8 ようこそ、アンゲルスへ
ペチペチペチ……と、肉を叩くような音が響く。それは肉塊と化していて、もう片方が意識もなく殴り続けているという構図だ。
虐殺を繰り広げる者は、なんの表情も浮かべていない。ただ、無意識のうちに、すでに息絶えつつある者を殴り続けているだけ。
それから数分後、力尽きたのか、その者はその場に倒れ込む。
「おいおい、生け捕りって言ったのに」
銀髪碧眼でツリ目の少女が、仰向けに倒れたその者──龍希にそう言い放つ。
「まぁ、初めてにしては上出来だ。報酬は半分カットだが、家くらいは用意してやるよ」
サウスAs市ロドリゲス地区。〝賞金首〟ナポリタンと、〝転生者〟佐嘉龍希の対決。
勝者・龍希。
*
「ナポリタンが死んだらしい」
「マジかよ。殺ったのは?」
「それが、データベースにも登録されてない転生者みたいだ」
「なら、足がつかねェじゃねェか。ナポリタンは、〝スターリング・ファミリー〟から恨みを買ってたんだろ? アイツらだったら警察くらい買収しているだろうし、転生者なら正義のおまわりが独自に調べても意味ねェ」
「だな。被害のあった地域の防犯カメラは、何者かが全部クラッキングしたみたいだし」
「恐ろしいのが上陸してきたな……」
まだ名も売れていない無法者たちは、戦慄する。それだけ、ナポリタンは恐ろしい無法者だった証明になり、それを倒した転生者は更に恐怖すべき存在になったからだ。
「よう、兄弟。その話、詳しく聞かせてくれ」
「あ? 誰だ、テメェ」
「おれが誰なのかは問題じゃない。問題は、おれの兄弟分を殺ったヤツの話だ」
憎しみが憎しみを生む。新たな火種が点火しつつあった。
*
「アンゲルスへようこそ」
龍希は、ルーシの手配した救急車で、アパートの一室へ連れ込まれていた。隣にはカプリがいるが、彼女は未だ意識不明である。しかしルーシは気にする素振りも見せず、ビール瓶を歯でこじ開けて龍希へ手渡す。
「生きている実感がもっとも湧くのは、死を覚悟したときだけだ」
身体中に包帯を巻いた龍希は、ビールだけ受け取り、口をつけない。なおもルーシは気にせず、自身の酒を一気飲みした。
「とりあえず、ここがオマエのヤサだ。あまり目立っても仕方ないのでね」
「……おれは、ナポリタンを殺したのか?」
「あぁ。ギリギリ生きているそうだ。ほぼミンチだが、アンゲルスの医療技術をナメてもらっちゃ困るね」ルーシは札束を取り出す。「使用済み2000メニーだ。しっかり数えろ。私のよう誠実な実業家でも、誤魔化すときはあるからな」
100メニー札が20枚。龍希は帯を外して、1枚ずつ数える。ぴったり20枚あったので、札を机に置く。
「さて、これから仕事を依頼するときもあるかもしれないが、オマエほどのヤツにしょぼい仕事は任せたくない。しかし、デカい仕事はなかなか回ってこないのも事実。そこで、独立してバウンティー・ハンターをやってみないか?」
「……別に他の仕事だってあるでしょ」
「ムスッとするな。可愛い顔が台無しだ」
「可愛くなりたくてなったわけじゃない」
「そのうち、可愛さにこだわるようになるさ。まぁ良い。あの馬鹿天使から聞き出した話によると、オマエのその力は、多少の悪さに使ったほうが良いように思える」
「どういうこと? おれ、万引きもしたことないんだけど」
「いやァ……近いうちに、この世界の心地良さを知るさ。オマエはアンバランス過ぎる。発泡スチロール感覚で建物をぶっ壊せる腕力があるのに、ソイツを使いすぎたら精神に異常をきたして〝サイコ・キラー〟になってしまう。先ほどの戦闘で良く分かった。オマエは、カタギじゃ生きていけねェよ」
ルーシは龍希の膨らんだ乳房を、ポンと叩く。




