか自問自答している。
「フィーネさん。気にするって何を?」
意味がわからなくて聞くと、フィーネさんはうらめしそうに僕を見上げる。
「異性と二人きりでいて、気にならないですか?」
「孤児院には同年代の女の子もいたから、気にならないな」
僕より一歳下の女の子は、三年前に里親に引き取られて、今は幸せに暮らしている。
孤児院内に同年代の男女いるのは当たり前だから、気になるならない以前の問題だった。
フィーネさんはムッとしている。
何か言いたげなのにそれを飲み込んで、教科書に視線を落とした。
「……次の問題を教えてください」
「え? はい」
憶測でしかないけれど、フィーネさんは僕とキスしたことを根に持っている、のかな?
元に戻るための手段にすぎなかったけれど、やはり年頃の女性として思うところがあるのかもしれない。
マリーたちがいるから、小さな子の扱いは心得ている。でも、同年代の女の子が何を思っているか察するのは、僕には難しい。教科書に対処法が書いてあれば、今フィーネさんが不機嫌な理由もわかるのにな。




