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005 勇者レイオス戦 終盤戦

「ストーンゴーレムよ!」


 ロギの命令で三体のストーンゴーレムで攻勢される小隊が前進する。自らの守りを減じる下策だが、レイオス達にはロギが勝利を急いている様に見える。


「オールレイズ! アロープロテクション!」


 アムがここまで温存していた全強化と矢避けの魔法を発動させる。ロギの弱い身体能力では誤差にしかならないが、これは本命のアムを強化するためのカモフラージュだ。強化されたアムなら未強化のレイオスの一撃を一回は捌ける。経験豊富なレイオスなら二回目からは対応するだろうが、勇者パーティーに取って千載一遇の好機を空かせるのは戦いの流れの中では非常に大きな意味がある。例えレイオスが諦めずとも、レイオスの仲間の心は折れる。


「ここが踏ん張りどころ!」


 魔法使いはロギが勝負を付けに来たと考えて必死にエミリーと狩人を鼓舞する。


「わ、分かってい……うっぷ」


 エミリーは吐きそうになるのをこらえて魔力回復役を飲み込む。既に安全と言われている量の数倍を飲んでいる。こうでもしないと魔力枯渇に陥りレイオスの強化が出来なくなる。エミリーは精神力で必死に尿意を抑えるが、既に体の方は限界を迎えている。この一連の攻防で決着が付くと信じる事で辛うじて留まっていられる。


「今ので最後のポーションよ」


 狩人がルジャールの動きを追いながら言う。彼女はストーンゴーレムが動き出した時にルジャールもそれに合わせて動きを変えたと気付き、攻防に開いた一瞬の空白で回復を済ませる。狩人はこれで残った数本の矢を外さず放てると自分を奮い立たせる。


(シフトチェンジの隙を使って回復してくるか。その有能さを呪え)


 ロギはエミリーと狩人に回復リソースを消費させた事に満足する。戦意を挫いたのにポーションで回復出来る可能性が残っていればレイオス次第でまた立ち上がるかもしれない。ロギは『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』で勇者と言う出鱈目な敵に散々苦労させられた。そして今は現実に自分の命が脅かされている。勝利を得るために安全マージンを取っ払い、持てる全てで迎え撃っている。


「邪魔だ!」


 レイオスがストーンゴーレムを狙えばクラウンガーディアンがストーンゴーレムを守る様に動く。無理に押し切ればレイオスとて無事では済まない。


「レイオス、合わせて!」


 魔法使いが大声で叫ぶ。ルジャールがそうはさせまいと尽きない投げナイフを乱射する。


「守りは任せて!」


 狩人が二本のダガーを構えてナイフを叩き落とす。数本は彼女の体に刺さるが、魔法使いの援護は見事こなす。ルジャールは魔城の力で無限に供給されるナイフに毒を塗りたかった。ただ毒を塗ると掠るだけで勇者の仲間が死ぬ。ルジャールは殺すためにナイフを投げる事はあっても、殺さない様に狙う事は今まで経験したことが無い。幸い、狩人の怪我は致命傷には至らない。それを見てルジャールは安堵する。ダアガスは一瞬だけ心底残念そうな顔をしてベルフラウとの戦いに集中する。


「アイシクルピラー!」


 魔法使いが氷で出来た巨大な針状の物体をストーンゴーレムにぶつける。氷を扱うのは高等魔法に分類され、実戦で使えるレベルにまで到達出来る人材は少ない。魔法使いはこれまでストーンゴーレムに与えたダメージからもっとも効果的だと思える魔法を選ぶ。


(不味い! 想定以上か!?)


 ロギは一瞬焦り、ストーンゴーレムを守ろうかと思う。しかし『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』で鍛えたミスをした時に素早くリカバーを図る精神で下手な援護を控える。中途半端に守れるか分からないストーンゴーレムを守るより、次の一手を素早く打つのが最善と切り替える。


 アイシクルピラーがドガァンとストーンゴーレムに刺さる。ギリギリ崩壊を免れているが、刺さっているピラーがロギの回復を阻害する。


「貰った!」


 レイオスは一気にストーンゴーレムへ迫り、それを一刀両断する。


「ぐ……」


「レイオス様! ヒール!!」


 レイオスの一撃は見事にストーンゴーレムを粉砕する。しかしクラウンガーディアンを振り払おうと無理をし過ぎたため脇腹を斬られる。その傷はエミリーの回復魔法ですぐに塞がれるも、この戦いが始まってからレイオスが怪我らしい怪我を負った事実は変わらない。


「ルジャール、手を抜いたか!」


 ロギが戦闘中なのに関わらずルジャールを叱責する。そのような事をすれば勝てる戦いすら負ける。なのでこれは最初からシナリオありきの発言だ。ルジャールへの叱責の言葉がこれから使う戦法を全員に伝える役目をする。如何に勇者と言えどこれが自分を殺すための最後の仕上げだとは考えつけない。


「おお、偉大な魔城様にお叱りを受けてしまった!!」


 ルジャールは本気なのかふざけているのか分からないオーバーリアクションで涙を流す。


「レイオス様、ストーンゴーレムが補充されません!」


 魔法使いが叫ぶ。


「やはり! ストーンゴーレム相手に回復魔法を無駄打ちしていたのには理由があったか!」


 レイオスは我が意を得たりと笑みを浮かべる。ロギはそれほど重要とは思えないストーンゴーレムに貴重な魔法リソースを大量に使用していた。魔城であるロギに取って使用していたリソースは微々たるものだが、人間基準ではあり得ないほどの魔力を消費した事になる。レイオスと魔法使いはそれに目を付けてストーンゴーレムを倒す事にした。


「まだストーンゴーレムは残っている!」


 ロギはまるで苦し紛れの様な台詞を吐く。


(ストーンゴーレムを再召喚出来ないと思ってくれたか)


 玉座の間で戦闘が始まると召喚コストが十倍以上に跳ね上がる。なので戦闘中の緊急召喚は好ましくない。しかし召喚出来ないと思い込んだ相手には完璧な奇襲となり得る。そのためにストーンゴーレム一体を失い、守りに穴が出来たとレイオス達を錯覚させる。


「この勢いのまま勝つ!」


 レイオスが叫んで突っ込む。魔法使いは一瞬何か言おうとするも、混乱の元だと思い口を噤む。魔法使いもまた限界が近い。魔城の防御の一角を崩したのなら一時撤退を視野に入れるのは当然だ。これまでの戦いで手持ちのリソースが圧倒的に足りない状態で挑んだのは嫌と言うほど分かる。このままレイオスが勝てたとして、レイオス以外は無事にホープエンドへ帰還出来るか分からない。現実的に考えるのなら、怒ったシャドーエルフの襲撃でレイオス以外は死に絶える。


「命を賭けてルジャールを抑え込みます!」


 魔法使いは自分の命よりレイオスの勝利を選ぶ。覚悟が出来ている狩人は「遅い」と言う顔をしながら二人の護衛を捨て走り出す。既に矢は尽き、もはや刃こぼれしているダガー二本が主装備だ。


「え、ええと?」


 エミリーは色々と限界を迎えて前後不覚に陥っている。軽度の魔力酔いまで発症している。


「オールレイズです!」


「オ、オールレイズ……?」


 魔法使いに言われるままに強化魔法を味方に掛ける。もはや生き残ってもヒーラーとして明日が分からないほどの酷使をしているが、もはや勇者パーティーには明日を考える程の余裕が残されていない。


「人気者は辛い!」


 ルジャールが邪悪な笑みを浮かべながら狩人を迎え撃つ。彼の頭には如何に殺さず苦しめるかしか考えていない。脅威なのはレイオス一人であり、彼のためにずいぶんと無様な戦いを強いられたストレスは相当だ。腕の一本までならセーフだろうと一人で安全基準を大幅に引き下げる。ルジャールからすれば足を斬り落とすと逃げられなくなるからアウトになる。なので戦闘能力と逃走能力を維持出来る腕一本はセーフになる。人間基準では腕一本は余裕でアウトだ。


「くぅ!」


「ははは、どうしました? 先ほどの威勢は何処に?」


 ルジャールと狩人の近接戦闘能力は天と地ほどある。オールレイズで底上げした所で圧倒的な差は埋まらない。魔法使いが援護の魔法を放つが、ルジャールは魔法と鞭で巧みに迎撃する。少し前までストーンゴーレムの陰に隠れていた道化師とは思えないほどの八面六臂の活躍だ。


「手加減していたと言うの!?」


「当然! 貴方が先に死ぬと勇者が強化されますから! 舐めプも楽じゃないんですよぉぉぉ!!」


「ぎゃあああ!」


 ルジャールが下種な雄叫びを挙げて狩人の左腕を肩下から斬り飛ばす。流れる様な行動で猛毒の詰まった瓶を斬り落とした腕に投げつける。割れた瓶から溢れた毒がジュージューと狩人の左腕を焼き、数秒で溶かし尽くす。


「う、腕がぁぁぁ!!」


 狩人は怒りと激痛で叫ぶも、ルジャールに腹を思いっきり蹴られてエミリー達の方に飛ばされる。


「エミリー、避けて!」


「へ?」


 魔法使いがエミリーを動かせる前に砲弾と化した狩人がエミリーにぶつかり、二人はそのまま玉座の扉にぶつかり動かなくなる。


「やああ! 大当たりぃぃぃ!!」


 ルジャールが勝利の雄叫びをあげる。


「許さないぞ!!」


 レイオスが怒りを露わにする。


(それほど強くはなっていない。ベルフラウの言っていた覚醒状態とは違うみたいだ)


 ロギはルジャールがやり過ぎたと内心冷や冷やしたが、レイオスを見る限りウェアウルフと戦っていた時に見せた力止まりだ。これならまだ十分対応できる。そして怒りで視野が狭くなっている時が仕掛け時だと見抜く。


「尻尾を巻いて逃げるか勇者よ!」


「貴様を倒して回復させるだけだ!!」


 レイオスはそう言うが、時間が無いのを痛いほど理解している。なので多少のリスクを承知で一気に勝負を決めるべく動く。


「うおおお!!」


 クラウンガーディアンを気合一発で数歩下がらせ、ロギを狙うに邪魔なストーンゴーレムを二体倒す。背後に迫るクラウンガーディアンは魔法使いがわが身を捨て放った魔法で片膝をつく。


「レイオスぅ……」


 ルジャールの投げたナイフで両目を射抜かれた魔法使いが叫ぶの必死に堪える。ここでレイオスが振り向けば最後の好機を失う。ルジャールの次の狙いはレイオスだとすると、レイオスには事態を打開する手数が足りない。魔法使いは暗闇で必死に考える。次の一撃だ。次の一撃でロギを捉えたら勝ちだ。この版面を作り出すために魔法使いを含めた三人は命を賭けた形だ。


 魔法使いの考えた通りにレイオスの聖剣がロギの首筋を狙って放たれる。


「ストーンゴーレム召喚」


 そして魔法使いの耳には無情にも全滅を伝えるロギの声が聞こえる。


「な!?」


 勝ちを確信したレイオスは召喚されたストーンゴーレムの正拳突きをモロに食らい、元居た場所に吹き飛ばされる。クラウンガーディアンが吹き飛ばされたレイオスを両断するために剣を構える。


 そしてクラウンガーディアンの剣が空を斬る。


「何!?」


 今度はロギが驚く。ダアガスが力任せにベルフラウをレイオスにぶつけていた。その衝撃で二人はロギの想定とは違う方向に飛ぶ。受け身を取れない形で空中衝突となれば二人とも無事では済まない。しかしそんな状態でもレイオスが仲間の死を受けて万が一覚醒すれば版面はひっくり返る。そう思い、ロギはレイオスの行方を追う。そしてその致命的な一瞬でダアガスから目を離す。


「……」


 ダアガスが無言でロギに迫る。ダアガスはドラゴニアンだ。人間の様に奇襲が確実に決まる一瞬で雄叫びをあげるヘマはしない。勇者を反対方向に吹き飛ばすと言う派手な行動で全員の目は勇者を追っている。注意を他にやらせ、普段は響く足音を闘気で消音し、殺気すらも無心で消し、完全なる静寂を成したダアガスの拳がロギに迫る。


「あ!?」


 ロギが気付いて声をあげようとするが、既に遅い。この距離にダアガスが入った時点でダアガスの勝利は堅い。

応援よろしくお願いします。

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