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勇者たちのそばに偶然居合わせて異世界召喚されたら、無能はいらぬと島流しに。流刑地で覚醒した俺は島おこしで世界征服をする  作者: ほさ


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開戦

ゴオオオオッ、と激しい風を切る音が周囲に響き渡る。

ここは雲よりもさらに高い上空。澄み渡る青空の中を、巨大な翼を力強く羽ばたかせて、高速で突き進む影があった。

「うおぉぉぉぉぉぉ! 気持ちいいなぁぁぁ!」

特等席である首元で、太一が風に吹かれながら興奮した声をあげる。

「いや、ちょっと、怖い怖い!! 落ちるうううう!」

その隣で、萌が涙目でドラコの鱗にしがみつきながら悲鳴をあげていた。

「……あの2人はいつもあんな感じなのか?」

暴れる2人の様子を少し離れた背中の上で見ながら、奏多が呆れたように尋ねる。

「いやあ、ははは……。いつもあんな感じですね」

クラスのまとめ役である愛多は、苦笑いしながら答えるしかなかった。

「でも本当に気持ちいいですよ! ほら! 奏多もこっちにきて見てくださいよー!」

今度は、翼の近くでアリスが満面の笑みを浮かべ、身を乗り出して騒ぎ始める。

「……こっちも同じだったわ」

奏多は「はあ」と本日何度目か分からないため息をついた。

太一、萌、愛多という3人の勇者を新たに加えた奏多たちは、一刻も早くウォンドへ到着するため、竜化して巨大な竜の姿になったドラコの背に乗って空を駆けていた。

『おいお前ら、振り落とされんなよ!』

脳内に直接、ドラコのごつい声が響く。

「それにしても、異人って本当に不思議ですね……」

愛多がドラコの美しい鱗に触れながら、しみじみと呟いた。

「そうか? 俺はアリスティアでいつも異人に囲まれてたから、そんなこと改めて思わなかったな」

「アリスさんのそのお耳も、すごく可愛いなって思います」

「えっ? そうですかあ? えへへ、嬉しいです!」

愛多の褒め言葉に、アリスが長い耳を赤くして嬉しそうに照れる。

実は王都を出てすぐ、事情を聞いたアリスとドラコは、人間の姿に変異するのをやめて本来の姿に戻っていた。

「王都にいた頃は、異人はみんな『悪』だって教わってたからな……」

太一が少しきまずそうに呟く。

「やっぱ、実際に会って話してみないと何もわからないわよね」

萌も、しがみついていた手を少し緩めてドラコの背を見つめた。

「……魔神たちも、こういう良い奴らだったら良かったんだけどな」

奏多がポツリと、遠くを見つめながら呟く。その言葉に込められた重みに、アリスも愛多も、何も言えずに静かに俯いた。

その少し重くなった雰囲気を破るように、再びドラコの声が響く。

『おいおめえら! もう着くからしっかり掴まれよ!』

言うが早いか、ドラコは巨大な翼を畳み、地上へ向けて一気に急降下を始めた。

「ちょちょちょ! やばいって! 本当に怖い! 死ぬうううう!」

萌の絶叫が空に消える。

「さいっこうに気持ちいいぜ!」

太一が立ち上がらんばかりの勢いで笑う。

「ですね! さいっこうです!」

アリスも一緒になって風を楽しんでいた。

「あ、っ……!」

その猛烈なGと突風に、少しだけ体勢を崩してふらついた愛多。

「委員長! 振り落とされないようにな!」

すかさず奏多が力強く手を伸ばし、彼女の腕を掴んだ。

「っ……! はいっ!」

愛多は一瞬ドキッと胸を高鳴らせ、顔を赤くしながらも、その手をぎゅっと握り返した。

ドォォォォン!!

ものすごい突風と地響きを巻き起こしながら、ドラコが大地に着地した。

強風に目を細めながらドラコの背から降りた奏多は、周囲を見回す。

「相変わらず、ここはすごい森だな……」

「私、この瑞々しい空気好きです」

アリスが深呼吸をする。

「懐かしいな、ここに来るの」

太一が周囲の景色を見渡した。

「あれ? お前らもここに来たことあるのか?」

奏多が問いかけると、萌がまだ少し震える足を踏みしめながら答えた。

「レベル上げのために、王国の奴らにいろんな危険な場所に活かされたからね……」

『おい。お前ら少しは警戒しろよ。魔物の匂いがぷんぷんしやがる』

一瞬にして人間の姿へと戻ったドラコが、鼻を鳴らしながら厳しく言った。その言葉に、全員の表情が一瞬で真剣な戦士のそれへと切り替わる。

「あそこにユグドラシルが見える。急いで向かおう」

奏多が森の奥、天を突く大樹のシルエットを指差した。

その時だった。

ドドドドドドドドドドド……!!

地響きを伴う、もの凄まじい地鳴りのような足音が、静かな森の奥から響いてきた。

「なんだこれ……!? 数が尋常じゃねえぞ」

ドラコが地面に手を当てて眉をひそめる。

「何かの足音ですかね……魔物の大群?」

アリスが武器に手をかける。

「これって、まさか……」

愛多がハッと息を呑んだ。

「……冒険者たちだ!」

奏多の言葉を皮切りに、一行は気配を殺しながら、急いで足音のする方向へと森を駆け抜けた。

木々の隙間から少し進むと、遠くの方から何かが狂ったように騒ぎ立てる声が聞こえてきた。

『うおおおおおお! キュレム様!!!!』

『力を! もっと力をぉぉぉ!』

「冒険者たちが、何か叫んでるのか?」

奏多が身を隠しながら前方を凝視する。

「空井、あそこ!」

萌が緊迫した声で指を差した。その先には、皮膚に黒い血管を浮き上がらせ、明らかに様子のおかしい大量の冒険者たちが、我先にと津波のようにユグドラシルへ向かって進軍していた。

「いたな……」

奏多が刀の柄に手をかける。

「どうする? 止めるって言っても、あんな数……」

萌が不安そうに奏多を見る。

「あいつらを傷つけずに、かつ確実に止める方法か……」

奏多が思考を巡らせる。

「全員死なねえ程度に、片っ端から叩きのめして斬り伏せるか?」

太一が物騒な提案をする。

「何言ってんのよあんた! 第一、あんたにそんな細かい力加減の調整なんてできないでしょ!」

萌がすかさずツッコミを入れた。

「どうしましょう、このままじゃ世界樹に辿り着いてしまいます……」

アリスと愛多が焦りの表情を浮かべる中、一人の男がニヤリと笑って前に出た。

「けっ、俺が止めてやるよ」

ドラコだった。

「はあ? お前にそんな器用な真似ができるのか?」

奏多が疑わしそうな目を向ける。

「馬鹿にすんじゃねえよ。あいつら1匹残らず、その場に留めりゃいいんだろ? 見てな」

ドラコは言うと、凄まじい脚力で地を蹴り、一瞬にして暴走する冒険者たちの先頭へと回り込んだ。

しかし、洗脳された冒険者たちは、目の前に現れたドラコに目もくれず、一心不乱にユグドラシルを目指して突き進んでくる。

ドラコは先頭の集団から少し離れた位置でどっしりと身構えると、深く息を吸い込んだ。

「破ッ!!!!」

ドラコが鋭い咆哮をあげた。

その瞬間、彼の口から放たれた衝撃波が、目に見えるほどの歪んだ音波となってあたり一面に爆発的に広がった。

「しまっ……!」

後方にいたアリスがすぐさまその異常に気づき、奏多たちを覆うように瞬時に多重の魔力障壁を展開する。

キィィィィン……。

衝撃の直後、耳鳴りのような静寂が辺りを包み込んだ。

すると、あの大群だった冒険者たちが、糸の切れた人形のように、前から次々とその場にバタバタと倒れ込んでいった。竜人族の威圧を乗せた音響衝撃波による、強制的な気絶だった。

「ドラコ!」

奏多たちが急いで駆け寄る。

ドラコは満足そうに腕を組み、鼻を鳴らした。

「ふん。雑魚を傷つけずに気絶させるくらいなら、俺様にとっちゃわけないぜ」

「……さすがだな、助かった」

奏多が素直に感心する。

「でも、やるなら先に言ってくださいよ! 耳がキーンってしました!」

アリスがぷくーと頬を膨らませて怒る。

「ガハハ! 悪い悪い!」

ドラコが豪快に笑った。

その圧倒的な力の実力差を目の当たりにし、愛多は驚愕に目を見開いていた。

「なんて……すごい人たちなの……」

「よし。これで一旦、冒険者たちは止められたな。あとはどうやって洗脳を解くか……」

奏多が倒れた人々を見渡しながら呟いた、その時だった。

「なあに勝手なことしてるのかな、お兄さんたち」

上空から、鈴を転がすような、不気味に甘い少女の声が降り注いだ。

一行が一斉に上空を仰ぎ見る。

そこにいたのは、背中に禍々しい黒い羽を生やし、贅沢な黒いゴシック調のドレスを身に纏った小さな少女だった。宙に浮きながら、冷酷な瞳でこちらを見下ろしている。

「お前だな。こいつらに洗脳をかけていた魔神は」

奏多が刀を抜き、刃を向けた。

「初めまして。私は魔神将の一人、闇柱のミリア様の配下――キュレムだよ」

キュレムは空中でお辞儀をするようにスカートの裾をつまんでみせた。

「みーんないい子だったから、術をかけやすかったよ。でもさ……お兄さんたちは、全然いい子じゃないよ!」

キュレムが邪悪に目を細め、細い手を空へと掲げた。

その瞬間。

「う、あ……」

「あ、あああ……」

先ほどドラコの咆哮で気絶していたはずの冒険者たちが、骨を軋ませながら、次々と不自然な動きで起き上がり始めた。

「これ、やっちゃうとすぐ壊れちゃうから使いたくなかったけど……邪魔が入ったなら、しょうがないよねー?」

キュレムがくすくすと残酷に笑う。

起き上がった冒険者たちは、先ほどとは明らかに様子が違っていた。完全に生気を失い、フラフラと、まるで死人が蠢くかのようにゾンビのような足取りになっている。

「……お前、何をした!?」

奏多が怒りを込めて叫ぶ。

「洗脳の強度を、最大まで高めたの。もーうただのおもちゃになっちゃって、知能も何も残ってないけどね!」

キュレムが無邪気な笑顔の裏に、底知れない狂気を覗かせる。人間を壊れるまで使い潰すことに、一切の躊躇がない。

「じゃあ、やっちゃって! みんな〜!」

キュレムが楽しそうに手を叩いて命じた。

その瞬間、フラフラと蠢いていた大量の冒険者たちが、獣のような咆哮をあげながら、狂暴な勢いで奏多たちに向かって一斉に襲いかかってくるのだった。

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