004 勇者レイオス戦 中盤戦
「当たらないわよ!」
ベルフラウがダアガスの徒手空拳を躱しながら煽る。体全体を武器とするダアガスの一撃は凶悪で、その攻撃が当たるだけで玉座の間にある支柱や床に大穴が開く。玉座の間はそれ相応に広く、十五人ほどが全力で戦うのなら十分に距離を取って戦える。
「逃げるだけでは勝てんぞ!」
ダアガスも負けじと煽り返す。ベルフラウの回避力は素晴らしいも、回避からの反撃に持ち込めない。
(あっちはダアガスが少し優勢か。二段構えの作戦の一段目は成功しているので良しとする)
ロギはベルフラウとダアガスの戦いを見てそう判断する。ベルフラウには二つの仕事がある。一つはダアガスをレイオスから遠ざけ、ロギとレイオスの戦いの浮き駒にする。レイオスとダアガスが共闘すれば今のロギは軽く追いつめられる。恥も外聞も捨てアザンディオスに泣きつくしかない。これはロギが考えた通りに上手く行っている。
もう一つはベルフラウがダアガスを倒しレイオス戦の援軍にはせ参じる。ここは上手く行っていない。様々な要因がある中で一番大きいのは戦闘スタイルの違いだ。ベルフラウはダアガスを倒すために中距離から攻撃したい。ダアガスはベルフラウを倒すために近距離で戦いたい。ベルフラウが距離を取ればダアガスが距離を詰める。そんな状態でもダアガスを上手く誘導しているベルフラウの実力は確かだ。
「しつこいわね!」
「邪な方法で新たなる力を得た所で、使いこなせない限り敵では無い!」
ダアガスはベルフラウが強くなったのを肌で感じるも、その力に振り回されていると見抜き果敢に攻める。その懸念はロギにもあった。なのでベルフラウの強化が終わると同時に外でモンスターの相手をさせた。ベルフラウのやる気が乏しく何処まで効果があるか分からなかったが、ベルフラウ自身も新しい力を試したい雰囲気だった。ロギはそれで安心したが、ベルフラウの相手が弱すぎたのか、彼女の確認作業がいい加減だったのか、ロギの『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』基準の戦闘能力にはほど遠い形で仕上がっている。
「ふざけるな! お父様に与えられた力を侮辱するか!!」
ベルフラウが激昂して隙の大きい攻撃をする。敬愛する父を馬鹿にされたと勘違いしたのか、無理筋な攻めに転じる。自爆覚悟の魔法で攻撃すればダアガスに少しはダメージを与えられたが、そんな冷静な思考はベルフラウから抜け落ちている。
「そこだ!」
「がはぁ!」
ダアガスはそれを見抜きカウンターでベルフラウの腹に強烈な蹴りを放つ。二人の戦いが始まって始めてベルフラウが怪我らしい怪我を負い遠方に飛ばされる。
「私の綺麗な肌を土足で!」
それがベルフラウの怒りに火をつける。ダアガスは蹴りで空いた距離を一気に詰める。
「下がれ!」
ロギが叫ぶ。
「ちっ!」
それを聞いてベルフラウは迎え撃つの諦め、軽やかに距離を取る。
(危なかった。私の声が届かねばベルフラウは負けていた)
ロギは深く被ったフードの下で冷や汗をかく。レイオスとの戦いに集中しないといけないのにベルフラウの事まで面倒を見ないといけない。ベルフラウとダアガスがまた千日手に戻ったのを見て、レイオスの方に今一度集中する。
「バフを切らすな、アム!」
「は、はい! シールドレイズ!」
ロギの激を聞き、クラウンガーディアンに防御力上昇の魔法を掛ける。レイオスの攻撃は物理攻撃中心のために魔法防御を上げないと良いのが救いだ。レイオスがアリシアの様に物理と魔法の両方を自在に使えればアムの処理能力では追いつけない。
「ディスペル!」
アムが強化をするのならロギは強化解除を謀る。
「くっ、エミリー!」
勇者は高いレジストを誇り、一度掛けられた強化はそう簡単に解除できない。アムでは十回試して一回解除出来れば良い方だ。しかし魔城であるロギなら十回中九回は解除出来る。強化解除した上で弱体化を掛けられたら良いのだが、そこは如何にロギでも成功率は高くない。ロギは相手を牽制する意味で余裕があれば弱体化魔法を放つが、効果を発揮するとは考えていない。よしんば成功したとして、レイオスの仲間が素早く解除する。それでも勇者の仲間に一手余分に消費させるので無駄ではない。
「オ、オールレイズ!」
エミリーが馬鹿の一つ覚えみたいに全体強化魔法を掛ける。強化されたレイオスは解除される前に少しでもクラウンガーディアンを削ろうと容赦ない攻撃を繰り返す。
(勇者のバッファーが三流だからバフデバフ合戦は私が優勢か)
エミリーの使うオールレイズは難易度が高い魔法で、それを使える者は一流か超一流と評価される。そして強化が解除されない敵相手ならこの魔法一つで百戦百勝は手堅い。しかし出鱈目な強化魔法の代償として魔力消費が激しい。各種バフを個別に掛けた方が魔力消費は少ない。なので本来はオールレイズを一回使い、それ以降は敵に合わせて単独強化魔法を使った方が長く戦線を維持出来る。『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』の敵バッファーはこの塩梅が嫌らしく、プレイヤー側のデータを参照して的確な強化魔法を使っているとロギは信じている。そんな敵とやり合ってきた経験者に取って、最強クラスの強化魔法をスパムするだけのバッファーはカモでしかない。
「エミリー、シールドレイズに切り替えて!」
「それはオールレイズほど得意じゃない!」
魔法使いが言うも、エミリーが断る。エミリーはベルフラウと良く似ている。生まれつきの才能、そして公爵家の資金を湯水の如く使った教育のおかげでオールレイズを習得している。それだけなら褒めるべき事だが、その教育の代償として回復魔法とオールレイズ以外の魔法の習熟度が恐ろしく低い。何せ下位の強化魔法を一度も使わずともオールレイズを数回唱えれば事足りる。それで事足りない敵なんて大陸全土を探しても数えるほどしかいない。エミリーに取って魔城がそれに当たるのが最大の不運だ。
「何と言う余裕! このルジャール、感服の極み! では少しギアを上げるとしましょう!」
そんな会話を聞いて勇者の仲間に余裕があり過ぎると勘違いしたルジャールが攻撃の手を強める。シャドーエルフは戦いでは本気を中々出さない。本気を出さない事で勝つ事が社会ステータスとなっている。なのでシャドーエルフ基準で舐めプの極みをしているエミリーはまだ余裕があると誤判断される。ルジャールは舐めプをしながら相手を追いつめるべくギアを上げる。
「トリプルショット!」
狩人が番えた三本の矢を一回に放ち、ルジャールの攻撃を空中で叩き落とす。狩人が叩き落とせない攻撃は魔法使いが対応する。
「なんと、これまで躱すとは!」
「卑怯者、一々ストーンゴーレムの陰に隠れて!」
狩人が叫ぶ。血が矢を番える手の指先から床に落ちる。狩人は気丈に振舞うが、このままではじり貧なのを計算している。エミリーの回復魔法は当てに出来ない。そして回復ポーションの在庫は多くない。ルジャールがそれを飲む隙を見逃すとは思えない。なのでポーションを飲むのは残り少ない手持ちの矢が底を突いた時だと決めている。個人で携帯出来る範囲で狂獣対策に十分な装備を持ってきている。しかし個人では運べる限界がある。持ち逃げの危険があってもホープエンドで荷物持ちの奴隷を買うべきだったと狩人は奥歯をかみしめる。
「シャドーエルフには最高の誉め言葉! 卑怯だろうと勝つ! 敗北で得られるものなど何もない!!」
エルフに負けて全てを失っていたシャドーエルフらしい思想だ。
「相手のペースに乗せられないで! まだ十分対応出来る!」
勇者の仲魔で一番余裕がある魔法使いが言う。彼女に余裕があるのは偏にこの戦いで完全な役立たずになっているのが大きい。彼女が放つ魔法はストーンゴーレムを中破させられるが、ロギが瞬時に回復するから放つ理由が無くなっている。ルジャールの攻撃を叩き落とすのは下位の魔法をばら撒くだけで終わる。なので彼女は必死に周りを見て司令塔に近い役割をやろうとしている。
(考えは悪くない。ただ指揮をした事が無いみたいだ)
ロギはそんな魔法使いを冷静に分析する。魔法使いは周りをよく見ている。発言も凡そ的確だ。だがそこで終わっている。彼女の一言で戦況を動かすには至らない。これまで勇者パーティーの司令塔はレイオスであり、サブ司令塔を必要とする相手とは戦闘経験が無い。レイオスに取ってサブ司令塔が必要な敵と戦うのは味方が百人以上いる様な戦場だ。五人パーティーである限り、レイオスが最強の前衛と司令塔を兼任した方が纏まる。
ガキィィィン!
(何事だ!?)
考えを中断したロギの目にはレイオスの一撃を受けて吹き飛ばされるクラウンガーディアンが映る。
「貰った!」
レイオスは一気にロギとの距離を詰めようとする。
「……」
しかしレイオスの前進を受けてクラウンガーディアンが不安定な体制からシールドバッシュを放ち、レイオスの勢いを止める。
「今回はいけると思ったのに!」
レイオスが悔しそうに言う。クラウンガーディアンが立ち上がる頃にはロギの魔法で修復が済む。
(普通なら、な)
心配事の多いロギだが、クラウンガーディアンに関しては余り心配していない。レイオスに取って魔城は初見の相手だ。それ故に多少手古摺るのは普通だと誤解している。実際はロギの戦術に嵌っており、勇者の奇跡が起きない限り段々不利になる。逆にロギに取ってレイオスと戦うのは三度目だ。密輸洞窟ではゴーレム越しに力を見、ホープエンド籠城ではアリシア経由で見ている。アリシアの戦いを通してレイオスが物理偏重だと知らなければロギは足りないリソースを上手くやりくり出来ず、今頃は押し切られている。
(「レイオスに負けない」のを唯一のコンセプトに強化したクラウンガーディアンだ。突破などさせるものか!)
ロギは敵を知った程度で勝てると自惚れる気はない。ロギがレイオスを知っていると豪語して一騎打ちを挑めば一撃で死ぬ。『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』なら即投了してニューゲームを始める様な無駄な強化をクラウンガーディアンに施し、状況が好転するきっかけを作る事に全てを捧げる。ダアガスがレイオスに合流した時は発狂しそうになったが、ベルフラウの強化でギリギリ勝利への道順を構築出来た。
「諦めよレイオス。貴様では勝てない」
ロギがここだと判断しレイオスを挑発する。
「ほざけ! まだ始まったばかりだ!」
レイオスが吠える。レイオスの言葉に嘘はない。しかし彼の仲間はもう限界が近い。如何にレイオスと言えど仲間を守ってロギに勝てるほどここは甘い戦場では無い。もしレイオスがここで振り向けば、彼の仲間が諦めかけていると気付けた。そこから逃げの一手を打たれては駄目だとロギの中の知識が警鐘を鳴らす。ロギ、そして魔城の強さは玉座の間が初見である事が八割だ。魔城がもっと強くなり武将が揃えばその限りでは無いが、もう数年は初見殺しに頼る事になる。
「ならばこの布陣を突破してみよ!」
ロギらしくない煽りを続ける。ここで冷静に状況を分析されるわけにはいかない。勇者が仲間の死で覚醒する前に何としても勇者の仲間に限界を迎えさせ、レイオスを最初に殺す必要がある。
ツンツンツン。アムがレイオスに見えない位置からロギの背中を三回突く。
(ダアガスがこちらを見ているか!)
ロギは視線に敏感なアムにダアガスがロギを見る様なら背中を突くように言い含めていた。ダアガスはベルフラウとの戦いに慣れたのか、ロギとレイオスをチラ見する余裕が増えている。そしてロギはそれが何を意味するか分かるので胃がキリキリと痛む。
(勝つにはもはやそれしか方法が無い。それを選択できるだけでダアガスが如何に得難いアリシアの師匠だったか分かる)
ダアガスほどの戦巧者なら勝つために必要な手段を取る。即ち、ダアガスの手で勇者の仲間を殺し、レイオスを覚醒させる。レイオスの一振りでダアガスは殺される。しかし覚醒したレイオスならそのままロギを殺せる。ダアガスの目的はアリシアの解放だ。それを達成するためにロギの討伐は通過点でしかない。ドラゴニアンなら勇者レイオスですらその目的を達成する道具と冷静に割り切れる。
(ダアガス、そしてレイオスに私に勝てると思わせるしかない!)
ダアガスの行動を手遅れになるまで遅らせるにはロギが致命的な隙を作り、レイオスに勝機がある様に演出する必要がある。成功すればロギは勝利を更に手繰り寄せる。失敗すれば滅びる。ロギは勝利を得るために自分の命を賭けて大博打を打つ。
応援よろしくお願いします。




