村の秘密
「な、なんなのこの子達……。無限に湧き続けてくるじゃない……!」
萌が飛んでくる砂埃を杖で払いながら、絶望的な声を上げる。
「うらあっ! ――ちっ! 何体いやがるんだ!」
太一が大剣を一閃させ、三体の子供を同時に叩き斬る。しかし、斬られた子供たちは黒い霧となって消えたかと思うと、そのすぐ後ろの地面から何事もなかったように新しい子供が這い出てくる。
「はあ……はあ……。さすがに、これは……っ」
愛多は神力を練りすぎて限界が近いのか、ついにその場に膝をついてしまった。
「愛多! ――ちょっと広臣、何か考えはないの!?」
萌が悲鳴混じりに叫ぶと、広臣は黄金の刀を構え直しながら鋭い視線を集落へと向けた。
「こいつら、おそらく分身か何かだ! どこかに本体がいるはずだ!」
子供の姿をした魔神は、何体倒しても、文字通り無限に湧き出ては笑顔で襲いかかってくる。幸い、個々の力はかつて戦った魔神将ほどではない。しかし、それでも並の魔物とは一線を画す「魔神」の力だ。容赦なく押し寄せる物量に、四人の体力と精神力は確実にじわじわと削り取られていた。
『そろそろ疲れてきた? 僕たちはまだまだ元気だから、もっともっと遊ぼうよ!』
無邪気な笑顔のまま、おぞましい速度で爪を突き立ててくる子供たち。
「くっそがぁぁぁ!!」
太一が怒号とともにそれを迎え撃つ。
その頃、気配を完全に隠蔽した奏多たちは、少し離れた岩陰からその様子を冷ややかに見つめていた。
「どうしましょう、奏多さん……。あのままだと、あの人たち……」
アリスが心配そうに眉をひそめる。
「ああ、わかってる。だけど、あの魔神、まるで減る様子がないな」
奏多は顎に手を当てて呟いた。
「それに、今俺たちがあそこへ直接助けに行っても、甲斐のやつがなんて言うか分からないからな」
「やっぱり、あの村に何かあるよな」
レトルが槍を肩に担ぎながら集落を睨む。
「だな。よし、俺たちはそっちに向かおう。元を断つ」
奏多の合図で、三人は隠蔽を維持したまま、勇者たちを迂回して静かに村の中へと侵入した。
「……まるで人の気配がしないな」
レトルが周囲を警戒しながら呟く。
「だけど、これだけの数の家があるってことは、昔は誰かが住んでたってことですよね?」
アリスの言葉に、奏多も視線を走らせる。
「ああ。確かに生活感はある。魔神も人間と同じような生活をするのか?」
「いや、ここは太古の昔に存在した人間の村であるな」
「――っ!?」
突如、三人のすぐ後ろから重々しい声が響いた。
アリスとレトルがパッと武器を構えて振り返る。しかし、奏多だけは振り返りもせずに、ため息交じりに手を振った。
「ずいぶん久しぶりだな。オウ」
「ふん。我も忙しいのだ。それにだな、この大陸は我のような精霊には色々と厳しい。死んだマナしか満ちておらんからな」
姿を現したのは、奏多の契約精霊であるオウだった。
「じゃあ、なんで今わざわざ出てきてるんだ?」
奏多の問いに、オウは腕を組んでふんぞり返る。
「うむ、主らが心配でな。……と言っても、我はここでは本来の1万分の1くらいしか力を使えん。つまり、この場に顕現するだけで精一杯ということだ!」
「はあ……。それで『心配』ねぇ……」
威張る割には役に立たなそうなオウに、奏多は呆れたように肩をすくめた。
「バカにするでない! 主らにはここの秘密を伝えにきたのだ。ここはおそらく、レグドがまだカオスに支配されていない時代にあった古い人間の村だ」
「ここが?」
奏多が聞き返すと、オウは深く頷いた。
「カオスと共に封印されておったから、時間という概念すら止まっていたのであろうな。まあ、この村の過去はどうでも良いのだが、問題はこの下だ」
オウが短い人差し指で、地面をビシッと指さす。
「下?」
三人が一斉に地面を見た。
「いま勇者どもが戦っておる幼子の姿をした魔神。おそらく、それを作り出している『魔力装置』のようなものがこの地下にあるはずだ」
「なるほどな。そいつを破壊しなきゃ、いくら外で間引いても無限にあいつらが生まれるってわけか」
奏多の納得に、オウは言葉を続ける。
「うむ。おそらくあやつらは、ある一定の数までは無限に増える。そして死んでも、即座にその分が補充されるという仕組みであろうな」
「よし、わかった。じゃあその装置を三人で探そう。オウ、ありがとな」
「うむ、励めよ」
オウが満足そうに消え去る。
「わかった」
「急ぎましょう!」
レトルとアリスが頷く。奏多がチラリと遠くの広臣たちの方へ目をやると、相変わらず敵の数は減っていないが、勇者たちの動きが明らかに鈍くなってきていた。
三人は手分けして廃墟のような建物を探索し始める。
「しっかし……本当に生活感がまるでないな」
レトルがぼやく通り、砂を被った椅子やテーブルが無造作に転がっているだけだ。
「なにかおかしな魔力の気配もしませんし……本当にあるんでしょうか、地下への入り口なんて」
アリスが首を傾げる。
「どうしようもないぜ、こんなの。どこをどう探せば――」
レトルがやれやれと言いながら、退屈しのぎに手に持っていた槍の石突きを、なんとなく床の木板に突き刺した。
――その瞬間だった。
「ボコッ!」と鈍い音がして、槍を刺した床一面が唐突に崩落した。
「う、うわぁぁぁーー!?」
足場を失ったレトルが、そのまま真っ逆さまに下の闇へと落ちていく。
「あ、おい!」
奏多は一瞬アリスと顔を見合わせると、「行くぞ!」と言い、レトルの後を追うように穴へと飛び込んだ。アリスもそれに続いて飛び込み、三人はあっという間に地下の暗闇へと消えていった。
「はあ……はあ……。さすがに……キツイ……ッ」
太一は大剣を地面に深く突き刺し、それを支えにしてどうにか膝をついた。
「あたしも、もう無理……」
萌も荒い息を吐きながら、膝に手を置いて立ち止まる。
「二人とも! 動かないで、すぐに回復魔法をかけます!」
愛多がふらつく足取りで駆け寄り、二人に青白い癒やしの光を注ぎ込んだ。
愛多に回復を施されながら、太一は少し離れた場所で戦い続ける広臣の背中を見つめた。
「……広臣のやつ、いつ倒れてもおかしくないはずだ。なのに、なんであいつはまだあんなに動けるんだよ……」
太一の疑問に、愛多が悲しげに目を伏せる。
「甲斐くんは、責任感の塊みたいな人ですから……。自分がみんなを守らなきゃっていう思いだけで、動いているのかもしれません」
「だけど、これじゃあキリがないわよ……」
萌が顔をしかめる。愛多の回復があっても、押し寄せる魔神の勢いは一向に衰えない。
――だが、その時だった。
『――っ!?』
それまで凶暴に襲いかかってきていた無数の子供たちが、まるで見えない指揮者に操られたかのように、ピタッと一斉にその動きを止めた。
「は……?」
太一が呆気に取られた声を漏らす。
子供姿の魔神たちは、勇者たちには目もくれず、一斉に自分たちの背後にある村の方を凝視した。
『マザーが危ない』
『マザーが襲われている』
子供たちが口々に不気味な声を漏らし始めると、次の瞬間、四人を無視して一斉に村の方へと猛スピードで走り出した。地煙を上げながら、あれほどいた敵が潮が引くように去っていく。
「な、なんだあいつら……急に」
太一が呆然とする中、息を切らせた広臣が刀を下げて歩いてきた。
「よくわからないが……助かった、な」
「何が起きたんでしょうか……」
愛多が村の方を不安そうに見つめる。
「なんでもいいけどさ、少し休んでからじゃないと、とてもじゃないけど追いかけられないよ」
萌が地面に座り込みながら言うと、広臣も荒い息を整えながら静かに頷いた。
「……ああ。そうしよう。一度、呼吸を整える」
村で何かが起きている。勇者たちはまだ、自分たちを救った「影の存在」に気づいていなかった。




