9 貴方と合体したい
「……分かったよ。ただ、自分の人生は自分で決める。おれは、無法者なんかにはなりたくない」
「あぁ、そうしたら良いさ」
ルーシは淡々と言った。彼女は続ける。
「だが、カルマからは逃れられない。これが私の連絡先が入ったスマホだ。困ったら、いつでも連絡してこい」
ルーシは、アパートから立ち去ろうとするが、
「待ってよ。カプリさんのこと、放置するの?」
「いっしょに連れてきただけでも感謝しろ。なんで私が、いちいち小間使いに気を揉まなければならないんだ?」
「性格悪いね」
「言われ慣れているよ。ま、なんとかなるんじゃねェの? 大天使が近づいてきているみてェだし」
「ヘーラーか……」
「アイツでも、人間の治癒くらいできる。さて、あんなヤツの面ァ見たくないので、私はもう帰るぞ」
ルーシはアパートから出ていく。場には、意識不明だが呼吸はしているカプリと、包帯だらけの龍希が残される。
「なんだよ、アイツ。薄情過ぎるだろ」
そうボヤいた頃、窓ガラスがドンドン、と叩かれる。敵だったらさすがに困るが、同時にケンカを売りに来たのなら、わざわざ窓を叩かないはず。龍希はカーテンを開ける。
「龍希さん!! なんで私を無視ばかりするんですか!?」
ピンクの髪で、アホそうな顔をした──しかし整った容姿の女がいた。ヘーラーだ。
「無視してねェよ。話したくないヤツと話さないで、なにが悪い」
「そういうのを無視っていうんですよ!! ルーシさんも龍希さんもひどすぎます!!」
「おれは、アイツよりひどくないさ。そんなことより、そこの茶髪で身体の小さい子の治療してやれ」
「はい! 人間を治癒するのは、天使族の役割ですからね!!」
「声を潜めろ、馬鹿が……」
ボソッとそう呟くが、ヘーラーには届かない。彼女はカプリの寝転がるソファーに行き、カプリの頭に触れる。
「……はッ!?」
すると、カプリは悪夢から目覚めたように、蒼白な顔で目を開けた。
「こ、ここは?」
「ルーシの用意してくれたヤサですよ。……ヤサってなんですか?」
「隠れ家の隠語だよ。プレジデント自ら用意してくださるなんて、嬉しいな」
「……あんなヤツ、尊敬に値しないよ」
「そう? このアンゲルス、いや世界のてっぺんを獲るのはルーシさんでしょ」
「どうですかね」
「なら、転生者ちゃんが獲りに行くと?」
「興味ないです」
「ふーん」カプリは言葉を区切る。「ところで、名前は? まだ聞いてなかった」
「龍希です」
「リューキ? 日本人っぽい名前」
「だって、日本人ですもん」
「でも、白人じゃん」
「そりゃあ、転生者ですもん」
「うーん、混乱してくるなー」カプリは眼中にヘーラーを捉える。「で? この馬鹿みたいな髪色の女は?」
「カプリさんを治療してくれた、大天使ってヤツですよ」
「大天使かー。よろしくね」
会話になかなか入り込めなかったヘーラーは、
「はい! カプリさんですよね!? 貴方は罪人です! ですが、天はありとあらゆる罪をお赦しになられます!! ですからここで二度と犯罪行為をしないと──」
カプリは無言で、近くに置いてある拳銃を握り、ヘーラーの頭に向ける。
「なんでそんなことするんですかッ!? 私は天の使いですよッ!?」
「うるさいなぁ。治療してくれたのはありがとうだけど、これ以上騒ぐなら撃つよ?」
「は、はいッ! 黙りますッ!!」
「……天使も撃たれたら死ぬのか?」
「死なないよ。けど、だいぶ痛いみたい」
「へー。良いこと聞きました」
「んでさ、リューキ」
「なんですか?」
「死亡フラグ、やっぱり成立しなかったじゃん」
「そうですね。良かったです」
「それで、いっしょに行きたい場所があるって言ったでしょ?」
「はぁ」
「美味しいパスタ店があるんだ。そこ行ったらさ、あたしと合体しない?」
海外の女性は性的なことに開放的だと、どこかで聞きかじったが、ここまでためらいもなくそういう行為に誘われるとは思ってもいなかった。




