全面戦争開始
「魔王が人間だと? そんなわけねえだろ! 魔王はかつて異人達をまとめ上げた存在だって聞いてるぜ。だったら親玉も異人だろうが!」
太一が吐き捨てるように叫ぶ。
「そんなことはない。我らの王、奏多殿はお主らと同じ人間だ」
クルスの返答に、勇者三人の動きが止まった。
「奏多だって……!?」
驚愕の声が重なる。広臣が一歩前に出た。
「ちょ、ちょっと待ってください。その奏多って人は……『空井奏多』という名前ですか?」
「いかにも。お主らと同じく勇者として召喚され、無能と言われて島流しにあった奏多じゃ」
クルスの言葉に、萌が激しく取り乱す。
「そ、そんなわけないでしょ! 王様は空井が死んだって言ってたわよ!」
「やめろ萌! ……空井は生きていたのかもしれない。生きていたのなら、それは良かった。ただ……魔王というのは、奴らの嘘に違いない。どこかに幽閉されているのかも……」
広臣は自分に言い聞かせるように呟くと、鋭い視線を向けた。
「愛多に早く教えなきゃな。俺たちが道を開ければ、彼女も兵士とともに来るはずだ。行くぞ二人とも!」
「ああ、言われなくても、なっ!」
広臣の号令と同時に太一が斬りかかる。
「奏多殿の言った通りじゃな。我らの言葉など信用してくれん。……しょうがないのう。ちょいとこやつらにお灸を据えてやるかの」
残念そうに呟いたクルスが杖を掲げる。
「『魔力障壁』!」
背後のエルフたちが一斉に魔力を展開し、強固な盾を作り出した。
太一の大剣が叩きつけられるが、火花を散らして弾かれる。
「くっ! なら……『示現――切りぃ!』」
スキルを発動しようと振りかぶった瞬間、クルスが指先を向けた。
「遅い。風よ、縛れ」
太一の両腕が目に見えない暴風に囚われ、固定される。
「くあっ! な、なんだこれ……両手が動かねえ!」
「何でも斬るスキルなら、発動前にその腕を止めれば問題ないのう」
涼しい顔で言い放つクルスに、広臣が焦りを見せた。
「太一! ……萌、あの魔力障壁をどうにかできるか?」
「なんとかしてみるしかないでしょ! ユニークスキル、『超多重詠唱』!」
萌が杖を構え、高速で術式を編み上げていく。
「炎の精霊よ、我に従い力を渡せ――『フレイムフォトン・ボム』!!」
空中に無数の炎の球体が出現し、増殖していく。
「一人でこれほどの多重詠唱……あれが大賢者のユニークスキルか」
クルスが冷静に分析する中、萌が叫んだ。
「いっけぇーー!」
何百という炎の爆弾が同時に障壁へ着弾した。
轟音と共に巨大な土煙が舞い上がる。
「うおっし! 直撃! 終わったっしょ?」
萌が勝ち誇ったように笑うが、広臣だけは険しい表情を崩さない。
「……まだだ!」
土煙が晴れると、魔法師団は無傷のままそこに立っていた。
しかし、クルス以外のエルフたちが苦しげに膝をつく。
「くっ……さすがにあれほどの多重魔法はしんどいのう」
「うおっと!」
太一を縛っていた魔法が解け、彼は地面に着地した。
「へっ。よくもやってくれたな」
太一が剣を握り直し、詰め寄ろうとした時だった。背後から大量の足音が響く。
「勇者様ー!」
アインシアの船から降りてきた大量の兵士たちが、爆発を合図になだれ込んできたのだ。
「ああ、僕らは大丈夫だ。もう終わる」
広臣は太一に頷き、太一も不敵に笑って剣を振り上げた。
「こいつを倒せば終わるはずだ。じゃあな、エルフ」
太一が剣を振り下ろそうとした、その瞬間。
空を覆い尽くすほどの「矢の雨」が降り注ぎ、アインシア軍を襲った。
「なんだ!?」
太一たちは咄嗟に後退する。
「遅れてすまんのう! このバカがもたつくからじゃ!」
獣人族を率いるゲルドが、猛然と駆けつけてきた。
「しょうがないじゃろ! まだ準備が終わってなかったんじゃ!」
ボンド率いるドワーフ軍も、重厚な装備を鳴らして合流する。
その後ろからは、鳥人族の戦士たちが空を舞い、エルフの弓兵たちが次々と矢を番えていた。
「やはりまだいたか……。よし! 兵士たちよ、突撃するぞ!」
広臣が剣を高く掲げる。
「「「おおおおお!!!」」」
勇者と兵士、そして島の異人たち。
両陣営の叫びが共鳴し、ついにアリスティアの命運を懸けた全面戦争が始まった。
【アインシア王国艦隊・後方の船】
「前方より連絡です! 先遣隊、突撃を開始しました!」
兵士の報告に、聖女・夢野愛多は深く息を吸い、胸の前で手を組んだ。
「わかりました……。私も向かいます。聖女として、魔王を倒し……世界を救います」
彼女の瞳には、かつての仲間・空井奏多を失った(と信じている)悲しみと、それを乗り越えようとする強い決意が宿っていた。
だが、その戦場に待つのが誰であるか、彼女はまだ知らない。




