空っぽの器、進化する
「では、アリスよ。お前にはまだ秘められた魔力が有り余っておる。それを目覚めさせる修行から始めるぞ」
「はいっ! よろしくお願いします!」
アリスは白の胴着に黒い帯をきりりと締め、気合十分に返事をした。
場所は、奏多がスキルで新たに構築した塔の地下2階。どれほどの衝撃や魔力爆発が起きようとも、瞬時に修復される機能を備えた、まさに修行のための特別室である。
二人は魔王としての真の力を引き出すため、オウの指導を仰ぐことになったのだ。アリスが修行に入る一方で、奏多は少し離れた場所からその様子を眺めていた。
「主はスキルでなんとでもなるから、アリスの修行が終わるまで寝ていていいぞ」
オウにはそう言われたが、ドラコに手も足も出なかった悔しさが、奏多をここへ突き動かしていた。
(……とはいえ、修行なんてやり方、俺にはわからないな)
立ち尽くす奏多をよそに、アリスとオウの組み手が始まった。
「格闘でも魔法でも、好きなように打つがいい」
オウはその場から一歩も動かず、アリスの放つ猛攻をことごとく涼しい顔で捌いていく。
「ハッ! とりゃあ!」
鋭い突きや魔法を繰り出すアリスだったが、すべてが空を切るか、いなされてしまう。
「な、なんで……」
「お前の攻撃は直線的すぎる。もっと工夫をして戦うのだ」
「工夫……?」
「そうだ。今、この島には何のマナが漂っている?」
アリスは思考を巡らせる。
「ここには、元からいる皆のマナと、奏多のマナ……。あ!」
「気づいたか。お前はまだ、エンシェントエルフとしてのマナしか使っておらぬ。かつてここにいた魔王のマナは今もこの地に残っており、お前はその血を継いでいるのだ。それを使わねば、真の魔王とは言えぬぞ」
「真の魔王……分かりました! はあっ!」
アリスの魔力の色が、わずかに変色し始める。
「ふん。理屈が分かったところで、すぐに使えるなら苦労はせんがな。まあ……」
オウはちらりと奏多の方へ視線を向け、小さく鼻を鳴らした。
「願うだけで、何でもできてしまう奴もおるがな」
アリスとオウの激しい打ち合いを見つめていた奏多は、静かに自分の掌を見つめていた。
(俺のスキルは、この島を守るために使いたい。でも、今のままじゃ誰も守れない。皆を支え、守り抜く王……。守王としての力が欲しい……!)
その願いに呼応するように、奏多の視界に無機質なシステムメッセージが浮かび上がった。
《職業【新たな魔王】が【守王】へと進化しました》
瞬間、奏多の体内に爆発的な力が駆け巡る。ステータス画面の数値が、まるで見間違えかと思うほどの速度で上昇し続けていく。
(え? 魔王じゃなくて……守王? なんだこれ……)
困惑する奏多だったが、オウは組み手の最中にその変化を察知し、わずかに口角を上げた。
(やはり、我が認めた主よ……)
「え? どうしました?」
「なんでもない。修行を続けるぞ!」
「はいっ!」
アリスが再びオウに飛びかかる。その裏で、奏多は自分のステータスに驚愕していた。
部族長たちを凌駕していたはずの数値が、さらに数百倍という未知の領域にまで跳ね上がっているのだ。そして、新たな力が脳内に直接刻まれる。
《スキル【守王の加護】を獲得しました》
【守王の加護】:奏多が守るべき者たちのステータスを飛躍的に向上させる。
(これなら……皆を守れる……!)
拳を握りしめた奏多の瞳には、先ほどまでの迷いはなかった。アリスティアを守る真の王としての覚悟が、その身に宿ったのである。




