固まる決意
アクエリア中央病院の一室。そこには、一命を取り留めたダウラを囲むように、奏多、アリス、レトルの3人と、アウラ、ロウラが顔を揃えていた。
「改めてお礼を言うわ。本当にありがとう」
アウラが深く、深く頭を下げる。
「いやいや、アウラが回復魔法をかけ続けてなかったら、2人とも本当にやばかったんだろ。アウラのおかげだよ」
奏多が照れ隠しのように笑って返すと、すっかり普段の調子を取り戻したロウラも「どちらも本当にありがとうな」と白い歯を見せた。
「それで、早速だけど本題に入るわね」
アウラの表情が急に引き締まる。
「私たちが新大陸レグドに向かうための船に乗っていたことは、知っているわね。……あの惨状は、レグドで起きたことじゃないわ。私たちは、まだ大陸に着いてすらいない」
「なんだって?」
レトルが耳を疑う。アウラは震える声で続けた。
「港を出て5日ほど経ったころ……船の上空に、いきなり現れたの」
アウラの手が小刻みに震えだす。それを見たダウラが「アウラ……俺が言うよ」と引き取った。
「あいつは『魔神』と名乗ってた」
「魔神……だと!?」
奏多の眉間に皺が寄る。ダウラは、船上で起きた絶望的な戦いの一部始終を語った。自分を遥かに凌駕する圧倒的な力、そしてジリアンの奮闘。
「そのあと、生き残った数人でどうにか船を動かして引き返してきたんだ」
「魔神……復活か」
奏多が低く呟く。するとレトルがふと思い出したように首を傾げた。
「あれ? そういえばジリアンのやつは病院にいたか?」
「ダウラたちの戦いが終わって甲板に行った時には、もう姿はなかったわ」
アウラが首を振ると、ダウラが鼻を鳴らした。
「あいつならどっかで図太く生きてんだろ」
(奏多……)
不意にアリスから念話が飛ぶ。
(ああ。ジリアンとダウラのことだろ。おそらく、ジリアンはなんらかのスキルで「神力」を使っていた。ダウラが最後の一撃を放てたのは、運良くその残滓を自分の力に上乗せできたからだろうな)
(前に見た時から普通ではないと思っていましたが、まさか神力を使えるなんて……。それにカオスと共に復活した魔神。私と奏多以外では、到底太刀打ちできませんよ)
(そうだな……)
奏多は念話を切り、ベッドの上のダウラを見据えた。
「ダウラ、今回の旅はどうだった?」
「どうって……さすがにもう行かねえよ。俺ならともかく、アウラやロウラが死ぬところなんて二度と見たくねえ」
(意外だな。もっと食い下がるかと思ったけど……)
奏多が内心で驚いていると、アウラとロウラも口を揃えた。
「当分は戦いもお預けね」「俺たちの武器もボロボロに壊れちまったしな」
「そうか。よかった」
奏多は心底安堵したように息をついた。すると、ダウラが急に真面目なトーンで奏多を睨む。
「なあ、奏多。お前らも行くんじゃねえぞ。……流石に今回は、死ぬぞ」
「俺たちは最初から行く気ねえよ」
奏多は努めて明るく笑い飛ばした。
病院を出た3人は、潮風が吹き抜ける夜の港を歩いていた。
「魔神か……。アリス、どう思う?」
「1体ならまだしも、レグドにそんなのがあと何体いるか分かりませんからね」
「お前ら2人がそこまで言うなんて、よっぽどなんだな……」
レトルが戦慄していると、奏多が急に足を止めた。
「アリス、レトル」
「ん? どうした?」
レトルが不思議そうに振り返る。奏多は真剣な眼差しで二人を見つめた。
「お前ら2人は、当分アリスティアで過ごしてくれ。……俺は1人でレグドに行ってくる」
「はぁ? なんだって!?」
レトルが声を荒らげる中、アリスだけは落ち着いた様子で問いかけた。
「勇者たちのことですか?」
「ああ、あいつらが心配でな。……なに、様子を見に行くだけさ。これは俺のわがままだ。お前らを危険に巻き込むつもりはない」
その言葉を聞いた瞬間、アリスとレトルは顔を見合わせ、同時にもどかしそうな溜息をついた。
「……いいか? 俺たちはお前のパーティだ。お前が行くところなら、地獄の底までついていく。それが当たり前だろ」
レトルの言葉に、アリスも強く頷く。
「そうです。奏多が何を言っても、これだけは曲げませんから!」
二人の真っ直ぐな瞳。奏多は困ったように眉を下げ、めんどくさそうに頭を掻いた。だが、その口元には、隠しきれない喜びが滲んでいた。
「……わかったよ。ったく、お前らには敵わないな」
月明かりの下、3人の決意は静かに、しかし力強く固まった。




