波乱の顔合わせ
ギルドの重厚な扉を開けた瞬間、室内にいた全員の視線が突き刺さった。
「これ、前もあったな……」
奏多が既視感に苦笑いする。
「ええ。でも、今回は強そうな人ばかりですね」
「ここにいるのは、全員S級だもんな」
レトルが周囲の気配を探りながら身構える。広々としたフロアには、十数人の冒険者がいくつかのグループに分かれて立っていた。
「その青い髪……あんたらが噂の『女神アリスティ』だろ」
不意に、一組のパーティが近づいてきた。リーダーと思われる赤い髪の男が不敵な笑みを浮かべて話しかけてくる。
「ああ。あんたらは?」
「俺たちはS級パーティ『バーニングハート』だ。俺はリーダーのダウラ。よろしくな」
「私はダウラの姉でアウラ。よろしくね」
「俺はこいつらの兄、ロウラだ。よろしく」
三兄弟だという彼らは、S級特有の威圧感はあるものの、どこか親しみやすい空気を纏っていた。
「俺はアリスティの奏多。こっちはアリスとレトルだ」
「よろしく」「よろしくですっ」
二人が挨拶を返すと、ダウラはホッとしたように肩をすくめた。
「話せそうなパーティが来てくれて助かったぜ。他の奴らは『話しかけるな』ってオーラ全開だからな」
ダウラが目配せした先には、他に二組のパーティがいた。
「あそこにいる白い鎧の集団が『ロイヤルアインシア』。アインシア王国の近衛騎士団を兼ねているエリート共だ。もう一つが『ギガス』。あいつらは腕力だけで成り上がった無法者の集まりさ」
頼んでもいないのに、ダウラが丁寧に説明してくれる。
「あんた、アリスティの方々が困ってるじゃない」
「いや、助かるよ。ありがとう」
奏多が返すと、ダウラは「ほらな、姉ちゃんは心配しすぎだ」と笑い、そのやり取りにアリスも思わず微笑んだ。
「か、可憐だ……」
ロウラが呆然と呟くのを、アウラが「また女の子にそんなこと言って!」と拳で黙らせる。そんな和やかな光景を、ロイヤルアインシアのリーダー、カインが冷ややかに一瞥した。
「ふん。お前たちはここに遊びに来たのか?」
かけていた金縁眼鏡をクイと押し上げ、不快そうに鼻を鳴らす。
「あ? てめえ今なんつった?」
「やめな、ダウラ。あいつは王国最強の剣士と呼ばれている男だよ。あんたでも怪我じゃ済まない」
アウラが止めるが、奏多はその言葉に反応した。
(王国最強の剣士……。桐生(太一)のことじゃないのか?)
「全く、これだから冒険者は嫌いなんだ。我々のように国家を背負って依頼を受けている者を見習ってほしいな」
カインの尊大な態度にダウラが再びキレかけるが、そこで重厚な声が響き渡った。
「全員集まっているな」
階段を降りてきたのは、筋骨隆々の老人だった。白い髭と髪こそ長いが、肌の張りや立ち居振る舞いは働き盛りの男のそれだ。
「待たせてすまない。わしがアインシアのグランドギルドマスター、ガイだ」
その名を聞いた瞬間、フロアの空気が引き締まった。
「貴様らS級には、サイクロプスロードを討伐してもらいたい。奴はもうすぐそこまで迫っておる。ユグドラシルを抜け、王都へ向かうつもりだろう。体躯は100m超。足は遅いが、上級魔法ですら足止めにもならん。早く止めねば被害はアインシア全域に広がるだろう」
「100m……」
レトルが息を呑む。
「どれくらいですかね?」
「さあ、俺たちの塔くらいかな」
アリスと奏多の緊張感のない会話を耳ざとく拾ったカインが、ガイに進言した。
「グランドマスター! 此度の討伐、我々ロイヤルアインシアに指揮を任せていただけますか? 遊び半分の輩に足を引っ張られては堪りませんので。他のパーティには『お手伝い』でもさせておきますよ」
「ふむ。やる気は結構だが、彼らアリスティは三人でロード級を討伐した記録がある。他も実力者揃いじゃ。少し彼らを舐めすぎだな」
ガイの言葉にカインは顔を赤くするが、食い下がる。
「で、ですが! 指揮権だけでも!」
「……まあ、構わん。最後は全員で協力せねば勝てんじゃろうからな」
カインは勝ち誇ったようにアリスティを見下したが、アリスは表情を変えずにボソッと呟いた。
「……なんか、私あの人嫌いです」
「ぷっ! あはははは! 最高だよアリスちゃん、気が合うね!」
バーニングハートの面々が爆笑し、カインは再び「黙れ!」と喚き散らす。
「顔合わせはこれで終いだ。各自二時間後、最北端のギルド支部に集合せよ」
ガイが手を叩いて締めくくると、嵐のような顔合わせは幕を閉じた。
かくして、一癖も二癖もあるS級冒険者たちの、波乱の共同戦線が動き出そうとしていた。




