空っぽの器、冒険に出る
【アインシア王国・王の間】
「陛下! 至急お伝えしたいことが……!」
慌ただしく駆け込んできた兵士が、床に膝をつき声を張り上げる。アインシア王は鷹揚に頷き、「申してみよ」と短く促した。
「はっ。魔道班からの伝令です。先日、魔王の魔力反応が出た方角にて、魔王の魔力が完全に消失したとの報告がありました」
「何……? して、魔王は消え去ったというのか?」
「それが……魔王の魔力は消えましたが、そこから新たに、別の膨大な魔力反応を捉えたとのことです。その反応は東の海に突如現れ、現在『島』として顕現しております!」
その報告に、アインシア王の目が鋭く細められた。
「島と言ったな? ならば、言い伝えに聞く異人の島……『原初の孤島』かもしれん。至急、勇者たちを招集せよ。それと……あの忌々しいトカゲ共にも連絡を入れるのじゃ」
【天空国ドラゴニア】
天に浮かぶその島は、空の上とは思えぬほど青々とした緑に覆われ、豊かな海や川が独自の生態系を育んでいた。大陸ごと浮遊するその国の中心、雲を突くほど巨大な城の最上階で、一人の竜人が眼下の雲海を見つめていた。
「懐かしい匂いがするな……」
その呟きは、風に乗って静かに消えていった。
【アリスティア・浜辺】
「なんか、ついこの間のことなのに懐かしいな、ここは」
奏多は独り言を呟きながら、寄せては返す波を見つめていた。ここは自分が初めてこの島に流れ着いた場所であり、すぐ近くにはアリスが一人で孤独に住んでいた小屋がある。
思い出に浸っていると、それをぶち壊すような元気な声が響いた。
「奏多ー! 外が! なんだか遠くに島が見えますよー!」
「はぁ……」
奏多は小さくため息をつきながら、声の主――アリスの方へと歩き出した。二人は壁を壊したことによる変化を確認するために浜辺を訪れていたのだ。
「もう! 遅いです!」
「ごめんごめん。で、島ってのは?」
奏多が指差す先を確認すると、隔離されていた時には決して見えなかった他の島の影が、水平線の向こうにうっすらと浮かんでいた。
それだけではない。【魔力操作・極級】を手に入れた今の奏多には、この島のものではない異質なマナが風に乗って流れてくるのを感じ取ることができた。
「ちょっと見に行きましょうよ、あの島!」
「あのなあ、俺たちは確認しに来ただけだろ? クルスからも『まずは防衛設備を整えるのが先』って釘を刺されただろ」
「うう、少しだけなのに……」
両手の指をツンツンさせながら拗ねるアリス。
(可愛い……うーん、仕方ないか)
「よし、わかった。じゃあ少しだけ、な」
奏多が頷くと同時に、意識を集中させる。
《スキル【創造物体】を獲得しました。空きスロット8にセットします》
もはやスキル獲得も手慣れたものだ。奏多は即座にその力を発動させた。
「――創造物体!」
光が収まった奏多の目の前には、白く輝く小型の舟が出現していた。
「舟だ!」とはしゃぐアリスを見て、奏多は(もう驚いたりしないんだな……)と内心苦笑いする。
「じゃあ早速、冒険に行きましょう! 奏多!」
「ああ、行こうか」
こうして、新たな魔王と魔王の末裔による、二人だけの小さな探検が始まった。




