七色の力
「楽しいなあ! 兄弟!」
ダウラは狂気と歓喜の入り混じった歪んだ笑顔を浮かべ、愛用の槍を凄まじい速度で振り回した。突風のごとき連続の突きが、レトルの肉体を容赦なく襲う。
「ふっ……。だな! お前と敵同士じゃなければ、もっと良かったけど……なっ!」
レトルは鋭い牙を覗かせて不敵に笑うと、神速の槍捌きでダウラのすべての攻撃を最小限の動きで受け流した。
互いの実力は、まさに完全なる互角。一瞬の油断が生死を分ける緊密な攻防の中で、二人の槍は火花を散らし続ける。
「あれから、随分と死に物狂いで修行し直したんだぜ?」
ダウラがさらに槍の速度を上げ、空間を切り裂く。
「そうか? その割には……ちょっと攻撃が軽いんじゃないか!?」
レトルも負けじと、ダウラの懐へ槍を鋭く突き返す。
「ひっさしぶりの兄弟との再会なんだ。これくらい楽しまなきゃ損だろ?」
「それもそうだな! ……だけどよ」
レトルはそう応じながら、チラリと視線を別の戦場へと向けた。
遠くでは、太一がガイを破り、ドラコがジリアンと相打ちになり、アリスがアウラとロウラを止めて限界を迎えている。皆がすべてを懸けて戦いを終わらせていっているのだ。
「俺は、早くお前を倒さなきゃいけねえんだよ!」
レトルが吼え、勢いよく槍を大きく一閃した。
「っ!!」
ダウラがそれを自身の槍の柄で強引に受け止める。金属同士の激しい激突音が響き渡った。
「へっ! 俺だって、早くお前を倒さなきゃいけねえんだった!」
ダウラはニヤッと不敵に笑うと、視線を遥か上空へと向けた。そこでは、この全面戦争の元凶たるキュレムと、アリスティアの王・奏多が、凄まじいオーラを放ちながら今まさに睨み合っている。
「よそ見してんなよ、ダウラ! 言っておくが……俺たちの王は、俺なんかより何倍も、何十倍も強いぞ。上の心配なんてしてる余裕があるのか!」
レトルが再び槍の猛嵐を繰り出す。
「ふん! じゃあ、余計に早くお前を倒さなきゃなあ!」
ダウラはレトルの放った猛烈な突きを受け流すと、その反動を利用して大きく後ろへと跳躍し、十分な間合いを取った。
そして、スッとそれまで構えていた槍を腰の位置へと下ろす。
直後、ダウラの持つ槍の穂先に、静かに、しかし圧倒的なマナの密度を持った『青白い光』が集束し始めた。
「なっ……! お前、それは『神力』……!」
レトルが驚愕に目を見開く。
「……ああ。レグドに向かう途中の戦いで、偶然この力を手に入れたんだ。最初は制御すらできなかったが、今じゃこのとおりだ」
ダウラは青白くギラギラと輝く槍を、確固たる殺意とともに構え直した。操られているとはいえ、その執念が、偶然得た神の力を戦士として自在に扱えるまでに昇華させていたのだ。
「――喰らいな、レトル! 『神槍グングニルだ!!」
「面白え……! 御託はいいから、死ぬ気でこいよ!!」
「はあっ!!」
ダウラが凄まじい爆音とともに地を蹴り、弾丸となってレトルの懐へ飛び込む。
ダウラが渾身の力で槍を突き出すと、その穂先に集められた青白い光が、まるで超高電圧の雷撃のように激しくフラッシュし、レトルの視界と肉体を焼き尽くさんと奔った。
ガッ!!!!
激しい衝撃波が周囲の地面を爆砕する中、レトルは自分の槍をクロスさせ、その必殺の神速の一撃を正面からガッチリと受け止めた。
「……お前だけが、死ぬ気で成長してると思うなよ……兄弟っ!」
レトルが奥歯を噛み締めながら低く呟く。その瞬間、槍を受け止めているレトルの肉体の奥底から、信じられないほどのマナが噴き出した。それは赤、青、緑、黄色……ありとあらゆる自然のマナが融和した、見たこともないまばゆい『七色のオーラ』だった。
「なっ……!? なんだそのマナは……!?」
ダウラが思わず驚愕の声をあげる。
「おらぁっ!!」
レトルが七色のオーラを爆発させ、正面からダウラの神槍を力任せに押し返した。
「うわっ!?」
あまりの圧倒的なマナの質量に押され、ダウラは後ろへと激しく吹っ飛ばされる。しかし、ダウラは空中でなんとか受け身をとり、地面を数メートル滑りながらも鮮やかに着地してみせた。
「……なんだよそれ。神力とは根本的に違う……ありえねえマナの輝きだぞ……」
ダウラが息を呑みながら尋ねる。
「これが、俺の新しい力だ!」
レトルは己を包む七色の光を見つめ、かつてアリスティアの塔の中の修行場で交わした、精霊王オウとの対話を思い出していた。
『レトルよ。お前には、奏多やアリスのような天性の「神力」は使えん』
修行場の中心で、精霊王オウが腕を組んで冷酷に言い放った。
『なっ……! じ、じゃあ! 俺はこれ以上、あいつらに追いつくくらい強くなるのは無理ってことかよ……!』
レトルが絶望に顔を歪める。しかし、オウは呆れたように小さく首を振った。
『早まるな、阿呆め。神力など使わずとも、この世界には神のマナ以外にも、豊潤な自然のマナがいくらでも存在しているではないか。それを「精霊」という媒介を介して人間が使用しているのが魔法だ。ならば……精霊を介さず、お前が「自力」でそれらのマナを直接、同時に使えるようになればどうなると思う?』
『どうなるって……。いつでも、どんな魔法でも使えるとか?』
『やはり阿呆だな……』
『ええーっ!?』
ショックを受けるレトルを無視し、オウは静かに自らの右手を差し出した。
『精霊を介さず、自分の強固な意思だけで世界のマナを直接操れれば、複数の異なるマナをその場で強制的に融合させ、まったく新たなマナを作り出すことだってできる。ほら、これを見ろ』
オウの手のひらの上に、パッと、右半分が「青」、左半分が「赤」で構成された、不気味に揺らめく球体が出現した。
『これは……?』
『これは今、我が水のマナと火のマナを即座に融合させて生み出したマナだ。ほら、触ってみろ』
『あ、ああ……』
レトルがおそるおそる、その不思議な球体に指先で触れてみる。
『熱っ! ……って、あれ? 冷たい!? なんだよこれ!』
『これが、反する2つのマナを完全に融合させるということだ。ある程度の実力がある魔法使いなら、2つの精霊を介して似たようなことはできるが……そのマナの「種類」がもっと増えたらどうだ? それができるのは、世界でも大賢者くらいであろうな』
オウはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
『レトルよ。お前には、この世界のありとあらゆる属性のマナを、お前の獣としての強靭な肉体の中で「何重にも融合」させて扱えるようにさせる。……死ぬほどの苦行だが、覚悟しろよ?』
過酷な修行の末、レトルはその「ありえない境地」に手を伸ばし、そして掴み取ったのだ。
レトルは七色のオーラを槍の穂先へと収束させていく。それは、世界のすべての属性が一つに混ざり合った、絶対の混沌の輝き。
「我がアリスティアの精霊王――オウから直接教わったこの極限の力で、お前を正気に戻して倒す、兄弟!!」
レトルが槍を真っ直ぐに突き付け、宣戦布告する。ダウラもまた、己の負けられない執念を青白い神槍へと込め、獰猛に笑い返した。
アリスティアで最も泥臭く、最もひたむきに強さを求めた獣人の戦士が、かつての義兄弟を超えるための最後の一撃へ向けて、いま大地を蹴る。




