絶望の帰還
港で冒険者たちや甲斐一行を見送ってから、数日の月日が流れていた。
「ヒュン」という転移特有の風を切るような音と共に、アクエリアのパーティハウスへ奏多たちが姿を現した。
「今日はちょっと遠くの依頼とかやりたいですね」
アリスの提案に、奏多も「だな。最近は近場ばっかりだったしな」と同意する。一方で、転移の感覚にいつまでも慣れないレトルは、「お前らよく平然としてられるな……。この転移、いつまで経っても慣れないよ俺は……」とげっそりとした表情で愚痴をこぼしていた。
ギルドへ向かう前に、「港で腹ごしらえしてスッキリしませんか?」と誘うアリスに対し、奏多とレトルは「いや、食いたいだけだろ」と息を合わせてツッコミを入れた。
パーティハウスを出た三人は、少し遠回りにはなるが港の方向へと歩を進めた。
しかし、港が遠くに見えてきたとき、アリスが足を止めた。
「なんですか? あの人だかり」
見れば、港にはボロボロになった巨大船が停泊しており、そこを囲むように大勢の群衆が集まっている。レトルはその船を眺めて、「あれ? なんか見たことある船だな」と首を傾げた。
だが、その船の正体に気づいた奏多が突然、猛烈な勢いで走り出した。
「え? ちょっと奏多!」
驚き追いかける二人が港に辿り着いたとき、奏多はただ、呆然と立ち尽くしていた。
「なんですか……これ……」
アリスが思わず呟く。港には、次々とボロボロの船から冒険者の亡き骸が運び出されていた。顔は青白く、死後数日は経過しているであろう遺体。その体は一様に、真ん中を横から鋭く切断されていた。
「レグドだ……。あの船、レグドに行く冒険者を乗せた船だ……」
奏多の言葉にアリスとレトルはハッとする。数日前に見たあの巨大船が、見るも無残な姿で帰還したのだ。
そんな中、レトルが鋭く鼻を鳴らした。
「兄弟……ダウラの匂いがする……!」
レトルは叫ぶなり、人だかりの中に飛び込んでいった。
「あ、おい!」と追いかける奏多。ギルド職員の制止を金のプレートで黙らせると、三人は船着場から甲板へと飛び乗った。
甲板は外観よりもさらに酷い有様だった。壁は破壊され、屋根のあった場所には大量の血痕が付着している。その惨状の奥に、見知った顔があった。
「兄弟!」
レトルが駆け寄った先でぐったりと倒れていたのは、ダウラだった。その隣には、いつもと違い髪もぐしゃぐしゃで、目元に深い隈を作ったアウラが座り込んでいた。
「レトル……? それに奏多とアリスちゃん……」
力無く呟くアウラ。
「何があったんだ!」
「わからない……私には何も……」とそのままバタッと倒れ込んでしまった。
「アウラ!? おい、大丈夫か!」
奏多が駆け寄ると、近くの医者が声をかけた。
「彼女は大丈夫だ。何日も寝ずに回復魔法をかけ続けた影響だろう。それより……」
「ダウラはどうなんだ!」というレトルの問いに、医者は頷いた。
「彼も無事だ。この女性がずっと魔法をかけていたからな。今はもっと重症の者たちを優先に運び出していたんだ」
「よかったよ兄弟……」と安堵するレトル。
ふと、奏多が医者の肩を掴んで尋ねた。
「ロウラ……こいつらの傍に大柄な男はいなかったか?」
医者の表情が強張る。「……その男は重症で先に運ばれていったよ」
「どこだ? そいつはどこに運ばれた!」
「アクエリア中央病院だ。患者は全員そこに運ばれているはずだ」
その返事を聞くやいなや、三人の姿はそこから消えていた。
アクエリア中央病院は、運び込まれた大量の患者やギルド職員でごった返していた。
「どこだレトル!」
「こっちだ!」
鼻を鳴らすレトルに先導され、病院の大きな大部屋へと辿り着く。部屋の奥のベッドへ真っ先に突き進むレトルの後ろで、アリスが「はぁっ……」と思わず声を失った。
ベッドに横たわるロウラは、体を半分に斬り裂かれそうなほど深い傷を負い、両手もぐちゃぐちゃに潰れていた。大量の管を通された彼は、その重傷とは裏腹に、穏やかな表情で目を閉じている。
「ロウラ!」
奏多の叫びに、アリスが冷静に診断する。「なんとか……生きてはいますね」
「ああ、微弱だがロウラのマナを感じる……」
「これって助かるのかよ……」
震える声で聞くレトルに対し、走り回っていた医者が近寄ってきた。
「君たちは彼の知り合いか。……残念だが、我々にはもうこれ以上の治療はできない。仲間の女性が回復魔法をかけ続けていたようだが、この深い傷までは癒せなかったようだ」
その宣告にレトルは絶望する。しかし、隣の奏多とアリスは諦めていなかった。
二人は目配せをすると、強く頷き、声を揃えて叫んだ。
「「神力操作!!」」
その瞬間、二人から発せられた青白く光るオーラが病室を包み込んだ。
あまりの眩しさにレトルが顔を背ける中、眠っていたロウラの体が宙に浮き上がり、柔らかな光に包まれていく。そしてゆっくりと、ベッドへと降りていった。
近くで見ていた医者は、あり得ない出来事に言葉を失い、そのまま尻餅をついた。
ロウラの傷は完全に塞がり、顔色も良くなっている。
「奇跡だ……女神様……」
医者の呟きを背に、アリスと奏多はバッと振り返り、病院中に響き渡る声で叫んだ。
「俺たちが全員を治す! 重症の者から順に言ってくれ!」
絶望に満ちた病院に、希望の灯がともった瞬間であった。
今日は忙しくて更新できなかった…。
てか章ごとに分けた方がいいかな。




