4 なにかが変わる胸騒ぎ
ルーシは、アルバイトでも頼むようなノリでそう言う。これには龍希も、首を傾げるほかない。
「いやいや、賞金首を確保? おれにできるわけないじゃん」
「できるわけない、と思っていたらなにもできないぞ」
「そりゃそうかもしれないけどさ……」龍希はコーラを一口飲む。「おれ、10年間ニートしてたんだぞ。それがいきなり賞金稼ぎなんて、荷が重いよ」
「ならちょうど良いだろ。あんな仕事、社会不適合者がやるものだからな」
「そうはならないでしょ。だいたい、賞金首ったって、どうやって捕まえてどうやって運べば良いのさ」
「こちらからヒトを用意する。その賞金首はかなりの戦闘力を持っているから、オマエが殺さない程度に殺してくれれば良い」
「……無理だろ。高校生のときならいざ知らず、もう100メートルも走れねェんだから」
「今のオマエは龍鬼娘になれるだろ? なら、問題なかろう」ルーシは一束の札を取り出す。「1000メニーある。日本円で10万円だ。手付金として、くれてやるよ」
彼女は、札束を龍希に手渡す。龍希は怪訝な面持ちになりながら、それをホットパンツの尻ポケットにしまう。
「成功したら2000メニー払う。んじゃ、あとは私の部下といっしょに行ってこい」
ルーシはその場から立ち去る。カネだけ渡されて、一体どうしろと?
「あぁ、クソッ。カネを先に渡して、恩を着せたのか……」
龍希はルーシの意図に気付くが、すでに遅い。彼女はどこかへと消えてしまったからだ。コーラを一気に飲み干し、龍希は溜め息をつきながらガン・ショップを出ていく。
「り、龍希さんッ! 先ほど、ルーシさんという方に会いませんでしたか? もしも恐ろしい仕事を引き受けたのなら、すぐに拒否すべきですッ──なんで無視するんですかぁああああ!!」
ヘーラーを完全無視し、龍希は近くに停まっていた車に近づく。黒色のセダン。おそらくカタギのそれではないので、ルーシが手配したのであろう。
窓ガラスをトントン、と叩き、龍希は運転手に話しかける。
「ルーシさんが手配したヒトですか?」
「うん。私はカプリ。よろしくね」
「はぁ」
後部座席のロックが解除されたので、龍希はそこに座る。
「いやー、プレジデントも恐ろしいこと考えるよね。カタギを使って、邪魔なヤツを排除するなんて。でもさ、貴方はそれで良いの?」
「なにがですか?」
「ここから先は、無法者のターンだよ」
茶髪のセミロングヘア、パッチリした目が特徴的なカプリはそう言ってきた。
「私なら、腰が引けちゃうな〜。今までこういう仕事したことないのに、いきなりヒットマンみたいなことさせられるんだもん」
「まぁ、普通なら気が引けますね」
「でっしょ?」
「けど、良いんじゃないですか? せっかく異世界に来たんだから、変な仕事でお金稼ぎも」
「……なんか、随分達観してるね」
「5浪した辺りから、自分の人生に関心が持てなくなっただけですよ」
「あら、浪人という名のニートだったの?」
「そうですね。最初の3年間は頑張ってたんですけど……ま、うまくいかないことだらけでした」龍希は目を細める。「けど、この街なら、そして異世界ならやり直せるかもしれない。違う自分になれるかもしれない。自暴自棄と言われればそれまでだけど、そう思わなきゃやってられない」
もしも人生をやり直せるとしたら……と何千回考えたことか。ニート生活はぼんやりした不安と焦りで満ちているから、余計にそう感じていた。
しかし、ここは異世界。しかも見た目も年齢も性別も変わっている。なら、全く別のことをしたって良いだろう。




