空っぽの器、新たな問題を見つける
「チュンチュン」と鳥の鳴き声が聞こえる。
「うーん、太陽が眩しい……」
奏多が微睡んでいると、耳元でいきなり叫び声が響いた。
「奏多! 起きてくださいっ!」
「うおっと!」
飛び起きる奏多。そこには呆れた顔のアリスが立っていた。
「もう! いま何時だと思ってるんですか。いくらなんでもハメを外しすぎです!」
「今日くらいいいじゃないか。というか今何時なんだ?」
奏多が目をこすりながら聞くと、アリスは真剣な表情でまくしたてた。
「もう昼過ぎですよ! 早く起きてください、大事件が起きたんです!」
「え……事件……?」
準備を整え、フラフラとアリスについていく。案内されたのは、昨日まで賑やかに宴会をしていたエルフの広場だった。
だが、今の広場には昨日のような和やかな空気は微塵もない。各部族の代表が、険悪な雰囲気で睨み合っていた。
ドワーフのボンド、獣人のゲルド、鳥人のアルマ。そして昨日は老体ゆえに参加していなかったエンシェントエルフの長、オリヴィア・クルス。アリスのおばあちゃんの姉にあたる人物だ。
二人がテーブルに着くと、クルスが口を開いた。
「おお、アリスよ。奏多殿を連れてきたな。では、くだんの件について話を始めようではないか」
「くだんの件……?」
奏多が聞き返すと、アリスが深刻そうに説明した。
「はい。今日の朝、島の最北端で、海だった場所が『陸』になっているのが発見されたんです」
「最北端って言うと、確かドワーフの集落があるところだよな?」
奏多の問いに、ボンドが重々しく頷く。
「ええ、確かにあそこはわしらの集落がある場所。じゃが、そこの土地が広がり、今まで海じゃったところが地続きになっておったのですじゃ」
「ふーん、そんなことが。でもそれっていいことなんじゃないのか? 土地が増えたらやれることも増えるだろ。なんでそんな怖い顔してるんだ?」
「奏多殿、そんな簡単な話じゃないのじゃよ」
獣人のゲルドが唸る。続けてアルマが冷静に付け加えた。
「議題の対象は、その新しい土地が『どの部族のものか』って話なんですよ」
クルスが説明を継ぐ。
「この島は魔王の残滓によって作られ、人間から迫害された種族が集まっておる。助け合いはしても、部族ごとに特有の暮らし方があるのじゃ。鳥人は高い所、ドワーフは鉱山、獣人は広い丘、エルフは森……というふうにな。そして今、各部族ともに人数が増え、土地不足の問題に悩まされておるのじゃ」
「つまり、どの部族も領土を増やしたいんだな。でも、ドワーフの領地の隣なら、そのまま鉱山地帯になるんじゃないのか?」
「それがのう。この島は特殊な作りをしておって、住む者のマナを反映して形を変えるのじゃ」
クルスの言葉に、ボンドが肩を落とす。
「つまり、今はまだ未開拓の、何もない平地なのですじゃ」
「それで、わしらが話し合っても埒が明かん。ならば救世主である奏多殿に意見を求めよう、ということになったのじゃ」
ゲルドにそう言われ、奏多は寝起きの頭をフル回転させた。
しばらく考え込んだ後、奏多は四人の長を見据えて言った。
「……わかった。なら、今日一日考えさせてくれ。夜になったらここに再集合だ」
その言葉に、部族長たちは静かに、だが期待を込めて頷いた。
(せっかく平和になったと思ったら、今度は領土問題か……。でも、せっかくみんな石化から戻ったんだ。誰かが不満を持つような形にはしたくない。俺のスキルで、何かいい解決策が見つかればいいんだが……)




