突然の再会
城内は、奏多の忌まわしい記憶よりもずっと広く感じられた。
高い天井、豪華絢爛な装飾、そして等間隔に配置され、微動だにせず立つ兵士たち。その威圧感にダウラが興奮を隠せずに声を上げる。
「おお! すげえなあ……本物のお城だぜ!」
「バカ! 静かにしてなさい!」
アウラに叱られ、ダウラは慌てて口を閉じる。そんなやり取りを横目に、アリスがこそっと奏多に囁いた。
「……覚えている人はいなさそうですね」
「だな。甲斐たちのマナも感じない。ひとまずは安心だ」
小声で返しつつ、奏多は周囲の気配を慎重に探る。
長い廊下を進み、階段を上った先。三階の奥まった場所に、ひときわ巨大で重厚な扉が現れた。
案内役のゴンゾが足を止める。
「ここが陛下の謁見の間でございます。一同、失礼のないようにお願いしますぞ」
その言葉に、自由奔放なダウラですら背筋を伸ばし、場に緊張が走った。
「ゴゴゴ……」と重い音を立てて開く扉。
中には、かつて奏多がこの世界に呼ばれた場所――広大なホールが広がっていた。
(ああ、ここだ……)
何も知らないまま召喚され、身に覚えのない罪で糾弾された場所。足を踏み入れた瞬間、奏多の拳に自然と力が入る。
その硬直に気づいたのはアリスだった。彼女は奏多の背中を、優しく、しかし力強くトンと押した。
奏多が驚いて振り返ると、アリスは「大丈夫です」と言うように微笑んでいた。その温かさに奏多は落ち着きを取り戻し、一歩前へ踏み出す。
ホールの最奥、高い階段の上に据えられた玉座には、アインシア王が座していた。
ゴンゾが階段の手前でバッと膝を突く。それに倣い、二つのパーティも一斉に跪いた。
「……まずは、ご苦労じゃったな」
しんと静まり返った室内に、王の低く重みのある声が響く。
「此度のサイクロプスロード討伐の詳細は、ガイから聞いておる。かなりの死闘であったようだが、こうして我の前に生きて帰ってきたこと、真に喜ばしい」
王が横目に合図を送ると、控えていた兵士たちが重厚な盆を持って現れた。
「これは此度の報酬じゃ。各パーティに現金で10億アイン」
10億。あまりの額の大きさに、ダウラとレトルがビクッと肩を揺らす。
「そして、お主たちが良ければ、この王都の貴族街に屋敷を構える権利を与えよう」
「ではまず、バーニングハートよ。報酬を受け取るのだ」
ゴンゾの指名に、ダウラの代わりにアウラが前へ出た。現金と屋敷の権利書を受け取り、深々と頭を下げる。
「次にアリスティだ」
奏多が静かに立ち上がり、前へ出る。
顔を上げた奏多を、アインシア王がじっと見つめた。
「……ん?」
王が僅かに目を細める。奏多は動揺を押し殺し、冷静に口を開いた。
「陛下、我らアリスティは現金のみを拝領したく存じます。屋敷の権利は不要です。我らの家は、アクエリアにあるからです」
「ほう。……まあ良い、それも一つの生き方じゃな。して、お主……どこかで見た顔だな?」
ついに来た。奏多の背中に冷たい汗が流れる。
「い、いえ。私はアクエリアの生まれでして、王都へ参ったのはこれが初めてです。陛下の思い違いではございませんか?」
「……うーむ、そうかのう? うむ……まあ良いか。では、これにて褒美の授与を終わりとする。各自、この街を存分に楽しんでいくが良い」
「はっ。ありがたき幸せ」
内心で激しく安堵しながら、奏多は仲間たちの元へ戻った。全員でもう一度深く一礼し、足早に謁見の間を後にする。
「いやー、緊張したなあ! つーか奏多、屋敷いらないのかよ?」
部屋を出るなり、ダウラがいつもの調子で喋り出す。
「俺たちはアクエリアが好きなんだよ。現金だけでも貰いすぎなくらいだ」
「もったいないわねぇ。でも、そういうところがあんたたちらしいわ」
アウラが笑うと、アリスが楽しげに続けた。
「じゃあアウラさん、今度お屋敷に遊びに行かせてくださいね!」
そんな会話をしながら長い廊下を歩いていると――。
「空井……くん……?」
唐突に名前を呼ばれ、奏多は思わずパッと振り返ってしまった。
そこに立っていたのは、白い聖母のようなローブを纏った少女。聖女・夢野愛多だった。
一瞬目が合う。だが、奏多はすぐに顔を伏せ、低く冷たい声で言った。
「……人違いだ」
「えっ? 知り合いか?」
呑気に聞き返すダウラを無視し、奏多は「行くぞ!」と仲間を急かして歩を速めた。
遠ざかる奏多の背中を見つめながら、愛多は胸に手を当て、消え入りそうな声で呟いた。
「……生きてたんだ。よかった……」
その瞳には、一筋の涙が浮かんでいた。




