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003 勇者レイオス戦 玉座の間

 レイオス一行は太陽が昇る前に起床し動き出す。彼らの移動速度なら朝の内に魔城に辿り着ける。かつてホープエンドの軍勢がした様に魔城のすぐ近くで一泊する案を検討したが、満場一致で危険過ぎると判断された。魔城の「攻撃しない」発言がどこまで本当か確認する術が無い。時間経過または魔城との距離で攻撃してくる可能性は高いと考えられた。そんな懸念があり、エミリー達だけをホープエンドに帰す事を諦める。本人たちの反対が強かったが、それ以上にエミリー達だけになったら生き残れる可能性が大幅に減じる。ホープエンドを攻めた際にはダアガス一人に三人が軽く無効化された。シャドーエルフが十人以上で攻め掛かればエミリー達は無事では済まない。


「これが魔城か」


 レイオスが魔城の城壁を巡回しているゴーレムが見えるほど接近して言う。全員臨戦態勢だが、五人で城攻めをする無謀さにエミリー達の顔面が蒼白だ。「レイオスなら勝つ」と言う安心感のみが彼女らを支えている。そしてこの世界の勇者は単騎で城を落とせる。しかしレイオスが挑むのは魔城だ。エミリー達は人間の城とは根本的に異なる死地である事を必死に忘れようとする。


「二重城壁。建築形式はアグティオ四番の亜種……または発展形か。興味深い」


 ダアガスが目に見える範囲で魔城の建築形式を説明する。ダアガスが語ったアグティオは凡そ1500年前に活躍した城塞建築の名人で、彼が確立した二重城壁を持つ建物の基本形は「アグティオの基礎五番」として広く流布している。


「四番? え~と籠城戦に適しているだったかしら?」


 この中で唯一その手の教育を受けたエミリーが声を上げる。「アグティオの基礎五番」を聞いた事があっても、各番がどういう用途の城なのかを知る者は少ない。そしてどう攻略すれば良いか知っている者はさらに少ない。


「そうだ。そして二重城壁の完成形とも言われている。狂獣が自然にこれを作ったのなら世紀の天才と戦う事になっていた」


 ダアガスが笑みを浮かべながら言う。


「ダアガスが居て良かった」


 レイオスは短く感謝する。レイオスは野生の狂獣を狩る前提でここまで来ている。ダアガスを仲間に加えてその考えを改めている。しかしいざ魔城を目の前にして魔城の防備が人類最高峰に匹敵すると言われて気合を入れ直す。


「どうやって入ります? 裏口を探しましょうか?」


 狩人が問う。


「その前に各種バフを掛けないと。矢避けは絶対に必要よ!」


 魔法使いが負けじと言う。


「レイオスが『開けろ』と言えば城門が開く」


「嘘ーー!?」


 ダアガスの案にエミリーが殊の外大声で叫ぶ。大声を上げたので敵が反応するかと心配するも、攻撃は飛んでこない。


「気を付けて」


 狩人が窘める。


「ごめん」


「俺との決着を望んでいるのなら開くはずか」


 レイオスが言う。


「待って! バフを先に掛けるから。エミリーも!」


「分かった!」


 二人でありったけのバフを掛けてレイオス一行の戦闘能力を出来る限り高める。効果は長く続かない。しかしここから玉座の間に直行して戦闘を始めると仮定すれば、戦闘が終わっても効果は継続しているはずだ。


「魔城よ! 勇者レイオスが来たぞ!!」


 レイオスが大声で叫ぶ。一瞬の沈黙の後、ゴゴゴと音を立てながら城門が一人でに開く。少し左手にあるもう一つの城門も開いている最中だ。


「行くぞ!」


 レイオスが声を掛け、最初に足を踏み込む。エミリー達三人が真ん中でダアガスが後方からの奇襲を警戒する。そんな彼らの様子をロギは玉座の間から見る。


(前回攻められた時はレイオスが居る殺し間を矢の雨で埋め尽くしたが、今回は控えるか)


 勇者パーティーを半壊させるのなら城壁のゴーレムをフル稼働するのが上策だ。当初ロギは城門を開いた時点で攻撃を開始するつもりだった。しかしベルフラウの進言で保留にした。ベルフラウがレイオスと行動を共にしていた頃、パーティーの一人が不運な流れ矢で重傷を負った。それを見たレイオスは鬼神の如き力を発揮して敵を粉砕した。ロギは『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』の経験からベルフラウの発言を信じた。そして彼らが魔城の支配領域に入った事で勇者とダアガス以外の能力をステータス化出来たのを受けて、ロギは攻撃を本格的に取りやめる。


(あの三人は勇者覚醒用の生贄か?)


 そう考えないと何故あんな弱い三人が魔城との決戦に来ているか説明が付かない。レイオスにはそんな気は一切ない。しかし勇者の裏にいる国家の思惑は分からない。


(スキルは悪くないんだが、私が『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』で最後に戦った勇者の仲間に比べると月と鼈だ)


 ロギはレイオスとの戦う戦法を少ない時間で組み直す。ベルフラウの進言を聞いて勇者の仲間が弱い場合の戦法は伝授済みだ。ただロギとしてもここまで弱いのは想定外だ。一人がベルフラウの三分の一程度で計算したのに、三人でベルフラウの二分の一にすら満たない。彼女らが死なない程度に放つ予定だった全体攻撃魔法がほぼ全てお蔵入りとなる。


「来たみたいだ」


 ロギが呟く。


「おお! 待ちくたびれましたぞ!!」


 シャドーエルフのルジャールが大仰に叫ぶ。重装備のローグに近いいで立ちで世界樹より削りだした短槍を装備している。他には見えるだけで短剣、鞭、複数の投げナイフを持っている。この倍は隠し持っている。ここに居る武将の中でルジャールが一番難しい仕事を任されている。勇者、そして三人組の牽制だ。ルジャールが三人組にプレッシャーをかけ続ける限り、レイオスは十全に動けない。


「が、頑張ります!」


「緊張するな、と言うのは無理か。だが私の後ろに居る限り敵の攻撃は届かせない。安心して援護せよ」


「はい!」


 獣人のアムは自信なさげだ。一人でゴブリンの巣を滅ぼせるほど強化されても、元来の性格までは変えられない。正確には、ロギが変えるのを良しとしなかった。ロギは自分の力はあくまで配下のポテンシャルを引き出す事にのみ使い、都合の良い駒に洗脳する事はしない。そんなアムの役割はエミリーと被るバッファーだが、アムの強化倍率の方がエミリーより高い。アムが恐怖で仕事を放棄しない限り、バフ合戦では魔城が勝つ。それだけではない。アムは殴りバッファーとして調整されている。状況が想定より悪化すれば三人組を直接狙う刺客と化す。


「ベルフラウには特に言う事は無いか」


 ロギは爪を鑢掛けしているベルフラウを横目で見る。魔城、そしてロギへの忠誠心など微塵もない。そしてそれを隠す気すらない。ベルフラウが言う事を聞くのは「お父様」と呼ぶアザンディオスただ一人。


「勿論よ。お父様のために完璧なる勝利を捧げるのよ!! あんたたち、足を引っ張らないで!」


 ベルフラウはルジャールとアムに言い放つ。ロギが安心してベルフラウを使えるのはアザンディオスが直々に「我に勇者の首を捧げよ」とベルフラウに命じたのが大きい。ベルフラウはそれを成すためにアザンディオスが提供した強化素材をふんだんに使い、大幅に強化されている。そこまで強化してもレイオスには届かない。ベルフラウの役目はダアガスを殺す事だ。今のベルフラウは右腕を取り戻したダアガスとほぼ互角か少し優勢とロギは見る。ダアガスのステータス化に失敗し、大部分がバグって読めない。それでもここまで魔城として様々な強者を見て来て経験からベルフラウならダアガスを抑えられると自信を持って言える。


「貴様がレイオスを連れて来たのでは無いか!」


 ルジャールが激昂する。


「功績を持ってきてあげたのよ」


「止めよ。玉座の間の前に居る勇者に笑われるぞ」


 ロギは玉座の間の扉を開けながら二人の争いを止める。武将同士の仲は最悪と言ったら良い。一緒に仕事を任せる事は出来ないが、ロギが睨みを利かせている玉座の間なら足を引っ張らない程度の共闘は期待できる。期待出来なければレイオスに殺されて全てが終わる。


 玉座の間が開くのを待ってレイオス一行が入室する。


(即斬りかかってくれた方が良かった)


 ロギは気付かれない様に眉間にしわを寄せる。


「俺は勇者レイオスだ! 魔城よ、何故に人類と敵対する!!」


「ふむ……魔城ロギ・アルスヴァータが答えてやろう! 私は世界を手に入れる。そこに人類が居るのが悪い!!」


 ロギはレイオスの問いに真摯に答える。


「ふざけるな!」


「理解出来んのは無理もない」


 しかしレイオスは侮られたと思い怒る。レイオスの放つ圧が膨れ上がり今にも戦いが始まる。


「魔城よ、アリシアを解放しろ」


「ダアガス……こうして直接顔を合わせるのは初めてか」


 ロギはダアガスとは数回幻影越しに会っている。その際には顔が分からない様に深いフードを被っている。


「……」


「私を倒せばアリシアは解放される。しかしそれが彼女のためになるのか!? 世界は彼女に決して優しくない」


「これまでは生き地獄であったのは認める。だが勇者として一歩を踏み出した今、アリシアの世界は変わる!」


 ダアガスは自信を持って断言する。ロギはダアガスほど楽観視していない。


「世迷い事だ」


「そんな事は無い! アリシアは正しき勇者の道を進む! それを阻む貴様をここで倒してくれる!!」


 レイオスが一歩前に踏み出す。


(勇者の勘でこれ以上の会話は危険と悟ったか?)


 ロギは勇者の出鱈目な力に舌を巻く。あのまま会話していればダアガスは無理でも三人組の戦意を削れる算段だった。こうなっては下手に会話を続けたらレイオスを激昂させるだけで逆効果だ。


 それが分かっているのかクラウンガーディアンが一歩前に出る。ロギが用意出来る最高レベルの強化のみならず、宝物庫に眠っている神話級の防具で身を固めている。そして武器として聖剣を与えている。ロギは『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』にあった装備条件を無視出来る恩恵を最大限に悪用し、クラウンガーディアンを対勇者の決戦兵器に作り替えた。対勇者に特化し過ぎて他の相手には返って弱体化している。ロギの瞼にはクラウンガーディアンがダアガスまたはベルフラウと戦えば負ける様がありありと浮かぶ。


「ベルフラウ! まだ遅くは無い!! 俺と一緒に戦え!」


「お断りよ! お父様の命令を遂行するために役に立ったのは感謝するけど、魔城に睨まれちゃったじゃない!」


 ベルフラウがクスクスと笑いながら床から数センチの高さを浮遊する。


「レイオス、ベルフラウは任せろ!」


「頼む!」


 ダアガスはベルフラウが敵になると確信していた。そしてレイオスは彼女と戦う事を躊躇するだろうとまで見抜いた。故にベルフラウが敵として出てくればダアガスが担当する事になった。


「おお音に聞く勇者と戦えるとは感激の余り、仲間の方を狙ってしまいそうだ!」


 ルジャールは戦士の顔と道化の顔を使い分け勇者パーティーを幻惑する。彼が投げた毒付きのダガーを狩人が撃ち落とし、魔法使いがファイアボールを放つ。しかしその一発はルジャールに当たらず、彼が盾にした玉座の間に配置されているストーンゴーレムに当たる。魔法に強いストーンゴーレムでも大きなダメージを負うも、それはロギがマナを使い瞬時に回復させる。


「強い!」


 レイオスが呟く。


「魔城は最強だ」


 ロギが言い放つ。


 勇者レイオスと魔城ロギ・アルスヴァータの戦いがヒートアップする。

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