任務の後
サイクロプスロード討伐の熱狂が冷めやらぬウォンドの町だったが、期待していた祝杯の酒盛り……とはいかなかった。
住民のほとんどが避難してしまい、町は静まり返っていたからだ。これでは観光もままならない。奏多たちは、早々に拠点であるアクエリアへ帰ることに決めた。
「残念だが、酒盛りはまた今度だな、兄弟……ッ!」
「ああ、約束だぞダウラ……ッ!」
なぜか男泣きしながらガッチリと肩を組み合うダウラとレトル。その様子を横目に、アウラが柔らかく笑う。
「少しの間だったけど、楽しかったわ。ありがとう」
「またなアリスティ。……アリスちゃん、元気でな」
ロウラも名残惜しそうに言葉をかける。
「こちらこそ、世話になったな」
「今度王都に行くことがあれば、もっとたくさんお話しましょうね」
奏多とアリスがそれぞれ挨拶を交わすと、バーニングハートの三兄妹は王都を目指して北へと歩み出した。奏多たちはその逞しい背中を見送ってから、アクエリアへの帰路についた。
帰りの荷馬車の中、激戦の疲れが出たのか、レトルは隣で爆睡している。
アリスは、窓の外に遠ざかっていく巨大な世界樹・ユグドラシルをじっと見つめていた。
「なんか気になるのか?」
奏多が声をかけると、アリスは少し不安げに眉を寄せた。
「なんだか、ずっと誰かに見られているような気がするんです……」
「ユグドラシルに? あの女神が作ったっていう装置にか」
「ええ。それに……あんな聖域のような場所で、なぜ魔神なんてものが生まれたのかも、少し気になります」
「魔神か……。そもそも魔物ってのは、なんで生まれるんだ?」
奏多の素朴な疑問に、アリスは記憶を辿るように答えた。
「おばあちゃんから聞いた話では、マナが集まって自然発生するとは言っていましたけど……」
「あいつは知能もあったし、ある意味オウみたいな存在なのか?」
「我と魔物を一緒にするな」
突如、横から聞き慣れた声が響いた。
「うおっ! いきなりだな!」
驚いて飛び上がる奏多。いつの間にか横に座っていたオウは、涼しい顔で腕を組んでいる。
「うむ。我もちょうど用事が終わったのでな。……魔物と精霊は全くの別物だぞ?」
「そうなのか?」
奏多が座り直すと、オウはアリスに向き直った。
「アリスよ、お主は魔法をどう扱っておる?」
「え? 周囲のマナを集めて、精霊様から力を借りて物質の変換を行う……みたいな感じでしょうか」
「まあ、合っておるな。では、その集めたマナは変換された後どうなると思う?」
「ええと……消えてなくなる、とか?」
オウは首を横に振った。
「違う。消えるわけではないのだ。マナというものは、姿形が変わっても必ず循環するようにできておる。その結果、澱みとして魔物を形作るマナも生まれるわけだ」
「そんな……。じゃあ、魔法を使わなければ魔物は生まれないんですか?」
「今のは例えだ。人が呼吸し、動く。何をするにも少量のマナは使う。だから魔物は必ず生まれるのだ。マナが濃い場所には、より強い魔物が生まれやすいというだけのことよ」
「それならアリスティアは? あそこもマナは濃いよな」
奏多の問いに、オウは少し誇らしげに鼻を鳴らした。
「あそこは我が循環に手を貸しておるからな。ロードクラスが生まれることはまずない。万が一生まれても、進化する前に排除される。危険はないぞ」
「なるほどな。……ん? 待てよ、スキルはマナを使わないだろ? あれは一体なんなんだ?」
「スキルは神の力に等しい。我ら精霊と同じ『理』のようなものだ。だから、何が起きても不思議ではない。神力もな」
オウは奏多の目をじっと見据えた。
「ゆえに主はこの世界の特異点なのだ。あのイリスにすら手が届く存在であろうな」
「……な、なんだよ。急にそんなこと言われると気恥ずかしいだろ」
照れくさそうに頭をかく奏多を見て、アリスがふふっと笑い声を上げた。
だが、オウの表情が急に険しくなった。
「それと……だ」
「ん? なんだ?」
「主のあの技はなんだ! スキル『超速再生』に『神力創造』だと!? 人間を辞める気か!」
「え? ええっ!?」
突然の怒声にビビりまくる奏多。
「アリスや我が神力を使うのは、内に眠る神のマナを使っておるからだ。だが主は、無尽蔵に神力を生み出しておったろう! そんな話は聞いたこともないわ! しかも、あの速度で肉体を治す? 理を無視しすぎだ!」
顔を真っ赤にして詰め寄るオウの気迫に、奏多は圧倒される。
「いくらスキルとはいえ、人間の肉体にどんな負担がかかるかわからんのだぞ!」
初めて見るオウの本気の剣幕に、奏多は深く反省した。
「……悪かった。あの技は、よっぽどのことがない限り封印するようにするよ」
「うむ。わかればよい」
オウはようやく満足そうに頷き、姿を消した。
こうして、激動の討伐劇を終えた一行は、夕闇に包まれるアクエリアの町へと帰還したのである。
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