6 転生者龍希VS賞金首ナポリタン
「おっさん、ねェ……」
ナポリタンは、退屈そうな口調だった。この程度の煽りで平常心を崩すような小物ではないのだろう。
そうすれば、
ただ突っ立っている龍希に隙を見出したか、ナポリタンが目前まで迫ってきた。
──反応しきれない! 龍希は、腹部に拳を喰らう。
「ぐホッ!?」
「情けねェ声をあげるな。〝おっさん〟相手に反射神経で負けちゃいかんだろう──よォ!!」
ナポリタンは、間髪入れず追撃してくる。龍希は躱すこともできず、ただ拳を喰らい続け、先ほどの車酔いも相まって、ゲホゲホッと咳き込む。吐きかけたところで、龍希の脳内の危険信号が働いたのか、脳みそが割れるように痛む。
すると、
龍希は、龍鬼娘に姿を変えた。
「へェ。龍か、鬼か?」ナポリタンは一旦攻撃を止める。「龍みてェにウロコが生えてるし、鬼のごとくツノが現れた。なるほど……〝龍鬼〟か」
大チャンスだ。龍希は、ナポリタンにローキックを喰らわせる。
「……ッ」
足元が若干揺らいだナポリタンに、さらなる追撃をしようと、龍希はおおよそ人間のそれではない〝龍の爪〟で彼を斬り裂こうとするが、
「甘めェな」
重心が揺らいだはずのナポリタンは、すぐ体勢を立て直す。そして、地ならしするように地面を叩く。
そうすれば、
モーテルは無惨に破壊された。脆弱な隠れ家が、一発の強烈な裂け目によって、倒壊したのだ。
瓦礫を身体で受け止め、龍希はなんとか体幹を崩さずにきれいに落下していく。
「やるねェ。ま、これでやりやすくなっただろ」
ナポリタンは、不敵な笑みを浮かべる。それに対し龍希は、
「良いの?」
と、惚けた態度でいう。
「あ? なにがだよ」
「こっちは龍鬼娘だからね。その気になれば……ッ!!」
龍希は、口から炎の塊を吐き散らした。先ほどの車酔いでたまった嘔吐物を、すべて吐き出すかのように。
ぼおお……ッ、と辺り一面に炎が広がる。当然、致死性のある火だ。しかしナポリタンは、その炎すらも避けきっていた。彼は嫌味ったらしい笑みを見せる。
「当たらなければ意味がねェんだ、クソガキ」
「いやァ……当たらせてみせるよ」
龍希は、辺りに広がった炎に意思を持たせる。すると、炎は一目散にナポリタンのほうへ向かっていく。直線から、曲線まで。それでも、ナポリタンは慌てる素振りも見せない。
「だから言ってるだろ。当たらなきゃ意味がねェって」
ナポリタンは、風力の塊でそれらを消し去る。
来た──!! 龍希は隙を見逃さなかった。
龍希は、おそらくだが、ナポリタンは一度にふたつの魔術を使えないと踏んでいた。だから、風力操作をしている間、彼は風を操作することしかできない。しかも、炎はまだ消えていないため、余計にナポリタンは風力を弄るのに注力するはずだ。
であれば、話は早い。龍希は、地面を蹴り飛ばす。銀髪の龍鬼娘が見たナポリタンの表情は、あからさまに目を見開いているものだった。
「てめ──ッ!!」
龍希は、爪でナポリタンの胴体を斬り裂く。彼の白いスーツが赤く染まり、なおも龍希はとどまることを知らずに、彼を次々に斬っていく。
「ふーッ! ふーッ!!」
ナポリタンは、胴体を斬られても悲鳴をあげない。代わりに目は血走り、怒りがピークに達しているようだ。
「ナメるなよ! おれを誰だと思ってやがる!! おれァ〝ナポリタン〟だぞッ!!」
龍希は間髪入れず、
「異世界人に名乗りは通じないさ……!!」
そう言い放ち、ゼロ距離まで迫ったナポリタンに、最後の迫撃を行う。
口から冷気を吐き出し、ナポリタンは季節外れの凍えるような寒気を覚える。そのときには、彼はアイスのように凍っていた。
「はぁ、はぁ……」
なんとかなったか? 龍希は、ナポリタンがしっかり凍ったか見届ける。
しかし、
パキパキッ!!、と氷が溶けていく。龍希の顔が唖然になる頃、反応し切れないまま、ナポリタンに首を掴まれるのだった。




