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021 勇者レイオスの旅立ち

「遅参、誠に申し訳なく……」


 ロギの前で膝を折ったベルフラウが参陣の挨拶をする。彼女はレイオスがホープエンドで捕虜になったパーティーメンバーの返還交渉をしている中でいち早く離脱し魔城へ到着した。レイオス一人を置いて行くのは薄情に見える。それ以上に勇者の仲間にダンピールがいる事が露見する方が面倒だ。ベルフラウはダアガスに正体がバレており、両城塞都市の兵士にまで羽を広げた姿を見た目撃者がいると言う理由でレイオスの元を辞した。


 ベルフラウは内心で遅参の事を気にしており、両城塞都市の戦いに巻き込まれた事に憤っていた。父の命令で仕える相手が誰かは挨拶するまで知らなかったが、父が選ぶ程の相手ならホープエンドには何かしらの手が伸びていると考えた。ベルフラウが勇者レイオスをフェリヌーン隷国に連れて来なければこの国を落とせていたと知って生きた心地がしなくなった。


「遠路はるばる良く来た。歓迎しよう」


 ロギは感情が漏れないように言う。ロギの発言を聞いてベルフラウが更に委縮する。


(どうすれば良いんだ? アサンディオスが送った子だから実力は確かだ。ダアガスとの戦いを見てそれは間違いない。しかし勇者レイオスの元パーティーメンバーだ。私より勇者を選ぶ可能性は否定できない)


「ロギ様! 私がレイオスの首を取って来ます!」


 ベルフラウが汚名返上を期して宣言する。


「ならん」


「……!?」


「レイオスは強い。勝ち目はあるか?」


「まだパーティーメンバーだと思っているはず。油断した所を……」


 ベルフラウはレイオスをベッドに招いて、そこで止めを刺す事を検討する。


「無理だ」


 ロギは勇者をそんな方法では殺せないと知っている。殺す一歩手前に行っても必ず邪魔が入る。オリールが何処までレイオスを追い込んだのかは分からない。しかし突然の援軍が現れた事から良い線で攻めていたと結論付ける。勇者を殺すには「世界が味方する状況」を無効化しないといけない。アザンディオスの様に世界より強いのなら気にせず勇者を粉砕できる。ロギは魔城がそこまで強くないのを知っている。それでも魔城の中に勇者を誘き入れたら純粋な実力勝負に持ち込めると確信している。


「そんな事は!」


「勇者はここで迎え撃つ。これは決定事項だ」


 ロギはアザンディオスの送った将を無駄死にさせたくないために言う。しかし項垂れるベルフラウを見て通じていないのではないかと懸念する。


「は、はい……」


 ベルフラウに取ってロギに信用されていない事は余り堪えない。しかし父の期待に背いた事は生きたまま食い殺されるより遥かにショックが大きい。


「勇者が来るまでしばしある。その間にベルフラウを強化出来るが、どうする?」


「強化ですか?」


「ルジャールを見たであろう? 数か月前には普通のシャドーエルフだった」


 ロギはベルフラウの好感触を得て正しい選択をしたとほくそ笑む。魔城の配下は強さへの強い渇望がある。ベルフラウがロギに忠誠を誓った時点でベルフラウもまた同じ渇望を抱くと信じて話を振った。ルジャールと言う実例を出した事でベルフラウの心は確実に掴んだと確信する。


「そこまで!?」


 ベルフラウは驚く。ルジャールと他のシャドーエルフには天と地ほどの差がある。ベルフラウは自身がそこまで強化されれば、レイオスに勝てるかもしれないと夢想する。口に出していればロギが容赦なく駄目だししていた。勇者より強いだけで勇者に勝てるのなら、勇者は脅威足り得ない。


『ロギよ、娘がやっと到着したみたいだな』


 突然ロギの頭の中にアザンディオスの声が響く。


『娘なら期待出来よう』


 ロギは内心の不安を隠して答える。


『勇者を引き連れて来た愚か者だ。余が手で八つ裂きにしてやろう』


『待て。勇者との戦いで働きを見てからでも遅くはない』


『あれは一撃で死ぬぞ』


 アザンディオスはベルフラウが聞けば憤死しそうな事をさらりと言う。


『このままならそうだ。だが強化を施せば多少は持つ』


『余が出た方が早い』


『勇者レイオスはアザンディオスがでるほどの相手か?』


『……』


『アザンディオスが動くのなら助かる。だがあの程度の勇者すら倒せないで魔城を名乗れるものか!』


 ロギはアザンディオスに全部任せたい。だがそうしたら最後。ロギとアザンディオスの関係が壊れる。ロギはアザンディオスの友であり続けるために理想の魔城であり続ける。それはアザンディオスだけでなく、他の魔将との関係を維持するためでもある。


『ククク、良かろう。それでこそ余の友だ。レイオスとの戦いは高みの見物をさせて貰う』


『安心して観戦せよ。アザンディオスほど綺麗には行かぬが、必ず勝つ』


 ロギは心にもない事を言う。


『だが娘は余の責任だ。強化に必要となる素材は提供する』


 アザンディオスが手助けせずに助け船を出す。ベルフラウだけならアザンディオスがテコ入れをしても友の覚悟を無駄にした事にはならない。


『ベルフラウが喜ぶだろう』


 ロギは快諾し、アザンディオスとの会話を終える。


「ロギ様?」


 ベルフラウが突然押し黙ったロギを心配して声を掛ける。


「案ずるな。アザンディオスが『娘をよろしく』と言って来ただけだ」


「父上が!?」


「魔城の将となった事を祝して手頭からベルフラウの強化素材を揃えるそうだ」


「!?!?」


 もはや喜びで声にならない悲鳴が玉座の間に木霊する。


「素材が揃えば呼ぶ。それまでは城の部屋で休むと良かろう」


 ロギはベルフラウがこれ以上馬脚を露す前に謁見を打ち切る。


(有能そうなクールビューティーに見えたが、初見は余り当てにならないか)


 ロギはベルフラウの正体がファザコンが高じてアザンディオスに反乱までした駄目娘だと気付かず彼女を配下に加える。アザンディオスがロギと共にある限り、ベルフラウがレイオスを選ぶ未来はない。ロギはこれを聞いていれば少し安心出来ただろうが、逆にベルフラウの駄目さに頭を抱えていたかもしれない。


***


 レイオスは東の狂獣を討つためにホープエンドで数日掛けて休養と買い出しをし、パーティー単位では最善と思える準備を終えていた。ホープエンドからアリシアか他の援軍が出れば盤石に思えたが、ホープエンドの現状では残り少ない物資の支援が関の山だった。そしてホープエンドを発って一日の距離で背後から迫る強い気配に歩みを止める。


「どうしたのレイオス様?」


 数日の虜囚生活で少し痩せたエミリーが問う。三人はレイオスの反対を押し切って帯同している。ホープエンドで囚われた事は末代までの恥だと考え、恥を少しでも雪ごうと躍起になっている。それぞれの実家に話が行っていないのがせめてもの救いだ。実家が彼女たちの体たらくを聞けば即日に帰還命令が出ても不思議ではない。そこでレイオスが彼女らを守る気概を見せるか自信が持てない。


「誰か来る」


 レイオスはそれだけ言うと三人を守る様に立つ。


「待て、戦いに来たのではない」


 しばらくすると両腕が揃っているダアガスがレイオスの前に姿を現す。ダアガスの右腕はエミリーの治療魔法で修復されていた。アリシアのために認めた紹介状だけでは安すぎると三人が抗議した結果、ダアガスの腕を治せば身代金と釣りあいが取れると試算された。マイケラスは自身の治療を政治的な理由で断っていた。ベルが魔法で豊乳になれないか希望して全員に心底呆れられていた。


「ダアガスか。アリシアの傍に居なくて良いのか?」


「アリシアが学園に行けば良い師と共に巡り合えるだろう」


「なら何をしに来た?」


「私を狂獣討伐に参加させて欲しい」


 ダアガスが頭を下げて頼み込む。エミリー達三人は露骨に嫌そうな顔をする。


「歓迎する」


 レイオスは純粋に戦力としてダアガスを歓迎する。


「ちょ、ちょっと! 確かにベルフラウが抜けた穴に前衛は必要ですけど、どうしてこのドラゴニアンを仲間にするんですか!? そもそも何が目的か分からないじゃないですか!」


 エミリーが捲し立てる。


「目的は一つだ」


「一つ?」


 エミリーはダアガスに目的があると知り驚く。これまでレイオスを利用しようと近づく者は多かったが、最初から理由があると認める者は少なかった。


「私はアリシアを救いたい」


「アリシアを? 彼女になにか問題があるのか?」


 レイオスが驚いて問う。


「レイオスは東の狂獣の事をどれだけ知っている?」


「正体不明でグールとストーンゴーレムを従える程度だ」


「その考えで進めば全員死んでいた」


「「な!?」」


 エミリーたちが驚く。


「あれは狂獣なんて雑魚ではない」


「何だって!?」


「レイオスは魔城と言うのを聞いた事があるか?」


「勇者殺しの異名だな」


「その通り。東に待ち受けるはその魔城だ」


「「ええ!?」」


 エミリー達がハモる。


「魔城には人間を超える知能がある。多くの配下を手足の如く使う」


「だとすると私が倒したエルフ達は……」


「魔城がフェリヌーン隷国を支配するために動かした兵力だ」


「ちょ、ちょっと待ちなさい! なんでそんなに詳しいの!?」


 エミリーが違和感を覚える。


「アリシアが魔城に直接確認したからだ」


「「アリシアが!?」」


 これにはレイオスまでが驚く。


「アリシアは魔城に命を救われている。彼女は魔城に忠誠を誓い、グラースエヴァン王国貴族に誘拐された弟の足取りを追っている。私が彼女を学園に送るのは魔城から遠ざける以上に、彼女の弟がそこにいる可能性が高いからだ」


 ダアガスの語る驚愕の真実にレイオス達が押し黙る。


「アリシアはホープエンドを魔城の命令で守っていたの!?」


「それは違う! アリシアは魔城と戦ってまでホープエンドを守った。私もそれを聞いた時は肝が冷えた」


「魔城に何をされようとも、勇者の心までは支配出来ない」


 レイオスが格好良い台詞を言う。


「その通りだ。だがアリシアは魔城と戦う事は出来ない。それでは永遠に魔城に首根っこを押さえられたままだ」


「そうか。なら改めてよろしく、ダアガス。魔城を討ち滅ぼしアリシアを解放しよう」


 今度は笑みを持ってレイオスがダアガスと握手をする。


「あの、アリシアが敵となるのでは?」


 エミリーが小声で聞く。


「その懸念は分かる。なので魔城に直接聞いてみた。そうしたら魔城は『勇者を屠るのは魔城の役目だ。勇者の出る幕は無い』と答えた」


「勇者同士を戦わせたら、次の瞬間に勇者二人が敵になっているのを恐れただけだ」


 レイオスが決めつける。そしてロギはレイオスの言った通りの事を恐れている。『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』の強制力がどれだけあるか未だ分からない。勇者同士が共鳴して魔城を討つために共闘する可能性はアリシアを遠ざけるのに十分すぎる理由だった。


「それを聞いて安心です! 後はこのままその魔城を倒すだけですね!」


 エミリーが締めくくる。


 こうしてレイオスはダアガスをパーティーに加えて、恐るべき魔城を討たんと東へ旅立つ。

4章はこれで終わりです。


5章は1月1日から開始予定です。


レイオス、そしてフェリヌーン隷国との決戦です。


応援よろしくお願いします。


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