008 ケーレニオンとの取引
「それで本当の要件はなんだ」
ロギは無人となった玉座の間でケーレニオンの石像に話しかける。
「ほぉ、見抜きますか」
「当然だ」
ロギはさも当然のように胸を張る。
(良かった。当たりだ)
ロギはケーレニオンに何か用があるとは気付けなかった。しかしあのアザンディオスの素早過ぎる離脱に違和感を感じた。アザンディオスとケーレニオンの関係は微妙だ。お互いの実力を認めている様だが、直接接触するのを避けている節がある。なればこそ、アザンディオスはロギとケーレニオンを差し置いて退出する事はおかしい。ロギをケーレニオンの魔手から守るために立ち塞がるはず。最終的にロギはアザンディオスの行動を見て、ケーレニオン絡みで何かあるのだと気付く。
「流石はルークの駒。評価を上方修正しておきます」
「……」
ロギは無言で返す。魔城の五人の魔将は同格であるとされる。魔城そのものであるルークの駒が最終決定権を持ってはいるが、人型なら魔将最弱故に侮られる。ケーレニオンがロギを前の魔城と比べている気がしてロギの機嫌が悪くなる。ここで癇癪の一つでも起こせれば良かったのだが、石像相手に怒鳴り散らしても疲れるだけだ。
「貢物を送らず直接話しかければ良かったと思わぬ?」
「そんな! それでは様式美に反します}
(その様式美への拘りで苦労したぞ)
ロギは弱みを見せたくないので敢えて言わない。
「それに勇者レイオス程度を自力で倒せないのならそれまでです」
ケーレニオンがロギの考えを見透かすかの様に発言する。これはケーレニオンの本心だと思える力強い発言だ。
「魔城は最強だ」
最強であらねばならない。世界を征服せねばならない。ロギに強く刻み込まれている魔城としての本性が強く刺激される。
「そうでなくては困ります」
「はぐらかしはその辺で良いだろう」
ロギがこの会話を打ち切る。自分の中で目覚めてはいけない何かが目覚めそうな気がする。
「確かに。此度の戦いは実に興味深い。特にクラウンガーディアンの再生能力は本来あり得ないもの」
「あれには大いに助かった」
「ですが復活はさせないのでしょう?」
「そう思うか?」
「覇道には向きません」
ケーレニオンが短く言う。魔将なら知っているクラウンガーディアンの最大の欠点を指摘する。
「今しばらく手元に置くと考えないか?」
「フェリヌーン隷国は一月もすれば落ちます。となれば主戦場はグラースエヴァン王国に移ります。浮き駒を後生大事に抱える余裕はありません」
「その余裕の無さの大半は貴様らのせいだがな」
ロギが堪らず嫌味を言う。魔将が魔城に集えばこの様なやりくりは不要だ。何も考えず「攻めろ」の一言でグラースエヴァン王国までは征服できる。『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』の様なカラクリが無ければそのまま大陸すら征服出来るはずだ。
「全てはグレートイクリプス(大いなる掩蔽)のため」
(グレートイクリプス? 私の知らない大規模な計画があり、魔城はそれに巻き込まれているのか?)
ロギは想定していなかった事態に言葉を失う。
「それは話せぬ事か」
「今はまだ」
ロギの確認にケーレニオンが答える。
「ふぅ。ケーレニオンと話すと脱線が多い」
「それは致し方無い事」
「それでクラウンガーディアンの事だった気がするが?」
「鳳凰の名を冠するアイテムを手に入れたのではないかと思いまして」
「『鳳凰のエーギル』ならあるぞ」
「おお!」
「前線に送るモンスターに使う」
「それは勿体ない!」
「誰かが協力しないから前線が手薄だ」
「……」
「欲しいのなら分かっているだろう?」
ロギがケーレニオンに交渉を持ちかける。ケーレニオンは本馬鹿で発明馬鹿だ。世界の叡智を求めて魔城に膝を屈する様な女だ。ロギはこの世界について詳しくはない。ただ『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』の世界から差異が大きいものほどこの世界では貴重だと理解している。鳳凰、そして黄龍。この二つ由来の何かならケーレニオンは良い値段で買う。
「ロギは相変わらず人が悪い」
「ケーレニオンほどではない」
「私の配下種族の召喚を認めよう」
ロギはダークドヴェルグが召喚出来る感覚を得る。
「それは魔将として当然の事だ」
ロギが完璧に正しい。ここまで出し惜しみしていた事こそ責められるべきだ。
「……」
「貢物の時に出し惜しみし過ぎだ。割るぞ?」
ロギは鳳凰のエーギルを取り出し、床に落とす素振りを見せる。
「きーーー!?」
もはや言葉にならない悲鳴が石像から聞こえる。もし魔城に出る事が出来れば直接ロギをしばき倒している。
(ゲッシュの事は本当みたいだな。と言うかなんでそんな馬鹿をやったんだ? まあ「ケーレニオンだから」で説明出来るか)
ロギのケーレニオン評には容赦が無い。神に至っていない存在でもっとも神々の領域に踏み込んでいる大天才である事より、お気に入りの玩具が手に入らない事で癇癪を起す少女としてのイメージが強すぎる。
「はぁはぁ! 分かりました! 分かりましたよ!! 不世出の一品を出します」
「実験作でバトルプルーフ出来ていない奴か」
ケーレニオンの不世出の一品コレクションはただのガラクタから世界をひっくり返す道具まで幅広い。そして共通した事が一つある。実戦で有効か試されていないものばかりだ。中には試すだけで世界が終わる類のものまであるらしいが、試されていないので確実ではない。
「理論は完璧です」
「私が必要としている物を五つ」
「二つ」
「ならこの話は無しだ」
「み、三つ! 三つまで出します」
「……。今回だけだぞ」
ロギは「四つ」まで粘れるか思案する。そして無理に吐き出させるよりケーレニオンとの関係を悪化させないのが大事と考える。三つもあれば一つは当たりがある可能性が高い。
「ロギの欲張りには困ったものです」
(私が欲張り? ケーレニオンめ、好き勝手言ってくれる)
次があれば一歩も譲らないと決めて、ロギは転送されてきた羊皮紙の束を取る。全部で十枚あり、この中から三つ選べと言う事だろう。
「どうです? 素晴らしい一品ばかりでしょう!」
「半分はゴミだな」
「なぁ!」
ロギは五つほど「考慮に値しない」として床に捨てる。
(パーティーのジョークグッズとしてなら需要がありそうだが、世界征服を考えるのならむしろ足を引っ張りそうだ)
ロギは候補に残した五つを見る。通話のペンダント、ホムンクルスの素体、機械化ゴーレム試作四号、魔導銃、そして四属性魔法の杖だ。
「この通話のペンダントは私とケーレニオンが今やっている様な事が出来るのか」
「魔城の機能はルークの駒が倒れると止まります。魔将同士が話し合えると便利と思ったのですが……」
「魔将同士ならこんなものなくても連絡する手段はあるか」
「有能過ぎるのも考え物です」
「だがこれを欲しがりそうな人間は多そうだ」
「必要なマナが絶大で、魔将か勇者でなければまともに通話出来ません」
「……」
ロギはこれをゴミ箱に入れようかと思う。
「人間の方では私が考案した短い文章を送る魔道具を使っています。一方向なのと魔道具そのものが小さな部屋の大きさになるので普及はしませんでした」
(電信みたいなものを作っていたか)
ロギはホープエンドがどうやって外とやり取りをしているのか疑問に思っていた。ケーレニオンの発言でホープエンドに電信の魔道具がある可能性を知る。そしてそれの簒奪が魔城の戦略に組み込まれる。それよりも敵となる人類が電信を持っていた事が脅威だ。グラースエヴァン王国と開戦する前にそれを知れた方が戦略的に大きい。攻囲に成功して通信を遮断したと思ったのに、電信で連絡を取り合って挟撃されては勝てる戦争も負ける。
「ホムンクルスとはまた手垢の付いたものを。ケーレニオンらしくない」
ロギはケーレニオンが作った電信の魔道具の事を根掘り葉掘り聞きたい衝動をこらえて次の品について話す。ケーレニオンは過去の製作物について余り語りたがらない。電信の魔道具は失敗作に分類されるから余計に口が重い。それで俎上に上がっている品物の解説が疎かになっては本末転倒だ。
「ゲッシュの条件を発動させないで外出するために新機軸のホムンクルスを作ったのですが、完成後にマナの動きを測定したら失敗だと分かりました」
「完成はしたのだな?」
ロギに取ってはそれが大事だった。途中で飽きて未完成のホムンクルスなどを渡されても完成させられない。魔城の力で完成させられるとしても必要なマナは膨大。。
「私の作ったホムンクルスの中では頭一つ分は抜けています」
ケーレニオンの石像から自信満々なオーラが出る。
「ポーンには出来るか」
「いえ、人格が無いのでただの木偶の坊になります」
ロギはこれをゴミ箱に入れようかと思う。
「次はまともだろうな! 機械化ゴーレム試作四号とは普通のゴーレムと違うのか?」
「大違いです! これは魔城のゴーレム創造を人為的に再現しようとした研究です。性能はストーンゴーレムに劣りますが、工房と材料さえあれば同型を何百体と作り出せるのです!」
(まさかこれはこの世界の産業革命の走りか!?)
ロギはケーレニオンの説明を聞いて驚愕する。戦士は鍛冶師が手作業で打った剣を装備して戦う。ケーレニオンの攻防を応用すれば数百本の剣を吐き出し、武器市場の様相をガラッと変えてしまう。
「これは人類には?」
「ギルドや既得権益に猛反対されました」
「だろうな」
ロギは安堵する。人の欲望が魔城の敗北を遠ざけた。
「この魔導銃は似たものか?」
「似た? おお!! 工房と魔導銃を組み合わせれば!! ロギは天才か!?」
ケーレニオンが新たな知見を得て震える。
(藪蛇だったか!)
ロギは面倒な事になったと頭を抱える。ケーレニオンは発明をしては次の発明に進む。過去の発明同士をくっつけて新たな発明に至る真似はしない。そのためロギの様に二つの発明に親和性を発見されるとケーレニオンは純粋に驚く。
「それは良いから、性能面をだな」
「性能はゴブリン程度なら殺せます。それ以上なら逃げてください」
「魔力を込めても威力が足りないか。魔将ならどうだ?」
「魔将が魔力を込めれば魔導銃が破裂します。魔将の魔力に耐える魔導銃となると一般の者では使えません」
「これもお蔵入りしたか」
「いえ、商業連合国が魔導銃で組織した部隊を作っています」
「これと性能を比較するとどうだ?」
「どっちもどっちかと」
(前世にあったマスケット部隊がこの世界にあると言う事か。一丁一丁手作業だろうからさして脅威では無いが、大量生産技術と結びつけられたら面倒になる)
ロギの中で商業連合国を滅ぼす優先度がグンと上がる。
「そして最後のが四属性魔法の杖か。一属性の杖なら良く見かけるが……」
「左様! これは本来不可能と言われた複数の属性を一つの杖に纏め上げた一品で……」
「欠点は?」
「属性への親和性が無いと威力を発揮しません」
「一属性だけ使えないのか?」
「私の様に四属性揃っている前提です」
「二属性とかに性能を落とせないのか」
「人間の方で試したのがいますが、それは不可能です」
「ほう?」
「四属性がお互いを牽制する形で仮初の安定を実現しています。二属性、そして三属性ではそれが不可能です」
「興味深い」
ロギは魔法を使えないが、魔法の話はかなり好きだ。
「でしょう。そして私に匹敵する使い手がいれば一騎当千となります」
(事実上使い手が存在しないと自慢しているのか?)
ロギはこれをゴミ箱に入れようかと思う。
「分かった。それなら選ぶとしよう」
「して、ロギは何を望みます?」
そして取引が成立しロギは鳳凰のエーギルをケーレニオンに渡す。
応援よろしくお願いします。




