規格外の力
「テンション上がるなあ!」
目の前の絶望的な巨躯を前に、ダウラは狂喜の叫びを上げた。
「ちょっと! 待ちなさいダウラ!」
何かに気づいたアウラが鋭く呼び止めるが、時すでに遅い。ダウラは地面を爆ぜさせ、弾丸のような速さで走り出していた。
「悪いな奏多! 俺が一番槍で風穴開けてやらあ!」
振り返りざまにそう言い放つと、ダウラは凄まじい跳躍を見せた。ぐんぐんと高度を上げ、ついにはサイクロプスロードの胸辺りにまで到達する。
「行くぜえデカブツ!」
空中で槍を猛然と回転させ始めるダウラ。その回転速度が上がるにつれ、槍先から真っ赤な炎が噴き出し始めた。
「え? なんだあれ、魔法か?」
驚く奏多に、隣のアウラがため息混じりに答える。
「あれはスキルなのよ。……まあ、ただの『火おこし』っていう生活スキルなんだけどね」
「あれが生活スキル!? そんなことあるのか……」
奏多は面を食らった。生活スキルを戦闘に転用し、巨大な火車の車輪のようになった槍は、もはや一つの災厄のようだ。
「くらえええ!」
ダウラは空中で大きく身をのけぞらせ、全身のバネを使ってその火車を投げ込んだ。
――ドォォォォン!!
凄まじい勢いで突き刺さった槍は、ロードの肉を焼き、円状に大きく抉り取った。あまりの衝撃に、サイクロプスロードの口が苦痛にひん曲がる。
「あれ? 貫けない?」
落下しながらダウラが眉をひそめた。
サイクロプスロードは無造作に胸の槍を引き抜くと、信じられないほどの腕力でダウラめがけて投げ返した。
「ダウラさん!」
アリスが悲鳴を上げる。直撃すれば間違いなく粉砕される――その瞬間、ダウラの前に巨大な影が割り込んだ。
――ガギィィィィン!!
鼓膜を震わせるような衝撃音。槍を盾斧で受け止めたのはロウラだった。
「ぐっ……!」
巨躯が放った一撃の勢いはロウラをしても殺しきれず、二人は砂煙を上げて後方へと吹き飛ばされた。
「ダウラ! ロウラ!」
全員が二人のもとへ駆け寄る。
「いててて……。助かったぜ、ロウラ」
「……一人で飛び出すな」
膝をつきながらも無事な様子に、レトルが胸をなでおろす。
「危なかったぜ。あの渾身の一撃でも貫けないなんてよ」
「おい、見ろ!」
奏多の鋭い声に、全員がサイクロプスロードを見上げる。
抉れていたはずの胸の肉が、ボコボコと不気味な音を立てて塞がっていく。瞬く間に、そこには傷一つない皮膚が再生していた。
「再生すんのかよくっそ!」
「カインの言ってたことは本当だったみたいね。あれじゃ太刀打ちできないよ」
アウラが顔をしかめる。アリスが奏多の隣に寄り、小声で耳打ちした。
「奏多さん、どうしますか? 神力を使いますか?」
「いや、ここじゃダメだ」
奏多は即座に否定した。神力は人間が扱う魔法とは根本的に違う。これだけのS級冒険者の前で披露するわけにはいかない。だが、普通の魔法では押し切れないのも事実。
奏多が思考を巡らせたその時、背後から地響きのような野太い声が響いた。
「どきな」
振り返ると、そこにはギガスのリーダー・ジリアンがのっそりと歩いてきていた。
彼は周囲の制止を無視してダウラのそばまで行くと、地面に突き刺さっていたダウラの槍をおもむろに拾い上げた。
「あ? お、おい! 何すんだ!」
「こりゃいいや」
ダウラの抗議を鼻で笑い、ジリアンは投擲の構えをとる。
「ちょっとあんた、何してんだ!」
奏多が止めようとした瞬間、ジリアンは「フンッ」と軽く、まるで小石でも投げるような動作で槍を放った。
スー……と空を滑るように飛んだ槍が、ロードの胸に触れる。
――トン。
軽い音がした次の瞬間、スパアァァァン!!と、サイクロプスロードの分厚い胸板に、向こう側が見えるほどの風穴が開いた。
「は……? はあぁ!?」
アリスティとバーニングハートの全員が絶句する。
『ウオオオオオオオオオ!!』
サイクロプスロードが、初めて震天動地の雄叫びを上げた。
「――驚くのは後だ! 畳み掛けるぞ!」
真っ先に正気に戻った奏多が指示を飛ばす。再生される前に終わらせる。アリスとレトルも即座に反応し、大地を蹴った。
奏多とレトルが左右に分かれ、巨大な腕を駆け上がる。
「うおおお!」
二人の斬撃と槍が交差し、サイクロプスロードの巨腕が根本から切り落とされた。
『ウオオオオオオオオオ!!!!』
悲鳴を上げ、膝をつく巨躯。そこへ、空中で輝く一筋の閃光。
「はぁっ!」
魔力を限界まで込めたレイピアを手に、アリスがロードの単眼を一閃した。
『うおおお……おお……おお……』
切断された両腕と潰された目から、滝のような血液が噴き出す。山のような巨体は、そのまま重力に従って仰向けに倒れ込み、大地を激しく揺らした。
「これが、女神アリスティ……か」
ダウラが呆然と呟く。
「それに、あのジリアンのやつ……底知れないね」
アウラが戦慄したようにジリアンの背中を見つめる。
「アリスさん……可憐だ……」
一人だけ違う方向で感動しているロウラの言葉と共に、戦場に一時の静寂が訪れた。




