空っぽの器と勇者の器
「うむ。今日はこれくらいだろうな」
オウの言葉に、アリスは「は、はい……」と力なく応え、ボロボロになった胴着のままその場に座り込んだ。
一日の修行で魔王のマナの片鱗は掴んだようだが、真に使いこなすにはまだ時間がかかりそうだ。
「終わったか? じゃあ飯にするか」
ずっと見守っていた奏多が、穏やかな表情で二人に歩み寄る。
「主の修行は済んだようだな?」
「ああ。俺はどうやら『守王』として進化したらしい」
「えっ! もう終わったんですか? それにマオウ……? 呼び方は変わっても魔王には変わりないじゃないですか」
アリスが驚きと少しの不満を漏らすと、奏多は苦笑いしながら説明した。
「いや、『守る王』で守王なんだ。皆を守れる王になりたいって強く願ったら、そうなれたんだよ」
「そんな想いだけでなれるなんて……さすが奏多と言いますか、なんだか……ずるいですっ!」
頬を膨らませるアリスに、オウが口を挟む。
「ふむ。こやつの場合は【空きスロット】という特異なスキルによる影響が強いがな。だが、それを引き出せる主だからこそ我は従っておる。……力とは使い方によって変わる。力を得ても使いこなせねば意味がない。分かっておるな?」
「ああ。俺はスキルでこの力を手に入れた。だからこそ、今の俺に何ができるか、これからしっかり考えていくつもりだ」
奏多の真剣な眼差しを見て、アリスは少し微笑むと、立ち上がってパンパンと服を払った。
「じゃあ、お腹ペコペコですし、ご飯に行きましょう!」
三人は、修行場の喧騒を後にし、温かな夕食へと向かった。
【アインシア王国・東の港町】
「勇者様御一行の船だ……。なんて立派なんだ」
港には町中の住民が集まり、停泊する巨大な軍艦を見上げていた。
「見ろよ。町総出で俺たちの門出を祝福してくれてるぜ」
船の甲板から不敵な笑みを浮かべて見下ろすのは、剣聖・桐生太一。
「どうでもいいわよ。私たちなんてどうせ国の操り人形なんだから」
冷めた口調で応えるのは、大賢者・椎名萌。
「操り人形でもいいよ。僕たちにしか世界は救えないんだ」
中心に立つ勇者・甲斐広臣が、水平線の先を見つめて静かに言った。
「それに……魔王を倒せば、元の世界に戻れるかもしれない」
「だな。レベルも150になった。もうこの国じゃ俺たちに敵う奴もいねえしな」
「『この国じゃ』……でしょ? 王の話だと、天空国ドラゴニアには私たちより強い竜人の王がいるみたいよ」
「大丈夫だ。僕たちにはそれぞれの特別なスキルがある。ステータスで負けていても、この力があれば……誰にも負けない!」
広臣の強い言葉に、太一と萌も頷く。
「そういえば、夢野はどこにいるんだ?」
「愛多ならあそこよ」
萌が指差した先――港の広場では、聖女・夢野愛多が住民たちの怪我を癒やし、不安な声に耳を傾けていた。
「彼女は出航までの間、聖女の仕事をすると言っていた。責任感が強いからな、愛多は」
「はん。俺たちは魔王さえ倒せりゃいいのにな」
「あれが愛多のいいところなんでしょ! あんたも少しは見習いなさいよ」
そこへ、王国の兵士が駆け寄り、最敬礼を行った。
「申し上げます、勇者殿! 出航の準備が整いました。魔王の島へは、一、二ヶ月の旅路となります。どうかご武運を!」
その言葉を聞いた三人の表情が、一瞬で戦士のものへと変わる。
港で報告を聞いた愛多も、祈るように胸の前で手を組み、心の中で誓った。
(魔王……。必ず、この世界を救ってみせる……)
アインシア王国が誇る「異世界からの勇者」たち。彼らの正義を乗せた船が、ゆっくりと、しかし確実にアリスティアへと動き出した。
頭で良いようにまとまらない…。




