剣聖の力
「いくぜえ!!」
上空で獰猛な笑みを浮かべ、ライガが構えを取る。その瞬間、彼の全身と周囲の空間にバチバチと激しい電流が走り始め、夜闇を青白く染め上げた。
それを見た広臣が即座に叫ぶ。
「太一!」
「わかってる!」
太一は不敵に笑い、巨大な大剣を豪快に振りかぶった。
「はあっ!」
ライガが気合の一喝とともに両手を突き出す。バチン!!!という鼓膜を震わせる爆音と同時に、禍々しい閃光が放たれた。直撃すればひとたびも残らぬほどの巨大な稲妻が、広臣たちを目がけて一直線に襲いかかる。
それに合わせ、太一は一切の躊躇なく大剣を真っ直ぐ振り下ろした。
ずっパアン!!!
凄まじい衝撃波が巻き起こり、太一の左右の地面が深く、鋭く抉り取られる。だが、太一自身は無傷のまま、迫る雷撃を真っ二つに割り裂いていた。
「どうした? こんなもんかよ」
大剣を構えたまま、太一が挑発するように言い放つ。
上空では、それを見たライドウが腹を抱えて大爆笑していた。
「お、おい! お前の攻撃も斬られてんじゃねえかよ!」
「チッ! うるせえ!!」
ライガは顔を真っ赤にしてライドウに怒鳴り散らす。だが、すぐにその視線を広臣たちへと戻すと、狂気じみた笑みを浮かべた。
「……だが、面白えじゃねえか……!」
「いつまで余裕ぶってるんだ」
不意に、ライガたちの背後から冷徹な声が響いた。
「なっ!?」
瞬時に声のした方向へ構え直すライガとライドウ。しかし、そこにはいつの間にか背後を取っていた広臣が、冷たい瞳で剣を振り下ろすところだった。
「カミノツルギ」
広臣が静かに呟く。スッと、不気味なほど音もなくライドウの身体が切り裂かれた。
「なっ……に……」
ライドウは防御の体勢を取ったまま、言葉を失い、そのまま身体が真っ二つに分かれていく。広臣はそのまま音もなく地面へと着地した。その一瞬の隙に、ライガは戦慄しながら瞬時にバックステップを踏んで大きく距離を取る。
「よし! あと1人!」
下で見守っていた萌が、形勢逆転とばかりに嬉しそうにガッツポーズを作った。
「いや、まだだよ!」
愛多が鋭い声を上げる。
見上げれば、ライドウが斬られたはずの空中で、バチバチと再び激しい電気が走り始めていた。その火花は徐々に光を増して大きくなり、やがて肉体を形作っていく。衣服までもが元通りになり、そこには何事もなかったかのように浮遊するライドウの姿があった。
「びっくりしたー。バリバリ神力使ってるじゃん、怖っ」
ライドウは首をすくめながら、わざとらしく肩をすくめる。
「てめえ、隙を見せすぎだぞ」
ライガが苦々しく吐き捨てると、ライドウは「あ? たまたま俺に来ただけだろうが」と言い返した。
「な、なんなのよあいつら……」
信じられない再生能力を前に、萌が戦慄して一歩引き下がる。
「あの人たちは、雷の化身なのかも……」
愛多の言葉に、太一が首を傾げた。
「化身? なんだそりゃ」
「おそらく、雷のマナから生まれた魔物なんだろう」
広臣の冷静な分析に、上空のライガが「おお!」と大げさに感心したように手を叩いた。
「よくわかってんじゃねえか! だからよ、普通に斬られてるだけじゃ死なねえんだわ、俺たち」
「それが、たとえ神力であってもな」
ライドウも不敵に笑う。
「そんなの、無敵じゃない……」
絶望を口にする萌に、ライドウは嬉しそうに胸を張った。
「そういうこと」
「そうか。だがな、俺に斬れねえものはないんだぜ?」
太一がニカッと笑い、大剣の重みを確かめるように肩を回す。
「へえ。じゃあ、やってみるかあ?」
ライドウは挑発に乗るように、ゆっくりと地面へと降りてきた。
「あっ! てめえ!」
勝手に行動する部下にライガが怒声を上げるが、ライドウはそれを完全に無視した。上空のライガを見上げながら片手を振る。
「お前はそこで見てろよ。俺がやるわ」
そして、太一に向き直ると、両手を軽く広げて無防備な姿勢を取った。
「ほら? 斬ってみろよ」
「舐められたもんだぜ。まあいいや、じゃあ逃げんなよ?」
太一の目が獰猛に細まる。一歩、また一歩とライドウに向かって近づいていく。
「ちょっと、太一!」
「危ないわよ!」
愛多と萌が思わず制止の声を上げたが、広臣がそれを手で制した。
「見守るんだ。太一なら大丈夫だ」
太一はライドウの目の前でピタリと足を止めると、大剣を上段へと力強く振りかぶった。
「俺の進化した『剣聖』のスキルを見せてやる……。次元斬り!!」
その瞬間、太一の持つ大剣が、光を吸い込むような禍々しい黒い光を放ち始めた。
それを見た瞬間、上空のライガと目の前のライドウの目が見開かれる。ただの斬撃ではない。空間そのものを変質させる異質な気配に、ライガが喉が張り裂けんばかりの大声で叫んだ。
「ライドウ! 逃げろ!!」
だが、一歩遅かった。
シュパッ。
心地よい風切り音と共に、黒く光る大剣が空間ごと一気に振り切られた。
ライドウは何の悲鳴を上げることもできず、その場で綺麗に二つに分断された。今度は雷の火花が散ることもない。断面からはマナの霧散すら許されず、ただ肉体が崩壊していく。
「あれ? 無敵じゃなかったっけ?」
太一は大剣を再び肩に担ぎ直し、地面に転がった敵を見下ろした。
辛うじてまだ消滅していない、上半身だけになったライドウが、信じられないものを見る目で太一を激しく睨みつける。
「時空ごと……斬るとか……ずるくね……?」
その言葉を最後に、ライドウの身体は完全に塵となって消え去った。
「ようし。あと1匹だな」
太一は不敵に笑い、ゆっくりと上空のライガを見上げる。
その圧倒的な強さを後ろで見ていた萌は、唖然としながら小さく呟いた。
「あいつ……あんなに強かったっけ……?」




