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勇者たちのそばに偶然居合わせて異世界召喚されたら、無能はいらぬと島流しに。流刑地で覚醒した俺は島おこしで世界征服をする  作者: ほさ


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白銀の魔王

「はあ……はあ……! アウラさん……っ! 目を覚ましてください……!」

アリスは荒い息を吐きながら、必死の形相で叫んだ。衣服は破れ、アリスの白い肌にはいくつもの生々しい傷が刻まれている。

「目なら、とっくに覚めてるわよ? 私たちはね、キュレムちゃんにこの力の素晴らしさを教えてもらったの。現に……あんなに強かったアリスちゃんを、今こうして完璧に圧倒できているじゃない?」

アウラは空中を優雅に漂いながら、狂気を含んだうつろな笑みを浮かべた。

彼女が操る魔法は、以前アリスが知っていたものとは完全に別物へと変貌していた。本来なら高度な集中と時間を要するはずの「極級魔法」を、呪文の詠唱すらなく無詠唱で連発し、その全身からは周囲の草木を瞬時に腐食させるほどのドス黒い闇のマナが、果てしなく溢れ出ている。

「そんな不気味な力に、どうか呑まれないでください……!」

「素晴らしいでしょう? この杖を媒介にして、世界がひっくり返るほどの魔法が溢れ出してくるの……。『魔杖まじょうアスタロト』……これが、この子の名前よ」

アウラは、禍々しく黒く静脈のように変に伸びた不気味な杖に、愛おしそうに頬杖をついてウットリと呟いた。

「くっ……!」

アリスは問答無用とばかりに、残った力を振り絞ってアウラへと手を伸ばした。

彼女の指先から、眩い神力を極限まで凝縮した光の矢が、鋭い音を立ててアウラへ向かって一直線に一斉に飛んでいく。

パキィィィン!!!!

しかし、その光の矢はアウラに届く直前、金属質の硬質な音を立てて無残に弾き飛ばされた。

「――俺のことも、忘れてもらっちゃ困るな」

アリスとアウラの間に割り込み、巨大な盾斧じゅふを軽々と振り回して矢を弾いたのはロウラだった。

「ロウラさんも……! お願いです、正気に戻ってください!」

「俺たちは、最初から最高に正気だ」

ロウラは濁った赤い瞳をアリスに向け、感情を排した声で淡々と言い放つ。

「アリスちゃん。君がどれだけ神力を練ろうが、そのすべての攻撃は、この『魔盾斧まじゅふアスモデウス』が完全に防ぎ切る」

(神力すら、こうも容易く弾かれるなんて……。それに、ロウラさんの防御に構っていたら、上空からアウラさんの凶悪な魔法が降ってくる……。どうしたら……)

アリスの口から、弱気な言葉が小さく漏れる。

彼女は戦火に包まれる平原の向こう――押し寄せる魔物の軍勢を必死に食い止めている、アリスティアの住民たちの姿をチラリと視界に捉えた。エンシェントエルフのクルスが放つ魔法、ドワーフのボンドが振るう斧、獣人族のゲルドが駆け回り、鳥人族のナルとアルマが空から魔物を駆逐していく。皆が、自分たちの2人の魔王を信じて命懸けで戦っている。

アリスはフッと、小さく自嘲気味に微笑んだ。

(みんなが戦っているのに……私がまだ、諦めちゃダメだ……!)

アリスは痛む身体に鞭を打ち、地面を強く踏み締めて再び毅然と立ち上がった。

「あら? そのボロボロの身体で、まだやる気なの? 無駄な抵抗は痛いだけよ?」

アウラが呆れたように小首を傾げる。

「私だって……アリスティアの『魔王』なんです……! 大切なみんなのために、そして――アウラさん、ロウラさん! 操られているあなたたち二人を救い出すために、私は絶対に戦います!」

アリスは叫ぶと同時に、手にしていたレイピアに、自らの内にある全神力を再び激しく込め始めた。

それを見たアウラは、鼻で笑うように馬鹿にした口調で言い放つ。

「ふん、またその細い剣を使うの? 言ったでしょう、今の私たちにはそんな生温かい攻撃、掠りもしないわよ」

アリスは静かに目を閉じ、心の中で謝罪の言葉を呟いた。

(……ごめんなさい、ボンドさん。せっかく、私のために心を込めて打ってくれた大切なレイピアなのに……今日、壊してしまいます。でも……それくらい大きな代償を払わなきゃ、アウラさんたちを止めることはできない……!)

「はあああああ……っ!!!!」

アリスが自身の限界を遥かに超えた神力を、強引にレイピアへと注ぎ込んでいく。あまりのエネルギーの負荷に、レイピアの刀身が限界を訴えるように悲鳴をあげ始めた。

「――チッ、なんか様子がおかしい! アウラ、時間をかけるな、一気に止めにいくぞ!」

ロウラがその異変をいち早く察知し、アリスを目がけて突撃を開始する。

「そうね! ――はあっ!!」

アウラも空中でのんびり構えるのをやめ、不気味な魔杖アスタロトを天へと掲げた。

アウラが杖を構えた瞬間、周囲の空間から禍々しい闇の魔法が、巨大な暴風の渦のようになって一気に集束していく。

「アスタロト! アリスちゃんを、その肉体ごと綺麗に喰らい尽くしなさい!!」

アウラが叫ぶ。禍々しい闇の渦は急激に膨張し、やがて世界の終わりを告げるかのような、巨大な『黒き龍』の姿へと形作られていった。漆黒の龍は、天を震わせる雄叫びのような大爆音を上げながら、アリスに向かって猛スピードで突っ込んでいく。

同時に、走り込んでいたロウラも地を蹴り、叫んだ。

「咆えろ、――アスモデウス!!!!」

ロウラが手にする盾斧が、生き物のようにドクドクと脈打ち、赤黒く禍々しい『悪魔のかお』へとその姿をグロテスクに変形させていく。ロウラは激しい勢いのまま、その盾斧を地面へと力任せに深く突き立てた。

「はああっ!!!!」

ロウラが魂を削るような気合を込めると、突き立てられた盾斧の悪魔の口から闇の渦が激しく噴出し、瞬く間に大地を駆ける巨大な『黒き虎』の姿を形作った。

アウラが放った天を舞う黒き龍。

ロウラが放った大地を駆ける黒き虎。

二つの絶対的な闇の暴力が、完全に同時に、アリスの小さな身体へと容赦なく襲いかかった。

「――さっさと、目を覚ましてくださぁぁぁぁぁいッ!!!!」

アリスは一切退くことなく、自身の持つありったけの、文字通り全ての神力をレイピアに爆発させた。

その瞬間、白銀に光り輝いていたレイピアは、その物質としての形を超貌させ、アリスの背丈を遥かに超える「巨大な白銀の光のオーラでできた大剣」へと変異した。

アリスはその大剣を両手でギリリと握り締め、向かい来る龍と虎に向けて、全力の力で下段から斜め上へと一気に振り切った。

ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!

アウラとロウラが放った絶大なる闇の呪詛。そこに、アリスが命を懸けて放った白銀の絶対浄化の神力が、正面から激しく激突した。

二つの相反する極大の力がぶつかり合った瞬間、世界からすべての色が消え去ったかのような、目が眩むほどの純白の閃光が一帯を完全に包み込んだ。

「なぁっ……!?」

「ぐ、あああ……っ!!」

アリスの白銀の閃光は、襲いかかっていた闇の虎と龍を根元から一瞬にして跡形もなく一刀両断し、完全に消滅させた。そして、その衝撃波の直撃を受けた背後のアウラとロウラの身体は、木の葉のように激しく宙へと吹っ飛ばされた。

二人は地面へと激しく叩きつけられ、その衝撃で洗脳の呪縛が解けたかのように、そのまま静かに意識を失った。

……キィィィィン。

耳鳴りのような静寂が戻る。アリスは放った姿勢のまま、レイピアを天へと振り上げた形のまま、動けない。

「はあ……はあ……はあ……」

肩を激しく上下させ、肺を焼くような苦しさに耐えながら息をする。

パ……キ、キィィィン……。

静かな音が響き、アリスの手に握られていた、ボンドが打った渾身のレイピアが――限界を超えた神力に耐え切れず、数多の白銀の光の粒子となって、粉々に砕け散った。

「ありがとう、ボンドさん……。……もう、指一本、動かせません……」

アリスは消え入るような声でポツリと呟くと、緊張の糸が完全に切れ、その場に両膝をつくようにしてドサリと座り込んだ。もう戦うための力は、彼女の中には1滴も残っていなかった。

アリスは、キュレムが待つ遥か上空の戦場をそっと見上げる。その瞳には、自分のすべてを出し切った確かな満足感と、一人の男への絶対的な信頼が宿っていた。

「――奏多。……あとは、よろしくお願いします」

彼女の願いが戦場に溶けていく中、アリスティアの魔王としての気高き守護の戦いは、静かに幕を閉じたのだった。

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