10 東洋の怪物
「ゲット・ダウン・メイク・ラヴって、つまりそういうことですよね?」
一応聞いてみよう。もしかしたら、意味合いが違うかもしれないし。
「うん! あたし、リューキとオモチャ使って、あんなことやこんなことを──」
「もう少しプロセスを踏みましょう。こっちは獣じゃないんで」
「ナポリタンを瀕死に追いやった女が、獣じゃないって無理あるよ~」
「それとこれとは別です」
そりゃあ、男性時代だったら喜んでいただろうし、そのまま〝合体〟していたはず。しかし、今の龍希は女性。だからなにか、違和感みたいなものがある。
「ちぇッ、つまんねー。けどさ、パスタ屋さんは行こうよ」
「まぁ、治療も済んでますしね。良いでしょう」
「やったー!」
無邪気に喜ぶカプリを見て、龍希は複雑な感情を再び抱く。確かに彼女は可愛いし、愛嬌もある。体型は少し貧相だが、それを補えるほどの魅力を持ち合わせているであろう。それでも、TSしてしまった所為で、なんとなく彼女を受け入れられない気がする。ひょっとしたら、男性が恋愛対象になってしまった、と錯覚するほどに。
(そんなわけねェだろ……。なんでおれが、野郎とヤラなきゃならねェんだ」
そんな葛藤ばかり抱え、ふたりはアパートから出ようとする。
「なんで私ばかりこんな目に……。私は世界平和のために、懸命に活動しているのに……」
ヘーラーはすすり泣くが、誰も彼女に興味を持たない。それは、今までもこれからも。
*
「ッたく、カタギ使ってナポリタンを潰した? オマエ、どうかしてるぞ」
「ポール。私は世界平和のために、ひとりの迷える子羊を勧誘しただけさ」
「オマエ、無神論者だろ? 勧誘行為なんてするなよ」
スターリング証券という会社がある。顧客の金融資産を大幅に伸ばし、評判は常に高い。
スターリング・ファミリーという地下組織がある。主に非合法な手段で、為替操作を行う。
このふたつは表裏一体で、どちらも事実上のトップはルーシだ。
「しゃーないだろ。あの馬鹿天使、覚えているか?」
「あぁ。ピンク髪の」
「アイツが連れてきたんだ、そのカタギのヤツは」
「だからなんだよ?」
「あのボケ女、あぁ見えて位はそれなりに高い。それに、アイツが輪廻転生を司ったってことは……」
「訳ありか? オマエみたいに」
「そのとおり。ポール、あのカタギの前前世は、世界を震撼させた無法者だ」
「はぁ? どこに確証があるんだよ?」
ルーシはVAPEを咥え、リラックスしたような態度で言い放つ。
「時は1920年代。アメリカで禁酒法があった時代だ。そこでヤツは、アル・カポネと並ぶ無法者だった。表じゃカーニバルを取り仕切る人気者だったが、裏では違法薬物や密造酒を売りさばく──いわばマフィアみてェなヤツだったんだよ」
「随分具体的だが、証拠はあるのか?」
「アイツの名前は佐嘉龍希。苗字はこの際どうでも良いが、龍希って名前が引っかかったんだ。まぁ日本じゃありふれた呼び名だが、東洋龍に希望となれば、ひとり引っかかるヤツがいる」
ルーシはVAPEの煙を吐き出し、目を細める。
「〝ルーン・オーガ・ホフヌング〟……か?」
「あぁ、さすがはCEO。勤勉で助かるよ」
「1920年代、シカゴの裏社会に突如現れたアジア人で、わずか数年もしないうちにアル・カポネと肩を並べた。ついたあだ名は〝東洋の怪物〟……。だけどよ、ルーシ。名前だけでこじつけるのは、無理がねェか?」
「確かに無理がある。だから当然、当時の情報を洗ってみた。すると、面白れェ話が出てくるんだよ。ルーンは龍のごとく敵対組織を焼き払い、鬼のごとく邪魔な連中を食べ散らかした、と。そして、天使はその者の潜在能力を極限まで引き出す。あの梅毒だって、天使のはしぐれだからな?」




