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中編

それから、いくらか時が過ぎた。私はただただ親や周りから言われる通り勉強して、叱られて、呆れられて、そうして生きてきた。このお城の中で私は、今思えば大きな制約の中で、息苦しくいるしかなかった。


いつの間にか私にも、結婚の話がされるようになった。私だけの話ではなく、この国の貴族に結婚についての自由などなかった。ただただ親が決めた相手と言われるがまま結婚するしかなく、そこに良いも悪いも、私には考える余地がなかった。


私の知らないところで話はどんどん進み、私はハギ王国という、私のいるスーレン王国の隣に位置する国の王子と婚約することになった。お互い顔も知らないまま婚約の儀は終わり、時期が来れば結婚することが決まった。

私は、その相手を気の毒に思っていた。私には4つ年の離れたベアトリスという妹がいたのだけれど、彼女ではなく私と結婚させられる彼が、私には不憫に思えた。


政略結婚に本人たちの意思などないけれど、でもどうせ同じ国の王女とするのなら妹の方がいいに決まっていたからだ。美しい見た目に華奢な体躯、小鳥が鳴くような可愛らしい声、そして、彼女が微笑むだけでまるで花が咲いたように周りの空気が変わった。


一方私は、幼い頃と変わらず醜く、そして愚かしかった。だから親や兄から嫌われていた。あいも変わらず私は、親を怒らせては懲罰として部屋に長時間閉じ込められていた。

幼い頃は、自分が愚かなせいだと思っていたけれど、大人になると少し違う気づきがあった。親は醜くい私が疎ましいのだとわかった。私のことがどうしょうもなく嫌いで、でも自分の子どもを手放すことはできなくて、そのもどかしさから鬱憤がたまり、私を懲罰にかけているのだと。

そんな彼らのことを、私はしょうがないと受け入れるしかなかった。この頃の私は、自分に罪があると思ってしまっていたからだ。醜く生まれ落ちた私に非があり、その罪を甘んじて受け入れるしかないのだ、と。


私の周りにいる侍女は、婚約者が私を放って妹に執心する姿に、さすがに私が気の毒だと思ってくれていたようだけれど、兄からは、器量が悪いお前が悪い、と淡々と言われただけだった。



だから私は、私の婚約者は、あと少し遅く生まれていたら、私なんかではなく妹と結婚できたかもしれないと、そう本気で申し訳なく思っていた。そう思うと気の毒だけれど、彼が私と結婚せずに済んでも、また他の誰か哀れな人が私と結婚させられるだけか、と考えるしかなかった。




だから私は、婚約者と初めて会った時、彼が私ではなく妹に視線が行っていたことも、しょうがないと受け入れていた。

彼は、名前をヴィクトルというらしい。青い髪に青い瞳をした、端正な顔立ちをした男性で、私より2つほど年が上らしかった。ベアトリスは優しい彼になつき、よく彼に自分から会いに行っていたし、彼もまたベアトリスに会いに行っていた。


彼がお城にしばらく滞在する間、私など目にもはいらない様子でベアトリスと交流を深め仲を深めていた。美しい2人が並ぶとなんだかしっくりきて、私などお呼びではないということは明白だった。

ヴィクトルがお城から去る日、人目につかないところで、彼とベアトリスが抱き合っているところも私は見かけてしまった。



ヴィクトルが去ってから、私は一人で部屋の金魚を眺めた。気持ちよさそうにこの狭い水槽を泳ぐ彼らを眺めて、私はようやく、自分が陰鬱な気持ちだったことに気がつく。

自分ではなくベアトリスが選ばれることなどわかりきっていた。これまでも家族から散々扱いの違いを見せつけられてきた。そしてそれは、自分が醜いせいなのだとわかっていた。それでも確かに、私は傷ついていた。選ばれなかったこと、捨てられてしまったこと、お前じゃないを突きつけられてしまったこと、それらに今さら傷つくなんてと私は少し焦ったけれど、それでも、これまでだって傷つかないように心に蓋をしていただけだと気がつく。


水槽をのぞき込む自分の顔が見える。大嫌いなこの顔と目を合わせて、あなた醜いわねと、改めて口に出す。私は自分から目をそらすと、肩を落として大きなため息をついた。


気分でも変えようと、私は読みかけの本に手を伸ばした。そのときに、あの日あの魔法使いから贈られた栞が目に入った。私はその瞬間少しだけ、あの日々を思い出して小さく笑った。くすくすと笑っている間、私は目の前の陰鬱とした状況を忘れることができていた。






ヴィクトルと私の婚約が決まってから数年後、私は19歳になっていた。

お城で建国記念パーティーが開かれることになり、外国からもたくさんの招待客がやってくることになった。


夜に行われるパーティーの準備のために、お城の中は騒がしかった。私はその騒がしさから逃れるように中庭に避難していた。

パーティーは嫌いだった。いつも美しい妹と比べられて、そして、どんどん自分などいないもののようになっていくから。一応着飾りはするけれど、私なんかに施されるその努力と労力はなんだか滑稽に思えた。

 

中庭のベンチに座って空を眺めていたら、ニーナ、と声をかけられた。顔を上げるとそこには、あの顔合わせ以来となるヴィクトルがいた。彼は神妙な顔つきをしていた。


「(…妹ではなく私に話しかけるなんて珍しい)…お久しぶりです、ヴィクトル様。おかわりありませんか?」

「私との婚約を、破棄してくれないか」


その重い口調に、私ははっと心臓が掴まれる。実際に口にされると、分かってはいた事とはいえ苦しくて、でも早くそれを言って欲しかったとも思った。

私は呆然と彼を見上げた。ヴィクトルは、ベアトリスの許可と、こちらの両親の許可はもらっている、と言った。


「君の了承を得たら明日、この国の国王陛下に話をするつもりだ」

「私は…構いません」


私はそう言った。ヴィクトルは安心したように目元を緩めると、よかった、と、何かに解放されたかのように言った。


「短い間だったが、ありがとう。あなたにはきっと、もっといい相手がいる」


そんな無責任なことをぺちゃくちゃ言えてしまうこの人に呆れつつ、私はなんでもないように微笑み返すことしかできなかった。傷ついてもそれでも、すべては醜い私が悪いのだから。





そんな話がヴィクトルからあった夕方、私は両親に応接室へ呼び出された。浮かれたヴィクトルが早速、婚約者を姉妹で交換することを両親に伝えたのか、と思いながら部屋に行くと、そこにはなんと、ノアの姿があった。ノアの隣には彼の父らしき男性が座っていた。


「(…あ…)」


私は目を丸くして、十数年前のあの魔法使いの男の子を思い出しながら今目にはいる彼と重ねた。あいも変わらず美しい見た目をしていて、背はうんと大きくなって、雰囲気は随分精悍になっていた。


私は、私の家族側の席に座った。そこにはもう、両親と、兄と妹が座っていた。


私が座ったのを見ると、アリア王国の国王が、優しい顔で口を開いた。


「スーレン王国とわが国の末永い友好のために、そちらの姫君を一人、私の息子の結婚相手とさせていただきたい。いかがでしょうか」


そう言ってアリア王国の国王は微笑む。その言葉に、ノアの方を最初からずっと見つめていたベアトリスは、頬を赤くして口元を両手で覆った。アリア王国の国王は、そんなベアトリスではなく私の方を見た。


「ニーナ様はノアと同い年だと聞きました。どうでしょうか、姉君とノアの結婚というのは」


優しい目でそう尋ねられた。私は一瞬戸惑いながら、ノアの方を見た。ノアは私の方は見ずに、不機嫌そうに目を伏せていた。そんな彼に、私は、妹のほうがいいと言ったヴィクトルを思い出して胸が凍る。


すると父が、実は…、と申し訳なさそうに口を開いた。


「ニーナにはもう婚約者がいるのです。ハギ王国の第一王子と…」

「ああ…」


アリア王国の国王は目を丸くした。間髪を入れずに、ですが、と父が食い下がる。


「ベアトリスにはまだそういった相手がおりません。ですからニーナの代わりにどうでしょうか。…それとも、ニーナを妃にと、そういうお心づもりでいらっしゃったのでしょうか…」


父は必死にそうまくし立てた。アリア王国との関係強化など願ってもないことだからだ。

父の言葉に、いえいえ、と優しい顔でアリア王国の国王は微笑んだ。


「そんなことはありませんよ。そちらの姫君と息子を結婚させていただけたらと、そう考えていただけですから。妹君でも何も問題ありません。そうだな、ノア」


アリア王国の国王は、隣に座るノアにそう尋ねた。ノアは唇を震わせたあと、相変わらず不機嫌そうに、…はい、と返事をした。

その様子に私は、彼が私ではなく妹と結婚できることになって本当は嬉しいけれど、あからさまに喜ぶと私に悪いので、一応隠してわざと不機嫌そうにしているのだと、そう思った。

ベアトリスは、ぱっと嬉しそうな笑顔を浮かべた。私はそんな彼女の横顔を見つめて、良いのだろうか、と心の中でつぶやく。このままでは、ヴィクトルもノアも、ベアトリスと結婚できると思っていることになる。ややこしい話にならないだろうか、と、私は内心少しひやひやとした。





そうして夜になり、パーティーが始まった。

華やかな空気の中、格好だけは華やかにして、でも私は完全に浮いていた。早く終わらないかとうんざりしていたところに、おい、と声をかけられた。顔を上げるとそこには、正装をしたノアがいた。パーティー用の格好をした、記憶にあるよりも大人になった彼は、まるで物語に出てくる王子様のようだった。私は一瞬彼に見とれた後はっとして、お久しぶりです、と微笑んだ。ノアは先程見た時と変わらず不機嫌そうな顔をしていた。


「…ああ、久しぶり」


眉間にシワを寄せたまま、ノアはそう返した。私はそんな彼を見て、昔の横暴な性格からは多少丸くなったのかと小さく吹き出す。


すると、少し遠くから、ノア様!という声がした。彼と同い年くらいの美しい女性1人が彼のそばに来た。ノアは、今少し席を外してくれ、と彼女に伝えると、彼女は頷いてどこかへ行った。

私は彼女たちの背中を見ながら、あの頃彼の取り巻きのなかにいた、同い年くらいの美少女たちを思い出す。


「…ねえ、もう婚約者が決まったのに、まだああいうお相手を引き連れてて、あなた大丈夫なの?」


私は怪訝そうに尋ねた。たまによく聞く、結婚相手とは別の、恋愛をする相手なのだろうか、と私は訝しげに彼を見た。

ノアは、何とも言いにくそうな顔で、いいんだよ、と言った。


「そういう決まりなんだよ」

「…決まり?浮気相手を必ず侍らせるという決まりがあるの…?」

「はあ?違う。彼女はそういうのではなく…」

「スーレン王国お城にいたとき…、あんな小さい頃から一丁前に引き連れてたわよね。あの中の誰かと関係が続いているの?」

「違う、あの時の人たちは皆、もう城にはいない」


どういうこと?と私は瞬きを繰り返した。ノアもノアで、かなり気まずそうに目を伏せた。小さく息を吐くと、しんどそうに彼は口を開いた。


「…魔法使いには色々あるんだよ」


暗い声だった。ノアの様子に、私はそれ以上聞けなかった。

ノアは、そういえば、と私の方を見た。


「君、婚約者がいたんだな」


ノアはそう、何でもないように言った。私は、ええ、と頷く。そう返しながら、もしも私にまだ婚約者がいなかったら彼と結婚する未来があったのだと、なんだか変な気持ちになる。私は、でも…、と目を泳がせた。


「(…ヴィクトルはあんなこと言ってたし、どうなるのやら…)」

「でも…、なんだよ?」

「ああいえ…、ごめんなさい、何も」


ヴィクトルの言っていた話が私の口から明かして良いもののわけがなく、私は苦笑いを繰り返す。そんな私に、ノアは少し心配そうに瞳を揺らした。


「…その婚約者は嫌な奴、なのか?」

「え?」

「とんでもなく最低な野郎、なのか?」 

「ああいえ、紳士的だし、優しいし…」


妹に対しては、という前提が私の念頭から抜けていたのを思い出した瞬間、私は口をつぐみ、苦笑いを浮かべた。ノアが私の目を見た時、ベアトリス!と呼ぶヴィクトルの声がした。


「どういうことなんだベアトリス!ニーナと代わって、私の婚約者になってくれると、そう約束したじゃないか」


ヴィクトルはそう言ってベアトリスに縋った。ただならぬ様子に、周りは騒然とする。ベアトリスは、やめて、と怯える様子で彼から逃げる。


「何の話ですか?あなたはお姉様の婚約者じゃないですか」

「話が違う、おかしい、いったいどうしてしまったんだベアトリス…!」

「…あっ、ノア様!」


ベアトリスはノアを見つけると、彼の背中の後ろに隠れた。そして、ノアにしがみついて華奢な体を揺らした。


「助けてくださいノア様、ヴィクトル様が私に…」

「待ってくれベアトリス、手紙で話していたことと違うじゃないか…!」

「手紙…、何の話ですか?怖い…。私はただ、あくまでお姉様の婚約者として親しくしていただけ。信じてくださいノア様、あのお方は勝手に勘違いして、私を好きになって、迫ってきているんです…!」


助けてくださいノア様…、とベアトリスは消え入りそうな声をだした。ヴィクトルはそんなベアトリスを見て、どんどん顔を青くしていく。わなわなと震えた後、ヴィクトルは会場から去って行ってしまった。


わけがわかっていない様子のノアは、後ろに隠れるベアトリスの方を見た。


「…彼は一体…」

「お姉様の婚約者のヴィクトル様です。急にお姉様よりも私のほうが好きだなんて言い出して、私、とっても怖かったんです…」


大きな瞳に涙をためて震えるベアトリスに、周りは同情する。これほど美しければ、色々苦労することはあるだろう、と、ベアトリスを気の毒に思っているようだった。

ノアは、とりあえずもうここから去ったほうがいい、とベアトリスを連れて会場から出た。

残された私は、呆然としていた。


「(…つまり、今日私に言ったあれはヴィクトル様のもう言だった、ということ?勝手にベアトリスを好きになって、暴走していたわけ?)」


なんとはた迷惑な、と私はため息をつく。

その時、周りが私の方を見て笑っているのが見える。私はそのほうを見る。すると、はっとしたような顔をして、彼らは私から視線をそらす。


ベアトリス様と比べて全くお美しくないから

婚約者に目移りされて

ああ不憫、哀れ、目も当てられない


そんな周りの嘲笑を、しかし私は自分のせいだと受け入れるしかない。けれど私は、頭は冷静でも、心臓が破裂しそうなほど苦しくなってきた。


私はとうとう、逃げるように会場からバルコニーへ出た。外の空気を吸うと幾分か息が吸えて、ああ私は息苦しかったのだと今さら気がつく。


手すりに手を置いて、私は夜空を見上げた。名前も知らない夏の星を見上げながら、君たちは広いところにいていいなと羨ましく思う。


「(私は…)」


暗い夜の中、私の目に映る星たちにひれが生える。その星は金魚になって夜空を泳ぎ出す。それを見た私は水槽を泳ぐ金魚を思い出す。限られた狭い空間の中で、ここよりも広いところがあると知らされずに泳がされ続ける金魚たち。私も一緒にその水槽の中に入る。息ができなくて、苦しくて、私はとっさに喉を押さえる。


「(…考えないようにしていたのに)」


肩を揺らし、浅い息を繰り返す。自分を嫌う親によって狭い水槽の中に押し込まれた私は、外の世界があるとわかっていても出られない。言われたとおりに、ただただ、指定された空間を泳ぐしかない。息もうまくできないくせに。


「どうしたんだ」


背後から声をかけられて、私は正気を取り戻す。額に汗をにじませながら振り向くと、そこにはベアトリスと共にここから出たはずのノアの姿があった。

ノアの緑色の瞳が、心配そうに揺れる。あの傲慢な男の繊細な部分をまた見て、私はどこか違和感を覚える。


「…ベアトリスは?」

「部屋の前まで送った」

「…それで?」

「侍女に引き継いで別れた」


そう当然のように言う目の前の男に、それが婚約者に対する扱い方だろうか、と私は呆れた。けれど昔から、人に対して素っ気なかったことを思い出せばそもそもそういう男なのかと合点がいった。


「…今日は初対面同士だけれど、将来的に結婚する相手なのだから、相応の扱いを心得ないといけないのでは?もう大人でしょう?」


そう言ってすぐ、もしかして彼は女性に対して特別な侮蔑感情でもあるのだろうか、と私は勘ぐった。だから幼いころから常に女性を侍らせて、ぞんざいな扱いをする癖がついているのだろうか、と。


ノアは私の隣に立つと、一度空を見上げた。そして、その話だけど、と言った。


「君の婚約者が君の妹を好きなら、その2人が結婚すればいいんじゃないかと思う」

「え?」

「それで君は、俺と結婚したらいい」


ノアはそう、私の方は見ずに星ばかり見ながら言った。私は彼の言う意味が理解できず、動揺から彼の顔と首の下をまじまじと見た。その時、手すりに置いた彼の手が少しだけ震えているのが見えた。


「(…高所恐怖症?)」

「ハギ王国だって、スーレン王国の姫と結婚できたらそれでいいんだろ。うちも同じだ。どちらでも構わないのなら、誰か一人の好意でも報われたほうが良いだろ」


ノアはそう続けた。私は、え、え?と瞬きを繰り返した。


「えっと…、正気?あなた、このまま黙ってたらベアトリスと結婚できるのに、わざわざ私と結婚することないじゃない」


その時の私は、本当にノアの考えることが理解できなくてそう言った。

ノアは、え、と声を漏らすと私の方を見た。驚いているのか、一瞬言葉を詰まらせながらまばたきを繰り返している。私は困惑した顔で彼に話しかける。


「そんなの、とても気の毒よ。どうせあなたとヴィクトル、どちらかに気の毒な思いをさせないといけないのなら、まだヴィクトルの方がましね。あの人の私への仕打ちを考えたら、罪悪感が打ち消されるから」

「罪悪感…?」

「それに、きっとベアトリスはあなたのことを好きなのよ。応接室でのあの子のあなたを見る顔を見たでしょう?それに、ヴィクトルと私、あなたとベアトリス、っていうのが国王同士の間で決められたペアなのだから、それに従ったほうが角が立たないわよ」

「それでは、…それでは君が気の毒じゃないか」


ノアはそう、私に言った。夏の夜風が私の髪を揺らした。私は呆然と立ち尽くし、彼の言う意味が分からないままでいた。


「気の毒?私が?」

「そう、そうだ。彼はあんな大勢の前で婚約者である君に恥をかかせるようなことを言った」

「恥…。それはそう。けれど、でも当然の帰結ではあるわ。私かベアトリス、どちらがいいかと言われたら、その答えは自明だもの」

「それは…それは、なぜそう言い切れるんだ」

「醜く生まれ落ちたからよ、私が」


そうノアに言った時、私はこの言葉をもっとずっと幼い頃から発していたことを思い出した。このことを、口から発するには似つかわしくないような小さな頃から私は言っていた。自分から言い始めたわけではない。決してない。父や母、兄、そして周りの人たちからそう言い聞かされてきたことだ。それがいつの間にか自分の言葉になり、そして血となり肉となっていた。


「君…、前もそう言っていたけれど、俺はそうは思わない。君は醜くなんかない」


私はつい、そう言ったノアの方を見ていた。夜のしんとした静けさの中、私はじっと彼の目を見た。


「決して醜くなんかない。君は、…君は、その、…っ、…面白い顔をしている」

「…面白い?」


私は小首をかしげながら、自分の望んでいた言葉と違ったことに落胆した。その時自分が、恐れ多くも他者から゛綺麗だ゛と言ってほしかったことに気がつく。そんな自分の厚かましさに、私は自分がひどく恐ろしくなる。

自分の未知なる怪物的部分に怯えた私は、話を切り上げたくて、ソレハドウモアリガトウ、と早口で返した。ノアもノアで、この話を切り上げたかったらしく、とにかく、と口を開いた。


「彼と君が結婚しても、君はきっとぞんざいに扱われる。けれど君の妹なら、彼もぞんざいにはしない。婚約者のペアを変えたほうが良いんじゃないかと思う」


そう真面目な顔で言うノアを、私も真面目に見つめ返す。


「それはつまり、あなたと結婚したら、私はあなたに大切にしてもらえるということ?」

「なっ、はっ?!」


私の冗談に動揺したのか、ノアは目を丸くした。何度か瞬きを繰り返したあと、も、もちろん…、と意外にも大真面目に彼は答えた。


「当然それは、もちろんそれは、そうする。努力する。それくらいはできる。結婚したら、…しても、それくらい、しか、できない…」


どこかしどろもどろになる彼を見て、私は噴き出した。くすくすと笑いながら、自分が誰かに大切にされるわけがないと、残酷なほどわかりきっていた。

私は笑いが止まりきらないまま、大切にしてもらえるのは嬉しい、と答えた。ノアは、はっとしたように私の方を見た。私はそんな彼の目を見た。


「あなたって、本当は優しかったのね。昔はあんなに傲慢で、よく私に魔法をかけて意地悪をしてきたのに」


かつて彼がこのお城にいた時の日々を懐かしみながら私は言った。

そういえば今日は魔法をかけないのね、とからかうように言うと、ノアは気まずそうに視線をそらして、もうそんなことできないよ、と淡々と返した。そんな彼に私は小さく笑って、大人になったのね、と言った。

ノアは隣にいる私を見た。そして、自分の手のひらを眺めた。彼はぎゅっと自分の手に力を込めたあと、力なくため息をついて、目を伏せた。


「…俺の国は、父や俺の持つこの力で成り立っている。だから俺の、…妻になる女性は、かなりの制約が課せられる。この力を守って、次の王や王子に継いでいくために。この国の繁栄を途絶えさせないために。だからどうしようもなく不便な思いはきっと、必ずさせる。…それでも、俺が大切にすることはできる」


ノアはそう、ゆっくり私の目を見て言った。私は、へえ…、と呟く。


「魔法使いの国は色々大変なのね。ベアトリスも頑張らないといけないわね」


私は妹の苦労を思った。子どもにどんな苦労が伴おうと、きっと両親はなんとも思わないだろう。国のために嫁いで行く私たちの役目は結婚することであり、幸せになる権利はそこにない。だからこそ余計に、私は妹を不憫に思った。

隣にいるノアが小さく息を吸う音が聞こえて、私は横目で彼を見上げた。


「…どうかした?」

「…」


眉をひそめて考え込むノアの横顔を見て、私は、ねえ、と尋ねる。


「怖いの?」

「…え、え?」

「高いところ」

「はあ?何の話だ」

「あなたなんだか、顔色が良くないから」


私はそう心配する。そんな私をまじまじと見たノアは、さらに表情を険しくすると、もういい、と不機嫌そうに言うと私の前から去った。私は振り向いてその背中を見つめながら、根本は幼い頃から変わらないんだなと、彼に大切な髪飾りを壊されたことを思い出しながら苦笑した。










パーティーの翌日、私は人通りの少ない中庭を歩いていた。そのとき私は、先ほどのヴィクトルの剣幕を思い出していた。

廊下ですれ違った私を呼び止めたヴィクトルは、憎らしそうに私を睨むと、お前とは白い結婚だからな!!と宣言した。周りにいた貴族たちは、この国の王女と隣国の王子には、通常ではい波乱の結婚生活が待ち受けていることを察すると、即座にざわざわと噂話を始めた。直に哀れな王女の話がこのお城中を駆け巡るであろうことがすぐにわかった。


ヴィクトルに白い結婚を申し出られて、私はどこか安堵していた。とりあえず彼と結婚すればこの城を出られる。私を嫌い、憎む両親や兄と離れられる。白い結婚ならヴィクトルも私と関わってこない。つまり、ハギ王国での結婚生活は、私が羨みながらも諦めていた自由な生活の実現ができるのではないか、と期待していたのだ。狭い水槽から果てしなく広い海へ出られる、そんなチャンスなのでは、と。


そんなことを考えていたとき、私は昨日のノアを思い出した。ヴィクトルに大事にされないのではと心配してくれた彼の言葉に、私のことを心配してくれるなんて、実はやはり彼はとても優しい人だったのではないかと私は気がつく。


すると、物陰に隠れてどこか一点を見つめる兄の姿があった。


「(…お兄様?)」

「ノア様、あの娘は殿下の゛ソレ゛にはなれそうですか」


そんな声がして、私はつい兄がしたように物陰に隠れた。声の先にはノアと、彼がこの国のお城にいた頃から彼に付き添っていた執事がいた。夜遅くまで開かれた昨日のパーティーの参加者の多くは、このお城に用意されている来賓者用の部屋に泊まっていたようである。


ノアは執事の言葉に、いや、と苦々しい顔で頭を振った。執事はノアの様子を見ると渋い顔をした。


「…では、来週には別の娘に替えましょう。次こそはお気に召すと宜しいのですが」

「…一つ聞きたい。このままスーレン王国の王女と俺が結婚して、いつか彼女が゛ソレ゛になった場合、…彼女の処遇は前例通りになるのか?」


ノアはそう、感情のあまりこもらない様子で尋ねた。彼の疑問に執事は、そうです、と淡々と答えた。ノアは動揺した様子で執事を見た。


「…本当にか?一国の王女だぞ?」

「一国の王女でも関係ありません。神聖なる陛下と殿下のお力を守るためには必要なことでございます」


執事は淡々と答える。ノアは執事の方をまっすぐに見つめた後、そうか、と何でもないように返した。執事は、そろそろ帰る時間ですね、と呟いた。


「迎えの確認をしてまいります」

「ああ」  


ノアの返事を聞くと、執事は深々と頭を下げて去った。ノアは彼の背中を見送ると、空を見上げた。


「……」


物陰に隠れていた兄は、何かを考えるような顔をしたあと、静かにこの場から去った。私は兄の様子を怪訝に思いながら、一人でいるノアの方を見た。私は、髪につけた祖母からもらった髪飾りを軽く触ったあと、物陰から体を出した。そして、ノアのそばに近づいた。


「ごきげんよう」


そう話しかけると、ノアは目を丸くして私の方を見た。


「君、いつの間に?」


いつになく動揺した様子のノアに、私は小さく微笑んだ。


「今さっきよ。通りかかったらあなたを見かけたの」


ノアと執事の会話の意味はわからなかったけれど、立ち聞きしていた事実を知られたくなくて、私はそう言った。ノアは私の言葉を聞くと、さっき…、と呟いた。私は、彼が先ほどの話を聞かれていたかを気にしていたことをわかっていたため、知らないふりをして首を傾げた。


「どうかした?」

「ああいや…、」

「それにしても、昔はいつも人に囲まれてたのに、今は平気で一人なのね」


私の言葉に、ノアは少し安堵したような顔をして、ああ、と返した。


「昔よりは自由が利く。俺もこの魔法の力の鍛錬を積んだから、敵からの攻撃もわけない」

「つまり、魔法エキスパートなわけ?」

「…なんだそれ」


ノアは小さく笑った。その笑顔が私にはやっぱり嬉しくて、私はつられて笑った。


「…でも、敵とは?何と常に戦っているの?」

「…常に狙われているんだよ。この魔法の力を手に入れようとする奴らに、何度攫われそうになったかわからない」

「へえ、えええ…」


私は想像もしなかった彼の過去に瞬きを繰り返した。


「でも、あなたを攫おうとしたところで、あなたには魔法があるじゃない?つまり無敵じゃない?敵はあなたに返り討ちにあって終わりじゃない?」

「そうだな」

「…ならなぜ敵はいなくならないの?」

「虎穴にはいらずんば虎子を得ず、なんだろ。リスクは大きくても、この力を得たリターンがあまりにも大きすぎるから」


ノアはそう言ってどこか遠くを見る。私はそんな彼の横顔を見つめた。思い詰めたような、苦しそうな、そんな様子が滲んでいて、私は息が止まる。ノアは小さな声で話し始めた。


「…この力があるために、何度も他国から攻め込まれた。その度に民が犠牲になった。この力は国を守っているけれど、でも、この力のせいでいらない争いが起きている。…本当にこの力がこの国に必要なのか、俺にはわからない」

「…」


私はこの時、計り知れない彼の苦悩に、ほんの少しだけ触れたような気がした。

その時、上の方から、ああっ!という声がした。何事かと見上げれば、上の階のベランダから小さな植木鉢が落ちてくるのが見えた。それはまさに、私の方に向かってきていた。

あっ、と思った瞬間、私の体はノアに突き飛ばされた。私の体は地面に打ち付けられて、膝に小さな擦り傷を負った。私はすぐにノアの方を見た。すると、倒れたノアの頭のそばに割れた植木鉢があり、そして彼の頭からは血が流れていた。

私は慌てて彼に近づいた。そして、ノア、ノア!と彼の名前を呼んだ。


「はやく魔法!傷を直す魔法!!使って!!」


ねえ!!と私はノアに呼びかける。しかし、頭を強く打って意識が朦朧としているのか返事がない。私は、誰か!と声を上げた。すると、騒ぎに気がついた使用人が顔を真っ青にして、ノアを医務室に連れて行った。









私も一応自室で膝の手当てを受けた。それが終わるやいなや、私はノアのいる医務室に向かった。

あの頭を強く打った彼を思い出しながら、私は不安から体が震える思い出で彼に会いに行ったけれど、医務室にいたのは怪我一つない様子でけろりとしている彼の姿だった。彼の服には血痕があり、確かにケガはしていたのだという事実は残っていた。


「(ま、魔法すごい…)」

「…ああ君か」


ノアは血相を変えて駆けつけた私に、そうさらりと言った。私の形相を見てなぜか少し嬉しそうに口元を緩めたノアが、これくらいわけない、と私に言った。

心配して損したような気持ちになりながら、私はどこか恨めしい気持ちでノアの方を見た。


「…魔法でこんな風になるなら、なぜすぐにあの時魔法を使わなかったんですか?そもそも、植木鉢が落ちてきた時点で魔法を使えばよかったのでは?!」

「…咄嗟のことで反応できなかったんだよ。頭を強く打っていて意識が朦朧としてたからすぐに治療できなかっただけだ」

「なら私のこの足の怪我、治してくださいな!」


私は両膝の傷を指差した。ノアは口を噤んだあと、それはできない、と言った。私は、なぜ、と詰めた。ノアはしばらく黙ったあと、偉そうに腕を組んだ。


「…そうやすやすと魔法は使えない」


ノアの返事に、私は髪につけてある完璧とはいえない状態の髪飾りのことを思い出して、過去の苛立ちが新鮮な感情で思い起こされた。


「(…この人が実はやはり優しい人だった…というのは撤回しよう)…ソウデスカ、ジリキデナオシマス」

「…金魚は元気か?」


ノアは突然そう尋ねた。私は、ええ、と頷く。


「相変わらずとても。…でもやっぱり可哀想。この子たちを自由にしてあげたい。…ねえ、治してくれないこの傷のことをあなたが少しでも悪いと思うのなら、私の金魚たちをあなたの国に持ち帰って、海に放してあげてくれない?」

「え?飼ってきた金魚を放してもいいのか?」

「いいの。私ばかり自由になって、この子たちを水槽で飼い続けるのは後ろ髪が引かれるから」

「自由?君が?」


ノアは目を丸くする。私は、ええ、と目を細める。


「ヴィクトル様が今朝、私に言いに来たのよ。お前とは白い結婚だ!って。ベアトリスに断られたことを私に当たっているのね」

「白い結婚…の、どこが自由なんだ?」

「自由よ!このお城から離れられたら、あの両親や兄とは離れられて、妹と比べられることもなくなる。結婚はできるから周りからはうるさく言われないし、結婚相手は私に干渉しない。…出来過ぎている話じゃない?良すぎる話じゃない??一人でお買い物行ったり、劇を見に行ったりできるのかしら?しちゃえるのかしら??」


私は目を輝かせる。そんな私を、ノアは呆然と見つめる。私はそんな彼に微笑む。だから心配なんてしてくれなくていい、私なんかに、という気持ちを込めて。

けれど彼の瞳はどこか光を失っていた。私はそれに気がつくと言葉を失った。ノアは一瞬黙った後、金魚は、と口を開いた。


「海では生きられない。淡水魚だから」

「たん…え?」

「だから海には放せない。広いところに逃がしたいのなら池か川あたりが現実的だろ」

「だっ、だめよ!池なんて結局大きい水槽なだけ!川も狭そうよ!海みたいな果てがないところじゃなきゃ駄目!」 

「…海だって果てはあるだろ。それに、…それに、水槽の中のほうが安全だ。敵がいなくて、餌も毎日食べられる。多少狭くても、不自由でも、そちらのほうが、幸せかもしれないじゃないか」

「そんなわけないわ。広いところで自由に、めいっぱい泳ぐことが一番幸せよ」


私はそう言い切る。すると、ノアはまた黙り込んでしまった。理由もわからない重い沈黙が2人の間を流れた。息苦しくなってきた頃、ようやくノアが口を開いた。


「…仮に海水魚だったとしても、金魚は俺の国にはいない生き物だから勝手に放せない。生態系が崩れる」

「なっ、ぐっ…」


ノアから理論的に返されて、私はぐうの音も出ない。悔しそうに黙る私を見て、ノアはようやく小さく笑った。そんな彼に、先ほどの重い沈黙は、そこまで深刻な理由ではないのだと、その時の私は理解した。


「よく金魚のことを調べたのね」

「ああ、まあ…」

「そんなに好きなの?」

「…は、はあ?」


急に慌てるノアに、私は不思議そうな顔をした後、金魚よ、と言った。ノアは、金魚…?と復唱した。


「そんなに調べるくらいに好きなら、数匹お譲りするけれど。あなたなら大切にしてくれそうだし」

「あ、ああ…」


ノアはまだ動揺したまま、金魚を譲ってもらえることを嬉しそうに、ありがとう、と言った。彼がお礼を言えることが意外で、私はくすくすと笑った。そんな私を見たノアは、どこか遠い目をした。


「…?どうかしたの?」

「…前に贈った栞の花の名前は調べたのか?」


そう彼に尋ねられて、私は、調べようと思いながらも実際には調べなかったということを思い出す。なんとなく気まずくて、私は苦笑いを浮かべた。


「あ、あはは…」

「…」

「ね、ねえ、本当は知っているんでしょ?教えてくれたら良いんじゃない?」

「…」


ノアは目を伏せて、ゆっくり瞬きをした。どこか傷ついた様子の彼に、私は理由もわからないまま罪悪感がした。


「…調べる気がないのなら、知らなくていい。知ったところでどうにもならない」

「そ、そんな言い方…」

「それより金魚、譲ってくれるんだろ」


ノアはそう言って扉を開けて医務室から出ようとした。私は釈然としないまま、彼の背中を追った。







2人で、私の部屋に向かった。私は、別の小さな水槽を取り出すと、そこに数匹の金魚を移した。ノアは、水槽を泳ぐ金魚を見つめて、目を輝かせた。私はその瞳を隣で眺めてつられるように微笑む。


「この水槽は?」


ノアの質問に、おばあさまのものよ、と返した。


「おばあさまがもともとこの水槽でこの子たちを飼っていらしたの。おばあさまから譲り受けてから、少しずつ数が増えて、そこでは狭くなってしまったから新しいものに入れ替えたのよ」

「…なら、大切なものじゃないか。別の入れ物はないのか?」

「大切なものよ。でも、これからこの子たちは長旅になるし、おばあさまの水槽にいたら守ってもらえそうでしょう。それに」

「…それに?」

「それに、あなただから」


私はそう言って目を細める。そんな私を、ノアは見つめる。彼が小さく息を吐く音が聞こえる。そんな彼に、私は笑みを深める。


「あなた、金魚のことを好きで、よく調べているみたいだから、きっと大切に飼ってくれるでしょう?」


ね、と私は微笑む。そんな私を見つめて、彼はどこか諦めたように笑った。そんな彼の気持ちが、その時の私にはわからず、私は少しきょとんとしてしまった。


「…大切にするよ。ありがとう」


水槽を腕で抱えたノアはそう言った。私は彼に、あなたお礼が言えるのね、と笑った。そんな私に、なんだその言い草は、とノアは不機嫌そうに言う。私がくすくすと笑うと、ノアは小さく笑った。


「それじゃあ国に帰る」

「お気を付けて」


私はそう言って手を振った。ノアは目元を少しだけ細めると、背中を向けて去った。私は、金魚の数が減った水槽を見た。


「(…きっと大切にしてもらえる、きっと)」

「失礼する」


ノアが出ていってすぐに、兄が入ってきた。私は驚いて振り向き、お兄様?と首を傾げた。


「どうかなさったの?」

「…今ここに、ノア王子が来なかったか?」

「ええ。金魚が飼いたいらしくって、お譲りしていました」

「金魚?」

「彼の国にはいないからって」

「…」


兄は私の話を聞くと口元に手を当てて考え始めてしまった。私はそんな兄を怪訝そうに見つめる。


「…あの、何かありましたか?」

「…いや」


兄は頭を振ると、邪魔をした、と言って部屋から去った。私はそんな兄にまた首を傾げた。






こうして、ノアはまたこのお城から去っていった。

それからしばらくして、私はヴィクトルと、ベアトリスはノアと結婚した。それぞれ大きな国の王子と自国の姫を結婚させられたことで、両親は、しばらくはわが国は安泰だと、そう喜んでいた。

私は、彼らを喜ばせたことなど心からどうでもよくて、ただただ新しい土地で自由になれることに幸福を感じていた。




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